Revision Affair Folktale [2]
「……おい、京一さんに知られないようにしろよ」
「って、言っても最近じゃあんまり多いからなあ」
いろは坂を下り切って馬返しにまで行くまでのそこここは。京一が涼介に説明したようにそういった連中を見つけて取引めいた交渉が済んだあとに行く場所だった。
よくいろは坂を通る我が皇帝にあんまり大っぴらに見られるのも気まずいというか。こういうことがままある世界に住んではいるのだから、もちろん咎めはされても本気でチームを辞めさせられるまでもないだろう。
「清次さんもけっこう食い散らかすけどなあ」
「そうそう、清次さんも好きモンだけどなあ、あの人はいろいろ他にもいるし上手いんだよ」
「だよなあ……っと、レディ達がお待ちかねだぜ」
「おう、今日もスッキリしようぜ〜、おまえはあっちのお股広げてる姉ちゃんな」
森の中に少し入ったスペースに、シルバーのエボWとスコーティアホワイトのエボZ、エボXが、黒いミニバンの前に停められていた。
「ねぇ……はやく〜噂がホントか確かめさせてよぉ〜」
「Emperorの男、愉しませてよねえ」
「キャハハ〜やだ〜期待してるからぁ」
媚を甘さを満面に載せた女性達の声と、下卑た男たちの笑い声が重なっていった。
珍しく明智平にはクルマがなかった。時間も時間だし、観光客もいない。たまに女連れなのだろうそれらしい金をかけたクルマが来ては、うるさい音を立てて用を済ませば足早に去っていく。
暗い山を見ようにもほぼなにも見えないし、月明りと星が照らすのを頼りにするだけで。何かをしようにも背に白い、このあたりでは威厳そのもののステッカーを貼った厳つい黒いクルマが、低くアイドリングをしながら停まっているのを見ると落ち着かないのだろう。
その側に夜目に慣れた二人が佇み話している。一人は早春の夜にしては珍しく春を思い起こさせるようなぬるみのある風にふんわりと着込んだベージュのトレンチコートを揺らされ、ゆったりとしたネックのセーターを着て、濃い辛子色のスラックスを履いている痩身で、もう一人は更に上背も大きい、首まわりに毛皮がついた黒の革ブルゾンに暗いカーキ色のカーゴパンツにブーツという出で立ちだ。
さらに頭には夜目にも映える白いバンダナを巻いている。そのスタイルは、ここ明智平、日光では皇帝のスタイルだった。
「ふん、女連れでここ、皇帝の玉座でなにかしようってのもな」
涼介が気まずそうに去っていくクルマを見ながら腕組みをしながら言う。
「まあ……ここじゃそういうことをしてても、いつチームの奴らや観光客が来るかわからんからな。するなら下って……」
「俺たちがした剣が峰展望台を超えた大谷川そばのあそことかか?」
「……まあな」
藤原拓海と小柏カイのいろは坂でのバトルの後、弟・啓介と明智平で観戦に来ていた涼介はそのあと、いろは坂を下った剣が峰展望台を超えた右にあるスペース、馬道発電所へ行く道へ繋がる場所で野外での性交を楽しんだ。その様子は当サイト2021年の京涼の日にアップした[SS Deep]「Falling in Affair」に記されている。
「あのセックスは良かった、最高だった」
「そうか? その前に皆がいるのにおまえがこの裏で突然フェラするからだろうが……気づかれないようにさっさとイクために偉い集中したぞ」
「ふふふ……おまえのをしながらオレもイッたぞ……濃厚なミルクを口に出されながら迎える絶頂は素晴らしかった……」
涼介が意味深な流し目をしながらタバコを吹かす京一に言う。すっと二人の距離が縮まったような気がした。
「そうだ。知らん間に自分のアレを扱いて俺のザーメンを飲みながらイクとか、本当におまえは好きものだ」
「嫌いじゃないだろう……?」
熱っぽい目をした涼介が京一の胸に手を這わす。近づいた肢体の腰に手を回し、引き寄せる無骨い大きな手。
「それに、見られるのが好きな変態だろう? 涼介」
「酷いな京一……そんなオレに欲情して勃起するくせに」
艶めいた前髪がチラチラと熱に孕んだ目を隠す。京一は苦笑して覗き込むように囁く。物言いは厳し目だろうが、扱いは酷く繊細で手懐けるように優しい。
「ふ……確かにな……乱れるおまえはそそる」
エボVに凭れていた京一が火の点いたタバコの先端を親指で弾いて火を飛ばし、火の消えた吸い殻を携帯灰皿にしまう。火花が散ってすぐに消えても、紫煙がまだ漂う夜の明智平で、二人は苦笑した。
その気になってしまったのだから仕方がない。キスを求めた涼介をエボに押さえつけて、口蓋を犯し、悦びの声があがるまま服の中をまさぐった。まだまだ冷たい早春の夜なのに、熱くなっていくのは内芯が融けてきているからだ。
「……誰か来るかもしれないぞ京一……」
寒さでか、興奮でかで尖った乳首をコリコリと弄られて息が上がった涼介が、唾液でねっとりとした舌を京一と絡めあっている間に囁く。
「そういうのが好きなんだろうおまえは……この前も本心は俺のチームの奴やおまえの弟が見る前で犯して欲しかったんだろうが」
「ふふふ……見抜くな京一…………そんなこと、言われたら……」
「ここが疼くか?」
気づくと降ろされたジッパーの中にするりとに手を入れられて、温かく湿った下腹に長い指が這う。
「あっ……は」
先程から頭を擡げ、疼いて来た性器に触れられ、漏れ出た無防備な声が京一の笑みを引き出す。
「あいつらの目の前で俺のモノを悦んで舐めしゃぶって、突き出したケツにズコズコ突っ込まれているのを見せつけるのはどうだ……」
「んっ……ふ……そんな、ああ、いや……」
後穴が収縮しているのは、指で濡れた花芯の先端をくにくにと触れられているからだけではない。
「何が嫌だ。ずっぽり皇帝の×××を咥えこんでる××××と、嬉しそうに溶けたツラを見られたいんだろうが…お望みならいつでもヤッてやるぞ、淫乱な高橋涼介……」
「ああ……もう……」
この場でフルネームで呼ばれると一気に私的で淫らな自分から、堅い優等生の仮面を被った公的な自分に引き戻される。内面は暇があれば京一とのセックスばかり考えているのに、素知らぬ顔で家族や仲間、医学部の人間と接するような自分が。そのまま公的な場で自分に欲情させられているかのような錯覚に陥る。
「だろう?……いやらしい顔をして×××ももう濡れ濡れだ。いったんイカしてやろう」
弱い裏筋を濡れた男の指でくちゅくちゅと擦られて、膝と腰がガクガクと揺れる。涼介は縋るように、そして更に逞しい体を自分の体に引き付けるように、京一の腕をしっかりと掴む。
「嫌だ……っ! 京一、それは!」
太い指でいかにも手慣れたようにもてあそばれ、快楽と羞恥に喘ぐ涼介は興奮しきった性器にひんやりとした空気を感じた。
「ピンク色の可愛いのが顔を出してやがるぜ……」
「いや、や、あ……」
眼下に、スラックスのチャックから引き出された己の性器が、蠢く京一の手の中に隠れたり露出したりするのが見える。
「外で出すのも気持ちがいいだろう?」
唇を噛んでかぶりを振り、本気で跳ね除けようにもこの男の手管が善すぎて抵抗できない。震え、蒸気し赤らんだその身を半身に抱え込まれ、背と腰にあたるエボVの冷たい車体さえも、熱を帯びる気がする。
京一の回された手が涼介の顎を掴み、口を開けさせる。いたぶるようにタバコの香りのする舌を挿し込まれる深いキスに、涼介の頭は何も考えられなくなる。
「んううーーーーー……んふ、ふう」
口を大きく開けさせられ、追われてぶつかり合う舌が立てる水音と荒い息。濡れそぼった陰部を速いスピードで扱く、粘着質な音がする。それが耳から下半身へ、そして口腔と電流のような愉悦が同期していく。脳髄から甘く痺れて、思考を失くす。
そして京一は、低く笑うと満足そうに涼介の口腔を大きく舌で蹂躙し、頬、そして耳へとその唇を持っていく。
「皇帝の統べる地で×××出されて扱かれて……善がるおまえを誰かが見てたらどうする?」
「いや、そんな、こんな……オレ、あああ……アッアア……んふぅ」
「皇帝の寵愛を受ける……后の取り澄ました普段の姿からは、かけ離れた淫らな姿を」
周囲によく見えるように根本を掴み、からかうように上下され、手遊びの玩具にされる。高橋涼介の恥ずかしい部分はここだと、周囲に見せつけるようにふるふると揺らされる。
「嫌だ、イヤ、やめてくれ京一……」
「ビンビンだぜ涼介……露出して悦ぶ淫乱め」
快感のあまり硬く張り詰めているのを笑われる、先端は浅ましく口を開いて涎を垂らしているから、明智平駐車場の外灯と星明かり、もうしばらく日が経てば満ちるだろう歪な月に光る明かりに照らされて、光る粘液はまるで銀糸だ。京一のリズミカルな動きに銀糸が波打ち、中に舞う。
京一は涼介の耳に舌を挿し入れて、低い声で涼介を追い詰めた。
「湯気出てるぜ……×××、気持ちよさそうだな涼介、かわいい奴だおまえは……そら出しちまえ」
「あ、アッ!……×××、だめだ、イヤ、イイ! もっと、ア、イク……っ!」
伏せていた余裕のない顔が涙目で目を見開き顎を上げたかと思うと、その表情は迎えた絶頂に花開くように一気に幸せそうな顔になった。切なく寄せていた眉根が融けていくと、霞みきった目は閉じていく。 何度も前に腰を突き出し、自ら京一の手に擦りつけて濡れ膨れ、パクリと開いた鈴口から射精する。 京一の忙しなく動く指を濡らしながら、赤みの増した性器から冷たく暗いアスファルトに、重みのある白い精液を何度も飛ばす。
「いいぞ、いい子だ……たくさん出たな」
「いや、ア、まだ、ア、出るぅ、……」
がくがくと膝を震わせ、縋りつきながら胡乱な目で京一に言う。その目を受けて京一は舌を突き出し合い、タッピングする淫靡なキスをする。嬉しさに慄く亀頭を濡れた指で優しく撫でられて、まだ小さく射精する。その度に本心は愉悦に喜んでいるような、鼻から甘えた声が出る。
そして京一は先程から聞こえてきた馴染みのある特徴的なクルマの排気音が、ついにこの明智平駐車場に向かってきたのを見て、片目を眇めてニヤリとした。
「京一さん! 来てたんですか?」
厳ついランエボ\が轟音を立てて、自分達が佇むエボVより少し離れたところに停まったのは、流石に快楽に翻弄され、汗をかいて呼吸を乱す涼介が気づかない訳がない。
「おう。中原、おまえらはこれからか?」
「いやー、他にもいたんですけど降りたとこで女何人か拾っちまって、馬返しの左んとこで始まってますよ」
「お盛んだな……ったく」
咥えた煙草を口端に咥え、ZIPPOを腰で器用に着火させる。
「あれ? 京一さん ……っと女性連れ……え」
京一を見つけて嬉しそうに駆け寄る男の足がだんだん遅くなってきた。
「ああ……連れてるのは高橋涼介だ。ちょっと具合が良くなくてな」
「……」
実は明智平の駐車場にエボが入って来たときに、ぎょっとした涼介が慌てて京一の手から逃げようと腰を引いた。が、後ろはエボVがあり、横に逃げようとするも京一の屈強な左腕はそうさせなかった。せめて射精をさせられ、その上にこの事態に力なく露出させられている陰部をしまおうとするも、ニヤリと笑う京一がまるで男に見せつけるように揺らす。涼介は慌ててコートで隠そうとし小声で叫ぶ。
「京一っ……!」
「わかったわかった」
涙目で抗議すると頭に巻いてるバンダナをすっと外して涼介の濡れた陰部を拭ってポケットにしまい、元気が無くなり色味まで白くなったモノを下着の中へ収めてさっとチャックを上げた。
「エボに乗る!……開けろ!」
低いエンジン音がひときわ大きく唸り、軽快にドアを閉める音が響く。少し離れたところに駐車されたエボからは、一人の若い男が降りてきた。涼介は余裕の態度でいる京一を睨むと厳しい声で言う。
「断る。もう少し愉しませてもらう」
「は?」
そう言うと涼介の体をさらに自分へと引き寄せ、何をすると言いかけた涼介はひゅっと息を飲んだ。
「わ……本物の高橋涼介だ……京一さんが連れてきたんです?」
「そうだ……俺の運転でいろはに来たいと言って乗せて来たが、どうも四駆でいろはは苦手らしい」
「……」
「へえ! 京一さんと仲良かったんですね!」
京一は何事もないように朗らかに近づく青年に声をかける。涼介は先程から青くなったり赤くなったり自分がもうどうなってしまうのか、欠片の理性で立っているだけだった。
「まあ、そりゃなあ……涼介」
「……っ」
指が。器用に緩められたベルト、細いウエスト、薄い腰ゆえの緩みから手を尻に入れられ、あまつさえ自身の精液を潤滑剤にして太い指を後に挿入されている。それはグニグニと波打つように蠢き、さっきの欲情から熱を帯びて刺激を待っていた粘膜を優しく慰撫する。
「ええ? 流石に白い彗星なら四駆でも平気な気もしますけど、そこはやっぱり京一さんの凄いテクニックのせいじゃないんですか?」
「俺のテクニックか……そうなのか? 高橋涼介」
「ん……っ!」
淫らなことをしていながら素知らぬ顔で。フルネームで涼介を呼ぶ。隠されているとは言え、自身が公的な高橋涼介である他人の前で、ヨガらされているのは事実だ。
「……ん? どうした?」
ぬっぷぬぷと中を動いていた指が、深く挿入されてしこりをノックする。もう収まっていた股間も物欲しげにどんどん勃起して、再び濡れてきていた。必死でコートを合わせて膨らみを隠すも、膝が腰が、抜けそうになる。甘い電気のような刺激を、じっくりと確実に送り続ける京一の指をもっと欲しいと粘膜が貪欲にねだって足が開き、腰を突き出しそうになる。
「そん、なこ、と……は」
この若い男の目の前で。下半身を晒され、前を扱かれながら後ろの穴にも太い指を何本も挿入されて、激しく出し入れされたらどんなに気持ちがいいだろう。
いやらしい言葉で追い詰められ、愉悦に尻を振って射精する、それを視られて更に高まってもっと見て欲しいと笑みを零し、皇帝たる京一にいいようにされて悦ぶ赤城の白い彗星。
エリートな医学生、走りのカリスマ高橋涼介の本当の姿を知って男は自分を軽蔑するだろうか。それともグロテスクにも恥知らずな光景に驚いて逃げ出すだろうか。まさかとは思うが、男同士とは言え性的行為を目の当たりにし勃起し、性欲を掻き立てられて我慢できずに自慰をする、そんなことは……。
欲望を抑制しなければならないのに、京一の指があまりにもエロティックに動く。知り尽くされたイイところを浅く深く、じっくり速く、ねっとりした愛撫で確実に追い詰めて来るから淫靡な波に翻弄されて溺れてしまう。
「ふ……う」
いたぶられる粘膜はもちろん、京一の指をあさましく引き入れ、蠕動している。快楽がもっと欲しくて後孔を収縮させ、自然に腰を揺らしてしまう。もっと中の、もっと奥のと体の深くがぎゅっと絞られ、熱く求める。
涼介は唇を噛み、フッフッと鼻で呼吸すると、耐えきれずに下を向いた。
「え、やっぱ凄い具合悪そうですね? 大丈夫ですか? 俺なんか飲み物買ってきましょうか?」
下を向いた視界に、先程冷たく黒いアスファルトの上に放った自分の精液が、白く光っていびつな線を描いているのが見えた。それを自身を心配する若い男の靴か踏む。
そして飲み物を買いに行こうと、足の向きを変えた男の靴底に粘着質に糸を引いたのを見て、涼介は官能的な目眩と共に限界を迎えた。
「悪かった。な?」
明智平からトンネル、そして中禅寺湖へと向かうエボVの中。涼介はコートを被り、後部座席で丸くなっている。
「……おまえは酷い男だ」
「……悪かった、拗ねやがって……かわいいなおまえは」
「……」
「ほら、買ってきてもらったあったかいミルクティでも飲んどけ」
「……」
おずおずと手を出して受け取り、カシュッと音をさせて、温かいミルクティをごくりと飲む。
先程、数分前。
気づかれるかもしれないのに、Emperorのチームの若い男・中原と呼ばれた男の前で京一に弄ばれた。羞恥と快感に翻弄されて必死で堪えたものの、その男の靴に踏まれた粘つく自分の精液は、自分が欲しいと思う男という生き物を具現化したような京一を。
渇望し欲しがる、浅ましい欲そのものに見えた。もちろん、衆目の目に晒されるかもしれないという危機感と、羞恥に酔わされた自身もいる。京一がそういった涼介自身の中の被虐の性質を見抜いて、ぎりぎりのところまで追い詰めてくるのが、またこの男の走り、クルマそのものに思えて歯がゆい。
「心配すんな、中原は気づいてないだろう」
「……」
「男の前で密かにケツマン弄られてイッちまうとか……おまえも愉しんだろう?」
実はものすごく良かったなんて言えない。ただ下着の中で発射してしまってものすごく分が悪い。涼介はあのあと、くぐもるような小さな悲鳴を上げて絶頂を迎え、倒れそうになったところを京一が淀みない動きで後部座席に寝かせた。
そしてチームの若い男が買ってきた飲みものを受け取り、会釈するその男にじゃあなと合図をするとエボVを走らせ明智平を後にした。
涼介は気まずそうに缶をホルダーに置くと、不機嫌な顔で車内の中にあったティッシュケースから数枚取り出し、下着の中をゴソゴソとしながら拭いている。
「下着が濡れた……」
「このあたり、コンビニは下まで行かないとないんだ。行ったら買ってやる」
「おまえなんか……嫌いだ」
「俺は大好きだぞ」
「……」
反論にもいまいち力がない。京一はバックミラーをチラと見ては笑みを浮かべる。京一は余裕綽々で、あれだけ自分に淫らなことをしたのに、欲情の欠片も見えない。襟一つも乱れやしないとはこのことかと思う。
涼介はこの憎らしい男を睨むも性的な疲れもあって迫力もない。疲れだけで終わればまだいい。前と後ろをいじられ、二回も射精させられたのに、欲深い体は逞しい腕、厚み胸、強靭な腰……低い声で囁かれ甘く堕とされることを欲している。まさにステアリングを握る骨ばった大きな手、シフトチェンジする大きな逞しい手に目が行く。後ろから見える男らしい耳や顎、太い首や僧帽筋、逞しい肩を物語るラインも。魅惑させられているようで腹立たしい。
この男の、京一の手練手管で刺激を受けて熟した粘膜は、もっと大きく熱い熱塊が激しく打ち込まれ、掻き回すのを欲しがっているのだ。
「……く」
ひくひくと後孔が、腰の奥が疼いている。まだ足りない。涼しい顔で暴力的に男っぽいクルマを自在に操るこの男がもたらすあの快感が欲しい。
「そら、俺たちが愛を誓いあった思い出の場所だぞ」
じゃりじゃりと地を踏む音、そしてキッとサイドブレーキの引く音がする。涼介は後部座席からまだ不機嫌そうな顔を出していた。
「おまえの男はいやらしいことも好きだが、ロマンも持ち合わせているぞ」
「……」
フロントガラスの向こうには、エボVや外灯、宿泊施設の明かり、そして薄雲がかかったレモンのような形の月、まばらな星あかりが黒々とした湖面を照らす。
「あの頃のままだなここは」
「……」
京一はステアリングに手をかけ、湖面を見つめる。涼介は腹の中でふつふつと湧いてくる何かに顔が険しくなっていった。
「京一……」
地を這うような子安声がエボVの車内で聞こえた。
「ん?」
「ロマンも思い出話もけっこうだが」
「?」
京一が振り返ると、怒りで顔を真っ赤にした涼介が飛びついてきた。
「うおっ……!」
「バカ京一っ!!」
細い体を活かして運転席と助手席の隙間に半身を滑り込ませ、振り向いた京一の首にしがみつき強引にキスをする。
「ちょ、ま」
「んんんーーーーーー」
「待てって」
京一がしがみつく涼介を引きはがす。涼介は赤い顔で京一を間近で睨む。
「おまえが悪い! さんざんオレを……!」
「わかったわかった!」
「ここでおまえに跨ってするぞ!!!」
「ちょっと待て! 流石にここは人が」
「人の前でオレをもてあそんだのは誰だ!」
「っと、いつものあのホテルに……だめだ満室だ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜京一っ!」
器用に後部座席から身を乗り出している涼介が、京一の服を掴んでぐらぐら揺らす。
「わかったから! ちょっと待て! 下るから! いろはを!」
「早くしろ! バカ!」
エンジン音がひときわ大きくなるとエボVがまるでラリーのように砂塵を上げて転回をし、中禅寺湖を後にした。
「まだなのか! おまえのシフトレバーを咥えるぞ!」
「〜〜〜掴んで揉むなおまえは〜〜〜」
これはめったに見られない皇帝の全開走行? と思えるくらいの走りで。いろはをぎゅんぎゅん下るエボVは、運転席の京一の股間を怒りか欲情かの目で後部座席から触っている高橋涼介が乗っている。慣れたいろは坂下りなのに、たまにエボVの挙動がブレるのは涼介のせいであろう。
「待てって!……! 剣ヶ峰は……車がいてだめだ」
「以前のアソコは!」
「もう着くが……くそ、ありゃチームの奴だ、女拾って青姦してやがる」
「オレだって早く青姦したい!!!」
涼介の心の叫びがエボVの車内に木霊する。第一のトンネルを走り、1つ目の橋、そして2つ目の橋を渡る。エボVは藤原拓海とのバトルでアクセルを緩めた右コーナーも躊躇なく爆走する。そしてメロディ道路(注:2023年春から開始ですがあえてここで登場させてます)を走るも、速すぎる速度ゆえにメロディであるモンキーマジックは一瞬でエボVの後方へと消え去る。
「緊急退避所も封鎖されてるな。仕方ねぇ……少し待て!」
「もう我慢できない!」
いろはを下り切ったエボVは馬返し駐車場の手前を左舵を切った。
じゃりじゃりと音をさせて、道路から少し入った暗い森の中の舗装されていない野良道を行く。
「このあたりでチームの奴らがいるかもしれねぇんだがな……、っと参ったな……やっぱいやがったか」
京一はなるべく静かな運転であたりを伺う。そして奥のスペースに三台の見慣れたエボと、派手に内装がピンクに飾られたミニバンが停められているのを見つけた。
「なんなんだ……もしかしておまえのチームの青姦野郎がいたとかか」
「そうだ、だから場所を変えるからもうす……」
まで言ったところで京一の言葉が止まった。
to be continue 2024/03/08