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闇と桜の木の下で [2] | ナノ
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闇と桜の木の下で [2]


「どこへ行くんだ?」

 京一が自分の少し前を歩く。オレは迷いなく進む京一に声をかけた。

「エボに乗って……ある場所に行く」

 夜の帳は降りて、西の空はまだ紫色の空が見える。早春のひんやりした空気が鼻腔を擽る。なんだろう、冬から春に変わるせいか、空気がなにか違う。京一の言葉を聞きながら、不思議な気分できょろきょろしてしまった。

「ほら乗れ」

 駐車場に停められていた懐かしい覇者のクルマ。それに全力をぶつけて勝利した。助手席を開けられ、エスコートされる女性のようにされて乗り込む。
 続いて運転席に乗り込んで来た京一が、厳しい目でこちらを向いた。

「……おまえ、なんてツラしてる」
「……どんなツラだ?」
「いろはに来た時も変というか……険しかったが、今は……」
「……」
「痩せて、痛々しい……能面のように表情がない」
「――――――そんなこと、誰にも言われたことはないけど、な」

 嘘をついた。啓介や史浩には何度か心配されていたのだから。オレの返しに更に京一は顔を厳しくし

「おまえに見せたいものがある」

と言ってエボVを発進させた。


 車中は取り留めのない会話をした。この男の剛の者と言える走りはなりを潜め、まるで優しい運転に少々面食らったのもある。こんな一面もあるのか――――――あったな。そう言えば。クルマや走りのことに関しちゃ角突き合わせても、普段の対応においては京一はぶっきらぼうで荒々しく見えるから気づきにくいが、どちらかというとオレに対する振る舞いは紳士だった。

「ちゃんと食べているのか?」 
「なにを……食べているよ」
「そうは見えんが……」

 最近の食事など味気ない、食事を楽しむというより、腹が減るから補充するような感覚だけど。元々がそこまで食に興味はない。作業をしながらさっと食べられるサンドイッチなんかはお気に入りだ。

「心配性か? 京一」

 呟いた声を京一は捉え

「おまえのことはな……この間のいろはでの突っ込みといい。俺からすれば――――その頃からおまえは普通じゃない」
「……そんなことはない。いつものように、ちゃんとお互いの走りの哲学を議論しあえたじゃないか」

 京一はふと視線を落としたが、顔を引き締めて前を向いた。

「……まあいい」

 助手席で、一時は激しくバトルをしたクルマの音を聴く。そして、このクルマを具現化したような厳つい容姿の京一と話す。室内も真っ黒だ。インパネの明かりがあるが、まるで闇の中にいるようだ。

「ーーーー黒い、な」
「何がだ?」
「クルマも……車内も」
「……まあな。おまえのFCも外装は白くとも中は黒だろうが」
「……ああ」

 自分から振った話題というか、何気なく呟いたセリフからの流れでの会話なのに、FCのことを言われて胸に冷水を浴びたような感覚になった。

「そうだな……」

 それ以上、FCのことを言われたくない気持ちからか、語尾が霞む。

「黒がどうしたんだ」

 筋を通したがる京一が本題に立ち返らせた。助かった……と少しほっとした。

「いや――――――ある時期から、黒い色が苦手になったんだ。特に身につけるものとか」
「黒が苦手?……ほう」
「前は全然平気だし、そんな風になったことはなかったんだけどな」
「ふむ――――――黒は闇や死の色だからな。苦手になった頃に身近な誰かが亡くなったとかか?」

 そうだ。京一が聡明な男だということを思い知らされた。


 低い音を立てて、幹線道路をエボVは走る。皇帝の駆る漆黒のクルマは、まるで京一を具現化したようだった。厳つく、荒々しく、凶暴な走り。輝かしい戦歴。その気高い黒に包まれるのは、なんだか嫌な感じはしなかった。





「少し前に、ある男から俺に連絡があった」

 がつがつと音を立てて京一は歩く。エボVを停めて歩く先、あたりは不気味に静まり返る。心細く佇む外灯。そして見えてきた倉庫のような建物、その横に桜らしい木々が何本も立っているのが見えた。

「そいつは俺のチームのヤツで、そいつの知り合いがやらかしたと」
「……なにを……」

 何台もクルマが停まっている駐車場、なのに人気のない、それでも警備器類などは十分に生きているのだろう、点々とそこいらに小さな明かりが見える。よく見れば作業場だろう、ピットである建物の横を通り、奥まった裏の少し開けた方へ二人歩く。

「山の中、辺鄙なところでありえないものが停まっていた」
「……」
「運転してたヤツはあるところでコイツを見つけ、手に入れたらしい」
「……」

 ゆっくり歩いていく先、桜の木々が満開の花を揺らす中、よく見れば、桜の花びらをたくさん振り落とされた褪せた灰色のシートが見える。京一は迷いなくそちらへ進む。シートはすらりとした曲線を描いていた。

「ある日、解体工場に運ばれてきたと」

 そのシートに手をかけて、京一は要所要所の留めを外していく。オレはただ、立ちすくみその光景を見ている。

「――――――この」

 京一はシートを掴んで大きく腕を引き上げた。まるでスローモーションのように――――――音を立てて舞い上がる花びらと、シートから現れたのは。
 もう鉄屑になったと思っていた

「FC3S――――――おまえのだ」

数か月前に手放した愛機の姿だった。



「――――――事故をしたのか?」
「いや……偶然、俺のチームの奴が停まっていたコイツを見つけてな」
「……」

 見る限り、FCの外見には事故を起こしたように見えるようなへこみや傷はなかった。

「……なんでも操縦不能になったらしく、ぶつけはしなかったらしい」
「……操縦不能……」
「そいつもな、バイト先にこの超有名なFCが来たのを見て――――――しかもモノはいいのに確実な解体希望だったそうだ。そりゃあな、潰すのが惜しくなったのか勝手に乗ったんだと。しかし、なかなか走るのも畏れ多いと隠していたらしい。だが走らないと痛めてしまうかと思って、ひっそり山の中を走っていた。そこで突然、停まっちまったと」
「……」

 京一は見事に白く輝くFCに、そっと労るように手をかけた。桜の花の輝きを受けたFCは奇跡のように美しかった。

「言っちまえば犯罪だしな――――――困ったソイツが俺のチームメンバーに助けを求め、俺に話が来た」
「……」
「つい最近だ。そしてレッカーでこの整備工場に運んで、ひととおり調べさせたが、どこも悪いところはなかったらしい」
「――――――見てくれてたのか」
「まあ、軽くな。だが、俺にはおまえがこいつを手放すとは思えんでな」
「……」
「コイツも……おまえと繋がる俺に見つけて欲しくて、自分から止まっちまったんだろう」

 そう言いながらオレを見つめる、オレが操るFCの最後の輝く姿を見た男が言う。その眼差しはあの日中禅寺湖で別れた時のものとは違った。痛々しそうに、そして慈愛が満ちた目でオレを見つめる。
 なんだがそんな目で――――――誰かに見られるのもずいぶん久しぶりのような、いや――――――そんな目で、オレを見つめる人間なんていなかった気もする。オレに向けられるのは奇妙な好奇心に畏怖に、妙に気を使った目、憧憬、何事かを計ろうとする目、挑発的な訳知ったような目、だった。

「俺は氏神が二荒山神社なんだが」
「……?」

 京一が突然、会話を変えた。不思議そうな顔になったオレを見ながら、まあ聞けというように目配せをしてきた。

「二荒山神社は日光の修験道の地でもある。修験道は仏教や道教が合わさったものだが……道教においては」
「……」
「黒は死の色ではなく、魔除けであり邪気を祓う色だ」
「……そうなのか」
「そうだ」
「……」

 先の車中での黒色に関する会話で、京一は気づいていた。オレの様子から「死」が関わっていることを。
 オレは本能的に黒に邪気や魔を祓って欲しいと求めたのか。
 黒はーーーーーー京一は、エボVは祓いなのだ。

「なにがあった? 涼介」

 闇夜に輝く満開の桜が、さわさわと音を立てる。

「言いたくなければと、言ってやりたいが……俺に話せ」
「……」
「涼介」

 そうだ。この――――――オレを何者でもなく、一人の人間として見ている黒が祓い、葬り去る。それを求めたんだ。オレは観念して、全てを預けるような気持ちで口を開いた。

「おまえの推測どおりだ……人が死んだ。最初に一人。そして、……それから二人。もう一人は人生を破壊された。直接的には四人。しかし間接的にはもっといるだろう。数人を不幸にした――――――オレのせいだ」

 苦しげに語った事実を――――――抑揚のない言葉を京一はただ黙って聞いている。

「気づいたらそうなっていた。オレは――――――彼女が先輩の婚約者だと知らなかった。彼女はいつの間にか近づいてきて、何度も呼び出されて会った。オレは彼女とどうこうなるつもりも、ましてや先輩から奪うつもりもなかった」
「……」
「知らぬ間に、クルマで峠を走る悦びを教えてくれた先輩から、彼女との輝かしい未来を奪ってしまっていた」
「……」
「でも、――――――実際そうなんだ。先輩から警察署で言われたことは正解だ」
「……」
「彼女が自殺しようとしている、そういう電話だと気づいたのに警察にも、誰にも知らせず放置したんだ」
「……」
「オレがなりふり構わず警察や大学に通報していたら、おそらく助かったはずだと」

 このことを伝えると、オレは合理性を美学とする京一に軽蔑されるかもしれないと思った。

「……ふん……おまえはなぜ放置したんだ?」

 その声音に棘も、責めもないのが意外にも感じながらーーーーーー少し安堵した。

「なぜか――――――それはオレにもわからない」
「……」

 いや、本当にはわかっている。だが言いたくない。オレの気を引くためにあそこまであっさりとオレの人生を否定する人間の行く末が見たかったなどと。

「ふん……まあいい。それで?」

 京一はおそらくオレの戸惑いに勘づいたろう、だけど、本当にオレが聞かれたくない事に踏み込んで来ない――――――そういう男だ。

「そして、彼女の両親が後を追い、先輩は行方不明、箱根の死神になった」
「――――――箱根の死神? そいつの話は聞いたことがあるな……スパイラルの池田が注意喚起として情報回してたな」
「アレを作った元凶はオレなんだ」

 ゆらりゆらりと桜の花びらが舞い落ちる。オレと京一の間にゆっくりと。

「で、どうしてコイツがこうなる」

 左手でコンコンと京一はFCの屋根をノックした。

「事態が最悪の方向へ動いたからだ。チームを組んで弟を引き連れ、夜ごと派手にスポーツカーで暴走するなどと。先輩とはクルマがきっかけで親しくなったしな。流石に親は――――――放っておけない。故にそうしろと」
「……親には頭が上がらないって理由か」
「医学生で跡取り、だしな……クルマもだが特に今回、色々と大きな金が動いたんだ。オレも無傷じゃいられないだろう」
「……なるほど」

 京一は深い溜め息をつきながらFCを見つめ言葉を繋いだ。

「今回、こうやって保護されたが、このクルマなら売り飛ばされたり、バラして売られたり。そうなる前にこうなって良かったぜ……」

 FCを目を細めて見つめながら、京一は思慮深げに話す。

「俺はな。おまえにこのクルマを降りてほしくない」
「……」
「こんなことを俺が言う立場じゃないのはわかっているが」

 FCから視線を外してオレに向き直り、確固とした面持ちで言った。

「このFCはおまえそのものだ。俺が、捕まえようと手を伸ばす唯一のクルマだ」

 こんなことを。京一は何のてらいもなく実に自然に言う。

「だから……おまえ自身がまだ乗っていたいのなら、諦めずに乗っていて欲しい」

 バトルも、走りも。京一は実に真っ直ぐだ。自分自身というものを疑いようもなく、自己に存在させ否定も過剰な自己愛もない。誇り高いと言えばそうなるのか、ただプライドが高いとは違う、上を真摯に目指す人間の気高さなのか。

「京一、そういうところは、オレにはない……」
「ん? なにがだ」
「おまえの真っ直ぐさ。それこそがオレのライバルたる所以、なのかもな……」

 京一はふっと肩を揺らし、微笑んだ。そしてこれまで見たことがないくらいの優しい目で話しだした。

「……俺はおそらく永遠におまえを追う」
「……」
「なぜかはわからんが、そういうヤツが人生に一人はいるもんだ。俺にはそれはおまえだ」
「オレが……走りを止めたり、FCを降りたら……」
「それでもだ」
「……」
「おまえは俺のターゲットだ」
「京一……」
「俺にリベンジさせろ。そのためにもおまえそのものの、このFCに乗っていてくれ」

 そう言いながらオレを見据え、ポケットから取り出したのはFCの鍵だった。
 その鍵を目にした瞬間、一陣の風が桜の花びらとともにオレと京一に吹き付けた。途端に、あの事件から今の今までまるで曇天の中、灰色の世界で機械のように生きてきた自分の奥底に、生命溢れる清い水が流れ込むような感覚になった。徐々に心の澱が溜まる底から光が注がれ、身に魂に染み渡るように色がついていく
 黒く汚れていたものが鮮やかな色に変わっていくのを感じた。赤のイメージは虚空へと黒が葬り、輝く桜の色が鮮明に、目にも頭の中にも心の中にも広がり満たされていく。
 あれから今まで、こんなに見事な色を目にしても。見えてなかったのだ。感じていなかったのだ。だが今、回路が開くように自分の身も心も目覚めていく。
 そう言えば桜も死の象徴だ。鮮やかに花開いては、すぐに散ってしまう。だけれども、再生、生の象徴でもある。
 闇と桜が。オレを引き戻す――――――生の世界に。そして鮮やかな色を取り戻す。

「あ……」
「大丈夫か?」

 感じたことのない感覚の開花――――――それにたじろいで体が揺らいだ。その身を京一が淀みなく動いて肩を支えた。
 ああ、そうだ。黒は闇の色でもあると京一は言った。闇は白い彗星を何より輝かせるんだ。

「オレは――――――FCに乗って……また、おまえと」
「ああ……そうして欲しい涼介」
「……」

 黒と白、闇と彗星でもう一度。

「辛かったな……おまえは……」
「……」

 京一の身に、京一の手に包まれた懐かしい鍵。そしてーーーーーー初めてオレ自身の痛みに向けられたいたわりの言葉。ふっと何かが抜けたようになって、目に熱いものが溢れた。

 涙が溢れたのを京一は気付いたようだった。節くれた手を伸ばし、オレの涙をそっと指で掬う。そして、顔を向けて桜とFCを見つめる。

「綺麗だ――――――桜の中のFC。まるで……」

 おまえのようだ、と京一が小さく呟く。死の黒に滲んでいたオレの身魂、もうそうではなくなったのだろうか。この闇色の黒は憂いを祓い、温かく、懐かしむように彗星の白を包む。やっと帰ってきたなと言うように。ここがおまえの居場所だと言うように。
 ああ、対なのだ。色もその姿形も、オレたち二人も。だからオレはあの時、いろはへ行き、手を伸ばしたんだ。助けて欲しいとこの黒に。

「――――――京一……」
「……」
「ありがとう……」

 踏み出した足は、大きな革のブーツの間に入った。伸ばした腕は更に太い腕が迎えた。包まれた厚みのある大きな体はすっぽりとオレの細い体を包む。オレの腕は張りのある背に回り、逞しい腕はオレの後頭部と背に回り、強くーーーーーー優しく抱き締めた。



 満開の桜の木が居並ぶ中、FCは守られるように眠る。
 FCにカバーをかけ、二人でエボVへと向かう。FCは諸々のことが済むまで、ここに保管してもらうということを京一は申し出てくれてオレはそうしてもらうことにした。
 そもそも一番の難関である親の説得が待っている。

「……今回のこと、まだまだ根深く――――――そして長引くと思う」
「話をかいつまんで聞いただけだが、おまえは完全に被害者で巻き込まれただけだと思うがな」
「加害者だよオレは……先輩側にも彼女側にとっても」
「そうか? 確かに恨みは買っているだろうが、元はと言えばその二人の仲でのことだろうし、おまえに女が言い寄ってきたなら結局はそうだったってことだ」
「……」
「しかも隠して動いてたなら、そこには疚しい計算や損得がある。なおさらだ」

 エボVの車内で、京一は静かに話す。そう言えば、父親もなんだかんだ言いながら同じように言っていた気がする。

「向こうがどう思おうが、それは放っておいたらいい。考えるな。親父さんの言うようにとりあえずの体面ってのがあるが……毅然としてりゃいい」
「毅然と? あそこまでの事態になったのに」

 いい加減な会話をしているわけではないと思うが、京一からの言葉に疑問で返した。

「ああ……おまえが原因じゃないなら毅然としておけ。それが真実だろう?」
「……」
「おまえが通報しなかったのも、おまえの中に答えがあったからだ」
「……答え」
「女はあてが外れたかもしれんがな」
「……」
「本気で死ぬつもりなら、助けられそうな……そんな電話しねぇぞ」
「……そうか」
「そうだ」

 オレはエボVの中、俯き額を手で抑えた。

「悪かったな。どっちみち、気持ちのいい話じゃないが」

 オレが項垂れたのを横目で見た京一は言った。

「いや……合点がというか、腑に落ちたというか……なぜオレだけに電話をとか、……不可解なことにある意味納得が行った」
「そうか」

 オレは深い溜め息をつきながら言った。

「彼女が選んだ結果であって、誰かにやらされたことじゃない。彼女は自分でそう選んで、そうなった」
「……ああ」
「オレも……自分の意思で立とうと思う」
「親父さんにFCに乗ることを許可してもらうってことか」
「そうだ。オレはまだまだ、FCに乗りたい」
「なんなら俺が出てもいいぞ」
「え?」

 京一は運転しながら楽しそうに言った。

「おまえの親父さん、母親もいてもいいな。弟はうるさそうだからどっかにやっておけ。おまえにFCに乗らせてやってくれ、俺にリベンジさせてください、お父さんって土下座しようか?」
「……は……なんだそれ、京一、おまえ、それ!」

 オレは腹の底から久々の、もうどれくらいそうしてなかったのかわからないほどの笑いが出てきた。

「ああ、まるでプロポーズだ。どうせなら涼介くんを俺にくださいって言っちまおうか」
「やめてくれ、腹が痛い〜〜〜」

 京一にこんなギャグセンスがあるだなんて本当に意外だった。厳つい顔をして、こんな軽口も飛ばすなんて、FCを気にかけ救ってくれたどころか、オレの心情を思いやってこんなことまで言うなんて。なんて男だと思った。

「じゃあまず、花見がてら二人でメシでも食って作戦を練ろう。見事な桜の木がある美味い飯屋を知っている」

 京一がオレを見る。まるで愛しいものを見るように。オレは、こんな情を受けてもいい存在だったんだと実感させる眼差し。こういう男だった。走りのことでぶつかり合う以外は、心配性で、優しい男だった。

「花見か、いいな。オレも腹が減っていたんだ。おまえと美味いメシを食べたい。期待している」

 京一と話していると、久しぶりにモノを食べたいという欲求が湧いてきた。今からの食事はきっと、生涯忘れられないほど美味いだろう。
 
「ああ、任せろ」

 ふふ……と笑みが出ると同時にエボVがパァン!と叫ぶ。ポケットの中で、オレの愛機の鍵が応えるように小さく音を立てた。


闇つつむ  桜の下を ながむれば 安らぐ色に 白 眠る   西行法師 「雲にまがふ」改編


了    


Pict
2024/4/20

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