Revision Affair Folktale [1] | ナノ
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Revision Affair Folktale [1]



 風説の流布、そして民間伝承というものがある。
 確かに自分たちEmperorはろくな噂がない。観光地であっても夜はひっそりとした日光、その奥にあたる山深い明智平で。
 厳つい男たちが厳つい車に乗って、普通車の排気音ではなく大音響、そして重低音を轟かせ、夜な夜なアスファルトを削るようなスキール音までさせて数十台が集まり走るのだから。
 大人しい田舎の人達の中には眉をひそめる連中もいるだろうが、完全にその土地の人間ならば、チームEmperorが本当に傍若無人な、ルールを知らずわきまえもしない余所者からその地を守っているとわかってるというのもあるが。
 この地の生まれの人間ももちろん多数参加しているゆえに普段、その土地の人間との関わりもしっかりとは持っている。
 だからというのもある。そして、あまりその内情を知らない噂だけを鵜呑みにする連中もいる。
 前者は知り合いや顔見知り、伝手など。後者は目を引くようにと期待を持っているのだ。

 昔からあった噂にさらに最近輪がかかった
「Emperorの男たちはアレがでかくて持続力も凄く、テクニックも一流でセックスが上手い」というこちらとしては頭の痛いモノ。


 もうすぐ桜の花も咲くだろう、梅の花もちらちらと見るようになる早春の、栃木、宇都宮の一角。

「否定しないだろ」

 ニヤニヤと笑いながら、休日の夜半、二人で食事を外で済ませたあとの時間。涼介は須藤京一の部屋のソファの上で寝転ぶ。

「……否定もなにもな」

 言い澱むのはまあまあデリケートな話題だからだ。

「おまえは実際そうじゃないか」

 意味深どころか喜色満面なうえにさらに妖艶さを乗せて涼介は手を伸ばす。初めてのバトルーーーーいろは坂において命がけの戦いをし、その夜に身を重ねた。
 体だけの関係を続けて一年半、死神と呼ばれた北条凛と死闘を繰り広げた神奈川の件から、秘されたお互いの思いを伝えあった二人は、今やどこからどう見ても恋人関係であろう。

「…………どうもな」

 いわゆる性的な実力をよくよく知る人間からの賞賛であろう、だがセクシュアルな問題なだけに手放しで喜ぶのもなと思っていると。

「ちょっと待て、昔からあった噂だと言ったな?」
「言ったが」
「このオレとそうなる前からか?」

 ソファから身を乗り出して詰め寄る涼介の勢いに、京一はなんとなく思っていた地雷を踏んだ気がした。

「そうだ」

 かと言ってなにも取り繕う必要もないとも思う故に。

「……どうせおまえと寝たたくさんの女達が広めたんだろう……Emperorと言えばおまえだからな」
「……あのな」

 そういうことが実際に広まった噂の原因とまでは言えないが、要因ではあるのかないのかと京一はこめかみが引き攣る。

「まったく……おまえと寝たい女なんて山ほどいるだろう? 有名走り屋チームのTOPとセックスしたい尻の軽い、頭の弱い女なんて掃いて捨てるほどいるからな」
「それじゃおまえもそうなるが」

 ソファににじり寄って涼介に気まずそうに言う京一に鋭い目を向けて

「オレは女に興味はない! 下は立たんが鳥肌が立つ!」

と、きつめの顔を更に鋭くしながら憤然として言う。だが少ししてキリリと寄せられた眉根が互い違いになっていったと思うと。

「……おまえ、まさか女どころか男まで、とかか?」
「は?」
「Emperorが厳つい男ばかりなのはそういう意味もあるからなのか?」
「ちょっと待て」
「男同士のアレが好きなゲイ、ホモセクシュアルは厳ついマッチョが好みだものな! Emperorの中にもそういった奴がいてもおかしくない!」
「涼介」

 ソファから身を乗り出し、怒る猫のような涼介を京一はやれやれとなだめようとする。

「どうなんだ!?」
「あのな……そりゃチームの連中の性癖まで俺が知り尽くしてるなんてことはねぇが」

 頭が痛いと言わんばかりに京一は額を抑えて涼介に言う。しかし、確かに京一自身へハートマークな視線を飛ばす、それも憧れであるならまあいいのだが、それ以上の粘度の高い熱視線を送る輩がいるのも事実だ。

「ゲイもいるかも知れないと? そうだろうな、そこはオレのRedsunsもそうかもしれない」
「……」

 時折、ねっとりした視線で涼介を見つめる作業スタッフ(松本)や、涼介の弟であるFD乗りの啓介にこれまたねっとりしたハート目で纏わりつく人間(ケンタ)をうっすら記憶の淵から思い出した京一は無言になる。

「走り屋とセックスしたがる女以外に、Emperorのメンバーをおまえは…………」

 涼介は座らせた目で京一にいっそう低い子安声で呟き

「ねぇ! 女はまだしも男は一度もない!」

と、手をブンブン振って否定する京一を叫ばせた。



「ふうん。じゃあ、男ばかりの塾でもなかったと」

 涼介の追求はさらに過去に及ぶ。東堂塾での頃の性生活も洗いざらい尋問される勢いだが、京一も痛くない腹や少々腹に持つなんとかをこれ以上探られ、掻き回されたくはない。

「……男で迫ってきたのはそっち方面が奔放な智幸くらいだがそれだけだ」
「舘智幸……彼とは親友だったと聞いたな。確かにイイ男だったが……」
「まあ……な」

 Affairシリーズ の涼介は、忍び込んだ那須塩原市の東堂塾専用コースで走るチャンピオンシップホワイトのEK9とエボVとの異次元のバトルを目撃し、そのエボVの走りに惹かれてドライバーを捜し、見つけた。そして、とある走行会にて初めてエボVのドライバーである須藤京一と出会うことができ、恋に落ちた。
 しかし、その恋は。
 叶うはずがないと切なく京一への思いを秘めるうちに、箱根での死闘の原因となった北条凛の婚約者・香織に接近され、何度か接触を持つうちにより深い関係へと進むように、そして行動するようにと既成事実の成立を求められた。

 高橋涼介のような、外見もスペックもハイレベルな若い男に対して、憧れやアイドル、スターのように恋焦がれ、中にはそういった肉弾戦に持ち込もうとする女性もいることはいる。
 だが、涼介に対してたいていの女性は畏れをなし、手も触れられない孤高の王子様であるとし、目に入れただけで至福の満足を与えられるということになる。よほど自分に過剰な自信を持つ勘違いをした者以外、己の身の程を知らされまくるという枷を自ら、或いは知らぬまに持ち、グループや団体にあってはそれが不文律という空気が当たり前にいつも発生、定着していた。
 だが彼女はまるでそういう気配を見せず、先輩であるからと畏れも憧憬もなく当然のように近寄り、涼介がそれまで味わったことのない女性からのマウント、常に立場が上からの発言をしてきた。
 大人の女性のようにしたり顔でアドバイスという名の禅問答を繰り返し、答えられないと子供の無邪気さで断罪する。自由奔放に振る舞い、ウィンドウショッピングをするように気軽に自身を「むしろ不幸よ」と爪で弾く。
 ここまで尊大な態度や言動で繰り返し一人の人間の人生を否定していながら、なおかつ傷つけた側に自分を拒否されることは、天地がひっくり返ってもありえないという何らかの自負、自信があってこその数々の発言。
 いくら、涼介も同じように尊大であるというイメージを持たれていても、ここまで相手を傷つけるだろう辛辣な言葉を平気で、それも延々と繰り返し相手の心を切り刻むなど到底したことはないし、することもできない。
 結局、自分を押し殺し、根が優しく自己犠牲の性質を持つ涼介にはできない芸当を彼女は子供のような無邪気さでやすやすと超える人だった。
 「今まで出会ったことはないタイプ」のこの女性は涼介が思い悩む自分自身の悩みーーーー性癖などの何らかの答えへのヒントを持っているのか?と錯覚させるにじゅうぶんだった。
 だが、彼女の振る舞いの本当のところを垣間見れば。
 暗喩を含めながら実質は既成事実の成立を迫るものであったのだ。

 肉体関係を持とうという彼女の誘いに涼介は応じられず、その時体に触れられたことに言いようのない違和感を抱いた自分をはっきりと自覚した。
 その時の感覚、そして自分のはっきりと自覚した自身の性の質。想いと比例して募る京一への性的な恋慕。そんな自分自身を持て余し、夜の新宿二丁目にある、その手の界隈へと赴いた。
 その詳細は二年前の京涼の日に当サイトにアップロードした[SS Deep]「Affair Instead その代わりに」に記されているが、それはいわゆるゲイの男たちが集まるバーへ、涼介が自身の性癖を確かめたく訪れたというものであった。
 そこで舘智幸と偶然出会い、一夜を共にしたことがあるというものである。もっとも香織に無邪気に、己の生のそれまでと行き先を否定された悔しさと。進ませようがない京一への恋慕から智幸の前で心情を語るうちに泣いてしまい、そんな涼介を見た智幸は実に紳士に涼介をいたわり、性的な行為はしなかったのである。
 後にプロジェクトDが東堂塾と対戦した二戦目に初めてお互いがあの時、あの夜の人間だったと素性を知り、バトルのあとに親愛を交わすような電話での会話をしたのだった。
 あれ以来、涼介の中に舘智幸が相当にお気に入りの存在になったようだが、京一があからさまではないが、智幸に向ける複雑な嫉妬らしきものが見え隠れし、それがまた涼介には心地が良いということになっていた。


「そういえば。かわいい後輩の二宮だったか、EK9の彼もいたが」

 大輝のことを言われて京一は溜息をつく。

「アイツは当時、智幸の手付きだった。今はちゃんとした付き合いもしている」

 そうなのか? と涼介は眉根を上げる。

「舘智幸は中々いい趣味をしているな……おまえは塾外で女と付き合ったりか?」
「まあ……そういうことだ」

 少々眉根が寄せられた涼介の顔を京一は気まずそうに見る。

「おまえはなんかありゃ俺をヤリチンにしたがるが、なんでだ? 俺も普通の男だからそっちも人並み程度でそれなりってなもんくらいだ」

 この発言も何度言ったろうと。深い溜息つきで語られる京一の心情を知ってか知らずか、涼介は意味深な目で京一を見つめる。

「龍の子孫とも言われる皇帝と自称、他称を自認する男が普通とは片腹痛い。付き合いのある女もいれば、それだけの関係の女もいたんだろう?」
「……まあ……普通だろう、それくらいは……」

 気まずい。やはり非常に気まずい。そこまでそういった方面が放蕩だったとは言えない部類だとは思うが、やはりこういったことを本命には口にはしたくない、しづらいのが男心というか人情だ。

「好みはどんなだ? オレは女避けにバカな巨乳女は嫌いだと公言している。そういうタイプはバインバインするような乳房を見せつけるようなことをしたり、わかりやすく体で来ようとするからな。厄介なのは結局は同じ目的なのにそれをおくびにも出さず、実のところ策を練って近づいて来る狡猾で打算的な女だが」

 憤慨して真顔でこちらを見ている涼介はきちんと例えたのだろうか、その顔から出るバインバインに吹き出しそうになるも……後半の思い当たるふしに。なんとなく、京一は涼介の言いたいことを汲み取る。

「まあ……そうだな。一途で健気な……色気のある女が好みだが、一途過ぎてもクルマに夢中な俺とならかわいそうな気もしてたな」
「……」

 ポロッと過去の女達に対する思いを言ってしまってから京一はまずったか? と涼介を見ると平静な顔をしている。

「わかるぞ。それはわかる。したり顔で近寄ってきて付き合いたがるくせに、オレたちの夢を理解しようとも見ようともしない。”女の子を幸せにしてくれる人”とか、ふざけたことを言ってきたり、自分の欲のことしかない女は大変だからな」

 なんとなく話の筋が斜めにズレたようなーーーーしかし、やはり言いたいことなんだろうという気もしたので京一は軽く頷いた。

「オレは医者でエリートで実家もそうだ、かなりな歴史もある北条家には叶わないが近いくらいには資産家の一族だしそこの次期当主を約束された男であり、この顔この見た目、品の良さだ」
「……」

 この流れではやはり出た名前に、確かになと言ってやりたいが、とりあえずは涼介の言葉を待つ。

「そんなオレの夢の形がいつも乗っているFCだなんて誰も思わないし、気づきもしなかった。家族でもだ。このスペックを持っているのに……クルマなんてそれこそ、もっと値の張るスポーツカーや外車でもよりどりみどりに買えるのに。国産のマイナーなクルマで走ることが夢だなんて、まさかと思うよな」
「……」
「弟啓介は、買ったFCを熱心に手入れするオレの様子に気づいていたようだが、その頃はアイツも荒れて家に中々いなかったしな」
「ふむ」

 少し懐かしげに、少し寂しそうに涼介は語った。話題が少々逸れてほっとした京一であったが

「で、色気のある女って具体的には? 付き合った女の数、寝た女の数は?」

閉口するような、閉口したいような話題を蒸し返された。




「マジか。そうか……岩城は人気者なんだな」

 なんとも微妙な話題に困り果てた京一からの提案で、京一の部屋から抜け出して日光へとドライブへ向かったエボVの車内。
 暗い夜道を走るも、次第にまた話題がそういった方面へと行ったが、京一は矛先が親友に向かってわずかにほっとした。ともすればそれは、涼介が聞きたがったのもあったのだが。

「アイツは陽気だからな。いろんなタイプの人間と躊躇することなく仲良くやれる」
「なるほど……うちにはいないタイプだな」

 黒い木々を街頭が照らし、流れていく。エボVの重低音がなる車内の中、二人の会話は続く。

「清次とは高校の頃からバイクを乗り回して卒業まで一緒だったが、アイツはその後数年間アメリカに行ったんでな。帰国してEmperorに入ったから日光から近い那須の塾のことも隣県のおまえのことも、俺とのいろはでのバトルも知らなかったんだ」
「そうなのか……しかし、オレとの一年ぶりの再会に二人で赤城に乗り込んで来て、オレとしては複雑だったしムカついた」
「ふ……妬いてたのか、かわいい奴め」
「お洒落して行ったのにだ」

 運転席から助手席をチラ見すれば、子供のように口を尖らせた容姿端麗な高橋涼介がいる。そっと手を伸ばして京一のシフトを持つ腕の服を握りまでしている。
 あの高橋涼介が。京一はそのギャップに口端が歪む。
 サーキットで峠で。会っていたときの凛とした、だが纏う空気がどこか孤独を感じさせるような風情とは全く違う。

「それだけモテるならさぞ女関係も派手だろう? Emperorにあんな不埒な噂があったなら」
「清次は確かに入れ食いに近いか。アイツの癖みたいなもんで、寄ってくる奴を可愛がるつうかいろんな女を慰めに行くって感じか……」
「……マメだな。岩城は」
「ああ見えて頼られたら嬉しいみたいでな。ほどほどにしろといつも言っているが、アイツの特性なのか揉め事にはならんようだ」

 黒々とした山を木々の間を見ながら、手慣れたシフト操作をしていろはへと向かう。4G63型のターボエンジンが慣れた道に軽快に響く。

「……おまえだって頼られるのはキライじゃないだろう……甘やかすのも上手いじゃないか」
「……」
「EmperorのTOPの須藤京一に一度でも抱かれたい、皇帝の逞しいセックスを味わいたいなんて女がしなだれかかってきたら……」
「いやいや……そういうことはねぇこともねぇが、おまえならまだしも……」
「オレはしなだれどころか、いきなりキスをしてエボVでのセックスを誘ったが」
「……」
「ちゃんと準備もしてきてたんだぞ、色々と」
「……バトルのあとにそのつもりだったってことか」

 呆れたような京一の声がする。

「……もし、二人生き残れたなら、かな」
「心中まがいだったからな、あのツッコミは」
「……だがおまえはオレを受け止めた」
「俺はおまえと本物のバトルをしたんだ。FCを、おまえを傷つけるわけにはいかねぇ」

 涼介の、京一が好きだという気持ち。そして思い煩うその隙に入り込んできた香織。強引にある方向へと動くように持って行かれながら、何故か突然の自殺。誰かとは最期まで伏せられていたが、親しくし、自身の生涯の夢になったクルマの楽しみを教えてくれた恩人とも言える北条凛が、香織の婚約者だったと聞かされた。
 警察署で。
 これまでの人生であれほどまでの怒り、悲しみ、憎悪を向けられたことはなかったほどの。
 凛や香織の両親の慟哭を一身に向けられた。
 あの時の全てに絶望したような気持ちが綯い交ぜになって、逃げるようにいろはに赴き、香織の言葉を借りて邪悪とも言える物言いをして、受け止めた京一と走ったバトルは。
 この身と愛機が共に炎になってもという思いと覚悟と、それでも決して自暴自棄ではない、生き残りたいゆえに。
 京一の生涯にも欠片としても残って欲しいと最高のドライビングを刻み、昇華した。それは一瞬のバトルでも苦しみから解放され、このまま終わって欲しくないと思うほどに、だった。



 本題に立ち返ってきたなと思いつつ、京一はそう言えば……とつぶやいた。
「なんだ? 京一。この話題になると歯切れが悪いな。やはりヤリチ……」
「そのお綺麗な顔でヤリチン言うな」

 京一が苦笑しながら言うと涼介はいたずらっぽく

「あの時はもっと下品なことを言うし、叫ぶぞ?」

掴んだ服の上から意味深に指を這わせてきた。



「マジか……」

 京一が思い当たった話をしてやると涼介は目を輝かせて聞いている。エボVが日光宇都宮道路を軽快に走る中、先程の話題から京一は以前からもまあまああった噂だが、そういえば最近、チームの連中の中でも女関係がだらしない奴ら、ノリでいろいろやってしまうような奴らが遊んでいるというのを耳にしていたのを思い出したのだ。
 走り屋目当てというか、それこそ目をかけられ助手席に乗りたい、それを自慢したいだけにとどまらず屈強で性にも強い男たちとセックスを楽しみたい、この近隣で憧れられる走り屋の雄Emperorの男と寝たと自慢したい。もちろん、満足させてくれるであろうセックスの良さも期待しての出向きを。
 けっこうな人数がしてくるのだから困りものであった。

「以前からそういう走り屋と寝たがる女達はいたが、とくに日光は目をつけられやすくてな。どうやら神話もあるし、民間伝承、言い伝えのようなものが古来からあるらしいんだが」

「言い伝え? 神話なら日光の神と赤城の神が中禅寺湖の主権を争った話なら有名だが」
「まあそれもあるな。日光の神が大蛇、赤城の神が大百足になって大戦争になったが、日光が大蛇ってのも精力とかアレを連想させるくらい男っぽいものだしな.。元はインドの蛇神が中国に渡って龍王となったらしいが、神橋も深沙大王が二匹の蛇を大谷川に渡して渡れるようになったとか、とかく龍や蛇の話がやたらに多いのは事実だ」
「赤城沼の神は女性だが、諸説あるとも日光の神戦の神話では赤城が大百足なのは不満だ」

 京一は素で聞いてくる涼介に言いづらそうに伝えた。

「まあそれ以外にもな、繁栄を象徴する男体山と女体山にその子供の山々、更に日光つっても今では群馬県にはなるが金精山に、ガバマンの女帝を骨抜きにした道鏡のデカマラを祀った金精神社、子宝や安産、縁結びや性的な病にものにもいいとされる……その地に生まれた選ばれた男たちは絶倫で女人に至福の悦びを与えるという」
「精力とか性的逸話だらけだな。それらに選ばれた……Emperorのようなものか。そう言えばそうだな……」
「それこそ子宝に恵まれたい女達や、他に縁結び、それどころか日光の手練男とヤッて、女としての魅力を上げて玉の輿を狙う女や、単純に欲求不満の女など至高の性の悦びを味わいたいみたいなのがわんさかやってきたらしい」

 涼介は。はじめのいろは戦も含め、京一に抱かれに日光へ何度も詣でたのだから、口を真一文字にして真顔になった。

「それは……否定できん」
「おまえもそうか、いや、とくに最近はなんでかそういうのがまた流行ってるようでな」
「……」
「おまえはさておき、そういう流行りに簡単に乗っちまう文字通り頭も股も尻も軽いってのがなんとも呆れるが……縁起もの関係で言えば辰年、巳年、午年と続くからか。……干支でもそれらは精力絶倫らしいからな」
「そうなのか!……オレとおまえは……巳年……」
「ああ……ねっとり濃厚なセックスでアソコもでかい絶倫だと」
「そのとおりだ」

 話が少し脱線しても、鼻息を荒く吹いた涼介に苦笑する。
 
「走り屋かじったようなクルマで乗り付けた肌もあらわなケバいかっこうをした女や、なんでか普通つうか……走り屋にぶら下がるような女でないような真面目そうなのまでがいろはを登って、エボが来るのを待ってるとかな」
「……RedSunsもそういったことはあるが、鬱陶しいしなにかあったりしたらこっちに迷惑が来るしな」
「さかってんのか知らんが……けっこう強引にエボを停めて露骨に誘惑してきたりがあったと聞く。それも複数でとか終わってるぜ」

 軽快にいろはを登る京一はランデブーモードだ。無理のない僅かなスキール音が夜の山に響く。馬返しの左側に流れる大谷川の川べりに行けるスペースと道が外灯に照らされて見える。涼介がふと視線を向けているのに気がついた京一が言った。

「ああ、こういうところの奥や下って入り込んだとこでヤッてたりしやがるんだ。あとそれっぽいホテルでとか。だがこのあたりは連れ込み宿はかなり下まで行かないとないからそこいらでヤッちまいやがる。俺も注意はしたんだが、やっぱり露骨に誘惑されりゃ若いしヤッちまう奴もいるだろうから。そういう女達と青姦しまくりだってことだが……そう言えばおまえはけっこうそれが好きだったな」

 京一の言葉を聞いて、ふふという意味深な濡れた目で涼介は笑う。そう、最初のセックスの誘いは中禅寺湖でエボVの中で、涼介から誘ったものだった。

「……ここがおまえの地元でなかったら、いつかの那須塩原の塾戦のあとの時のように走行中に口でしたいくらいだ」

 誘うようにシフトを持つ腕から、下へと手を移動させる。京一のカーゴパンツを履いた堅い太股にそっと触れる。

「……おい。これからいろはを上がるのに弄ってくんじゃねぇぞ」
「ふふ……少し上にあるジッパーの中にある皇帝をシフトチェンジしようか?」
「……ったく」

 二度三度、男にしてはしなやかな指先で京一の太股の感触を確かめると、物欲しげに股間へと目を向け、涼介は甘く溜息をつきながら言った。

「……そういえば前に聞いたことがあるな。昔のだがアレを咥えた女の幽霊がとか。都市伝説のようなものかと笑い飛ばしたが」
「ああ……×××線は昔からそう言われてるが、他の峠道にもそういう逸話があるな……だが、俺らが走り屋をやるかなり前からある噂らしいし、そういった女を拾って咥えさせて事故ってってのは昔からあったんだろうよ」
「……京一、おまえは例えいろはでもオレにフェラチオされながらの運転でも事故るなよ」
「当たり前だ」

 アハハと涼介の軽快な笑い声が唸りを上げるエボVの車内に舞った。

to be continue 2024/03/07
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