ロスト・ガール


「ぴ、ピカチュウ……」
私の目の前で力なく倒れていく相棒を眺めながら、
私自身は、何故かひどく冷静な気分だった。
ロケット団のアジトに単身で乗り込もうなんて考えたときから、
すでにもう私の運命はこうなる風な定めだったのかもしれない。
やっぱり大人の言うことは聞いておくものだ。
ワカバタウンを旅立ったときに見送ってくれたウツギ博士、お母さん。
まるで走馬灯のように思い出される、今まで戦ってきたトレーナー、ジムリーダー。
はは、*、駄目でした。此処でおしまいです。

私自身も、がくりと膝をつく。
ヘルガーを従えたその人は、ゆっくりと私の前に歩み寄った。
きっと、さっき倒れたピカチュウみたいに火炎放射を浴びせられるんだ。
黒焦げになって、フスベの山に埋められておしまい。
はじめから私など存在しなかったかのように、ロケット団は活動を続けるのだろう。
「お前はよく頑張りました」
アポロさんの冷たい声が頭上から降ってくる。
自分でも、震えているのが分かる。
馬鹿みたいだ、私。こうなることが覚悟で来たはずなのに。
「私…、死ぬ、んですよね」
当たり前なことを聞く自分が恥ずかしい。
おや、とアポロさんが首をかしげた。
「こうなることは覚悟の上だったと思うんですがね」
ヘルガーが、ふん、と鼻を鳴らす。
私の愚かさに、笑っているのだろう。
「お前は良く頑張りました。…そろそろ、頑張るのを止めたらどうです?」
その言葉の意味。
よく分かっているはずなのに。
怖い、怖い怖い。
死ぬのが? そうだ。私は死ぬのが怖いんだ。
「殺さ…ないで……」
馬鹿、馬鹿馬鹿。私の馬鹿。こんな恥ずかしいことを言うなんて。
嗚呼でも怖いものは怖いんだ。怖い、怖い、馬鹿、馬鹿。
「残念ですが、お前には死んでもらわなくては」
アポロさんの声に、覚悟を決めて目を閉じた。
震える、腕が。声が、足が。全身が。

はさり、

何かが、私の肩にかかった。
「顔を上げなさい」
その声に、恐る恐る目を開けて顔を上げる。
アポロさんの顔が見えた。
肩にそっと手をやると、何か布のような手触り。
そっと掴んでみると、それは黒い服だった。
「今、お前は死にました。今までのお前は、綺麗に。
これからは、我々のために働いてもらいましょう」
ぽん、と頭の上に帽子を乗せられる。
私の目の前のアポロさんの顔が揺らぎ、ぼんやりとした。
ああ私は泣いているんだ、ようやく理解した頃には頬を涙が伝っていた。






10/03/28







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