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Affair instead その代わりに [2]


 起きてみれば男の姿はなかった。
 涼介は朝の光が差し込む、広いコンドミニアムの部屋の中の清潔なベッドで目が覚めた。起きがけの回らない頭できょろきょろとしていると、ベッドサイドのテーブルにメモがひとつ残してあったのに気がついた。

『いつでも連絡待ってるぜ』と、走り書きと携帯の番号が書いてあった。

 あのあと、自分は酔いもあって疲れてぐったりとしてしまったようだった。しょうがないなと笑いながら力強く抱き上げられ、ベッドに運ばれたのは覚えている。特徴的なムスクの大人の香りと、逞しい腕、優しく響く皮肉を込めたような低い声を覚えている。
 心地よくて、抱かれて運ばれている間、太い首にしがみついていた。ベッドに優しく下ろされても離れがたかったのを覚えている。
 その腕に、その身体に。ほぼ同じだろう体格と、そしてどこか似た仕草、口調。
 意識しないわけがなかった。

――――――いっそこのまま、錯覚したままとも思った。

 泣いたのかもしれない。ただ、名を呼んでしがみついていたような覚えがある。
 額や瞼に。子供にするようなキスを受けたような気もする。
 大きな手も、自分を落ち着かせるように髪や頬を撫でた。
 それさえも、甘く切ない思い出に似ていた。
 ともすれば、あの男も自分をどうこうしようと思えばできたのに。いや、彼の男はそもそもあのバーにいたとしてもゲイだとはっきり言ったのか、そして自分のような、ゲイにはあまりウケなさそうなタイプが好みだったのかは確かめていない。

「無理に付き合わせてしまったかもしれない……」

 飲んでいたのもあった。そして胸の内を吐露したのもあって、涼介はまるで失態を犯したようにうろたえた。けれど、

――――抱いてやってもいいぜ?

との言葉を思い出し、少なくとも好みでないこともないかと少し安堵した。
 何かが変わること期待して、思い切って訪ねた新宿二丁目の老舗のバー。その店で会った大人の男。名前さえ、お互い聞かなかった。

「……気障だが……紳士だったな」

 ちらとメモを見て、それを手に取り唇に運ぶと

「ありがとう……」

と呟いた。


 パーーーーン……ドドド……と低い音、何台もの車の音が聞こえる。普段なら深い山の中、暗闇が支配して鬱蒼とした木々、森が不気味に枝葉を揺らしているはずだった。56号線の途中、山の中にかの有名な神秘的な池がある。その青さ、透明度の高さは好奇心の強い者を時折惹きつけては。その身体から生を奪う。

「来たぞ!」

 大きな音をたてて数台の車がその池に向かうために作られた駐車場へ入ってきた。それまでは早くからその場所に来ていた数台の車が、時折そこから軽快にワインディングロードに飛び出したりしていた。
 今は、そこまで広くない駐車場にある車の轟音が闇のしじまに木霊する。
 大声をあげて指示をするあちらのリーダーらしき男。ばたばたと人々が忙しく動き回る。
 それを横目にただ涼介はバンの中でノートパソコンを弄る。
 何度も走らせたデータをそれこそコース、環境、全てを踏まえて多角的に計算し尽くす。
 今日、今回はいろいろな面で追いつめられていた。そして、弟啓介には酷な判断を伝えて、本日のバトルに出る藤原拓海をFCに乗せた。駐車場を出るときにちらっと目に入ったが、意識はただバトルに向いていた。
 そしてコースを走りながら拓海にレクチャーをして駐車場に帰って来た時にレーシングスーツ姿の、本日のバトルの相手、プロのレーサーだという男を見て気がついた。

「……」

 横に座る拓海は気づかないほどの表面には見えない動揺だった。


「……オレです。お久しぶりです」
『よお』
「……あなただったんだ」
『ふ……久々の再会だってのにかっこわるいところを見せたな』

 僅差ながらこちらが勝利したバトルの後。
 携帯に登録してあった、数か月前に渡されたメモに書かれた電話番号に初めてかけた。もっとも、最初に登録した携帯はある時に処分して、最低限の連絡先しか移動させなかったのに、なぜかこの電話番号も引き継いだのだ。
 数回、呼び出し音のあと懐かしい声がした。

「どこかで見た気がしていたんだ……」
『……まああんな場所だしな』
「……あの時はありがとう……約束どおり、悪いようにはせずにいてくれた」
『食っちまってもよかったんだがな……誰かを思って泣く奴にそんなことできねぇだろ』
「……」
『……自分のややこしい事にケリはついたか?』

 涼介は自身のチームのバンの影で、電話の相手の舘智幸も己の陣営のバンの中で通話をしていた。

「ええ……1つは女性はこの世を去り、のちに彼女はオレの先輩の婚約者だったと知らされました……」
『は……とんでもねぇな』
「もう1つは……好きだった男とは自分の望むようになりました」
『そうか……良かったな』
「……かもしれない……我ながら酷いと思いますが」
『おまえがあの時呼んでた名、まさかと思ったが……これでわかったぜ』
「……」
『アイツなら……大丈夫だ』

 今夜のバトルの相手だった東堂塾のOBでプロレーサーである舘智幸は、須藤京一と同期であるというのを京一からの電話によって知らされた。
 その後、舘智幸は以前に自身が目撃した、東堂塾のコースで走っていたチャンピオンシップのEK9のドライバーではないかという疑念に頭が行き、以前、夜を共に過ごしたあの男とまでは考えが及ばなかった。
 
「京一とは……」
『親友……腐れ縁だ』
「数年前、那須塩原の東堂塾のコースを走っていた白と黒の二台は……」
『ああ……そりゃ俺と京一だ』
「どうりで見た走りだと思った……」

 あんな走りを、バトルをしたいと思う程に。見事だった。

『このごたいそうなプロジェクトはおまえの夢のある種の形、か』
「そうだ……」
『負け知らずの京一を二度、負かしたFCがいたってのはおまえだったんだな』
「……そうだ」

 涼介は撤収を叫ぶチームメンバーの声を背後に頷いた。

『そうか……おまえ、アイツとデキたんだろ?』
「……寝る、だけの関係なんだ」

 智幸は脱ぎ捨てたレーシングスーツを傍らに置き、煙草に火をつけた。

『そうなのか。……ま、アイツはおまえのことは悪いようにはしないだろうよ』

 くっと広い肩を揺らす。笑みを含んだ目は通話で繋がっている涼介に語りかけるようだった。智幸にも撤収を告げる若い男の声がかかった。

『じゃあまたな。いつか会おうぜ』
「そうですね、また……」

 胸にどこか温かい余韻が、途切れた通話のあとに残った。


 涼介は騒ぐチームメンバーを宥めて、ゴール地点から少し走った山の駅の駐車場に一人下りた。
 すぐに漆黒の車がやってきたのを、目を細めて涼介は見ていた。

「乗れ」

 ぶっきらぼうな男が助手席のドアを明ける。涼介は意味深に微笑むと黒い車に乗り込んだ。

「おい……」

 乗り込むとすぐに。運転席にいた男の首に腕を回し、キスを仕掛ける。

「興奮してるんだ……京一」
「……ったく、まだそこいらにギャラリーがいるかもしれんぞ」
「……かまわな……んふ……」

 絡み合う舌が言葉を途切れさせた。


「おまえ、本当にフェラが好きだな」

 京一の呆れた言葉を聞かずに運転中の京一の股間に顔を埋め、取り出した性器をじゅるじゅると音をさせて涼介はしゃぶっていた。

「ヒフほに……ひをふへろ」

 脈打つ幹を横から咥え、頭を上下させる涼介の邪魔にならないよう、呆れたようにシフトチェンジをする。

「おまえ、男の×××を美味そうにしゃぶってるところを見られるかもしれねぇってことに興奮してるんだろう」
「んふ……ふ、ん」

 頭から飲み込んで何度か上下すると、ぶはっと吐き出して硬度がさらに増して見事な筋張りをうっとりと眺める。そして鼻から甘い息を漏らしながら、涼介は満足げにそそり立つ男根を舐め上げ、少し顔を顰めて運転する京一を見上げる。

「あ……そうだ。あ、あ……赤城の白い彗星は……いろはの皇帝の×××が大好物だ」

 自分で言いながらも興奮しているのだろう。内股や尻や腰をもどかしそうに捩っている。快楽を知った後穴を物欲し気にひくつかせて、性器は涎を流しているだろう。
 
「事故るなよ……ほら、おまえの×××を舐めるところを見てくれ……」

 大きく口を開けてレロレロを舌を大きな亀頭に閃かせる。京一は視線を落とすと、苦笑しながら男根に力を入れて、涼介の濡れた舌をびたんびたんと肉棒で叩いた。

「ふふ……」

 涼介は嬉しそうに舌で肉棒を追う。捕まえて、裏筋や鈴口に忙しなく舌を蠢かし、睾丸を揉み上げ催促した。
 信号待ちをしていた夜の交差点で京一は何度か力強く性器を扱くと、期待に目を熱っぽく潤ませ、舌を出した涼介の喉奥めがけ、苦笑しながら大量に射精した。
 糸を引きながらびゅっびゅっと重く拭き出すそれを、喉を鳴らして飲み込み、口内で舌を遊ばせ絡む濁りを微笑みながら美味そうに味わっている。

「相変わらず、濃くて……ふふふ……おまえの精液、美味しい……」

 赤く発情した顔でキャンディをしゃぶるように、大きく張り詰めた亀頭、そして滲み出る精液を嬉しそうに舐める。

「まだ滲んで……ザーメン、おまえのザーメン……もったいない……」
「ったく……呆れた好き者だな涼介」

 京一の溜息は、涼介の口と性器から響く粘着質な音の合間に何度も吐き出された。


 京一の部屋につくと先にシャワーを早々に浴び、いちはやくベッドに腰かけた涼介は思い出していた。
 今日、バトルをした男、舘智幸。あの男もかなりのルックス、身体、そして扱いの上手さだった。彼は相手が男性でも女性でも、じゅうぶんに気分よくエスコートしてくれるだろう。それに一夜の相手として夢を見るならうってつけの相手なんだろうと思う。
 自分は、京一に恋をしても苦しいままで、余裕のない心の隙を赤い香りの女性につけ込まれたようなものだった。
 自分自身を持て余してゲイの集う街に行った。そして出会った智幸との一夜。
 まだ、誰にも触れられたことはない身体。智幸に京一を重ねてしまった自分は、この身を差し出してもいいかもしれないと一瞬でも思わせた男。

「待たせたな」

 逞しい身体もタオルを巻いて、京一は部屋へ戻ってきた。すぐにセックスをするためにバスタオルを肩にかけただけで、性器が見えているのを見て涼介の目は甘くとろけて舌なめずりした。

「ふふ……」

 すぐにそろそろと勃ちあがるものを咥え込む。重く揺れる睾丸も手で柔く揉んで、ここからもっと甘い汁を出せと言わんばかりだ。京一の性器が己の口を出入りする様も見られている。
 同性に口淫されて、この男がこんなに固くなっているのだと思うと嬉しい。熱心さに拍車がかかり、涼介は再び京一の精を口にした。



「あ……そう、なんだな……」

 京一の逞しい腕に組み敷かれて、シーツの上を掻く。深いキスから、頬や耳、そして首筋をたっぷりと愛撫されてたまらない。

「何年か会ってないがな……当時はずっと一緒にいた」
「……」

 だからどこか似ているのかと涼介は口にしかけた。

「プロになってからの走りも観てはいたが……やはり間近で車のスペックも近いものを見ると以前との腕の違いがよくわかる」

 耳殻や耳の穴に舌を挿し込まれ、涼介は甘く喘いだ。

「……あ、は……うまく……なっていた、か?」
「ああ……バトルには負けたが確実に腕は磨かれていたな」

 京一は話しながらもどこか、触れる指先や舌が。いつもより強さがある気がする。

「……東堂塾の頃のおまえと対を張って、いた男……今夜は、過去のおまえと疑似でバトルしてる気分で、燃え、た……」
「……どっか複雑な気分だな」
「……実は、舘智幸と。……以前に会ったことがある」
「なんだと?」

 涼介の鎖骨あたりから顔をあげた京一が、バトル以外滅多に見ない驚愕の顔をしていたのに涼介はなんだか嬉しくなった。

「一晩を過ごした……だけだ」
「は?」

 いつもなら、セックスの時も余裕たっぷりで憎らしいくらいの京一が、本気の驚きを見せているからおかしい。

「おまえ、アイツと寝たのか?」

 京一がいつになく真剣な顔で詰め寄る。涼介は、少し悪戯っこのような心境になった。

「……ひとつベッドで夜を共にしたんだが……気になるのか?」

 途中、知らないうちに智幸は帰り、セックスはしていないと言うのは控えた。

「…………マジか。いや、……しかしこいつほどの、ならば……だが」
「……は?」

 京一は口を手で押さえ、何やら考え、悩んでいる。京一の反応が思った方向に行っていないのを涼介は疑問に思った。

「……しかし……」
「なんなんだ! 京一」

 もっとモヤモヤして欲しいのに、悩むだけの京一に焦れた涼介が大きな声を出した。

「いや……アイツは女もイケる両刀で、男にもそっちの気があるのは昔からそうなんだが」
「……だからなんだ!」

 京一は涼介をちらと見ると渋々言った。

「……アイツの好みは俺みたいな、――――――こういうマッチョな奴なんだがな」
「……」
「おまえみたいなスリムつうか……おい涼介」

 涼介は真顔になったと思ったら、背中を向けて肌掛け布団を被った。



「おい」
「……」
「なに拗ねてやがる」
「……」
「というか、アイツと寝……」
「知らん!」

 布団の中から反抗的な声だけは飛んできた。

「……まあ……詮索するのもアレか」
「……」

 京一と、体の関係にはなった。いろは坂のバトルのあと、自分から誘った。
 それから、度々寝るようになった。それだけだった。

「しかし、……寄りによってアイツとなら、思いっきり複雑だがな」
「……そうなのか」

 涼介は少しだけ肌掛けから顔を出した。

「そりゃあな……おまえまでもアイツに……とか洒落にならん」
「……」

 胸がツキリと痛む。その言葉の意味に、望む感情は含まれているのかと。

「いい男だった。それだけだ」

 ばさりと肌掛け布団をめくって、涼介は京一に向き直った。

「……まあ、な。確かにアイツは……そうだな」
「妬けるか京一」
「……まあな」
「だったら!……もう待ちきれないっ」

 涼介は挑戦的な顔をしたまま、心の中で嬉しさに涙し、京一の首にしがみついた。


 いろは坂のバトルの前、まだ京一に抱かれる前のあの夜。
 舘智幸に自分のこと、そして京一のことを話した。そして京一に似た姿形、物腰にとても惹かれたと、この場で言えばどうなるだろうかと。
 涼介は京一の腕の中でふと思った。
 そして戒めるように。この恋心は今はまだ、なのだ。抱かれるだけで、それだけでいいのだと。
 自分にずっと言い聞かせているじゃないかと目を伏せた。

 それでも、智幸とのことで京一が妬くならば。男である自分をこうも熱く抱くならば。
 期待をしていいのだろうか。自分が誘って翻弄して、寝ることになった関係に。

 京一の舌と指が己の胸の尖り切った二つの乳首に、電流のような刺激を与えるのを陶酔しながら涼介は言った。

「京一、ああ……イイ……もっと!」

 ねだる声も切羽詰まってくる。嫉妬でもなんでもいい。自分を欲してほしい。
 
「おまえの大好きな乳首をもっといじめてやろう」

 京一の愛撫も執拗で両方の乳首をこれでもかと刺激されて、涼介はもう下半身がとろけそうになっていた。
 後孔は浅ましくひくつき、性器も張り詰めて揺れながら愛液を垂らす。

「ああっ……いやだ、きょうい……っ」
「なんだ?」

 ピチピチと固い舌が乳首を叩く音がする。もう片方も摘ままれ、指先で激しく掻かれて涼介は股間がせり上がるような快感に喘いだ。

「ああ……もっと舐めて、あ、だめっ……! だ、アッ! ……アアアッ……!!」

 胸を突き出すように反ると、揺れていた性器がビクンビクンと慄いて精液が飛び出した。

「イク、う、イッてる、ああ……っ……ああ……」
「おまえ、本当に乳首を弄られただけでイッちまったのか……好き者め」
「んん……ふ……ち、くび……こんなに……気持ちいいなんて……ふ」

 まだ腰を軽くバウンドさせる涼介は、淫らに微笑む。京一は数度に渡って、自身の腹にかかった涼介の精液を掬うと舐めて見せて笑った。

「ふん……甘いな……しかし、おまえとセックスするとザーメンまみれになるな」
「……うるさい……女ならここまでならないって言いたいのか」
「……そりゃ人によるだろう。男でも女でも潮吹く奴もいるしな」
「……」

 涼介はちょっとむっとしながらも、さっきの乳首への刺激で射精したことが新鮮でまだ力が入らないようだ。反論にも甘さしかない。

「さて、ではおまえのケツ×××で愉しませてもらうか」

 京一がぎしりと乗りあげた。涼介は期待に後孔を疼かせたが、京一はにやりと笑うと涼介の両の膝裏を一気に持ち上げて、尻を上に向かせてその部分を目の前に晒させた。

「あっ……京一っ!」
「欲しがりやがって……」

 口端をいやらしく歪めた京一が躊躇なく舌を伸ばした。

「あ…は……、あ」

 舌が螺旋を描いて涼介の後孔を愛撫する。指も入れられて拡げられているのは京一の目の前だ。間接照明にしてあるとはいえ、尻を抱えあげられ、白い狭間に息づくそこは見られているだろう。

「ここでたっぷりと俺のデカい×××を飲み込んでもらわないとな……」
「ア……は……は…」

 散々後孔を舌でとろかせられ、そして野太い指を何本も挿し入れられる。
 塗りたくられたジェルの水音をさせながら、スムースに指が出入りする頃には、涼介の口からは涎と甘いねだる声しか出なかった。

「指に合わせてケツを振りやがる……気持いいか?」
「気持ち、いい……、もっと、……もっと……」

 双丘を己で拓いて、更に見て欲しい、やって欲しいと痴態を惜しげもなく見せつけるから世話ない。それにさっきからずっと軽い絶頂を迎えているのからか、勃起した性器からだらだらと精液を垂らしている。

「ア、あああ……あああ」

 涼介の精液が垂れて、発情したそれでも整った顔を汚していく。指を出し入れするスピードを上げると揺れる性器はさらにビクンビクンと慄き、糸をひいて涼介の顔に射精した。

「あ……あ、ふ……」

 自分のものか京一のものかわからないといったふうで、降りかかる精液を笑みを浮かべて舐めようとするのが中々にいやらしくて京一の雄心をくすぐる。

「仕方のねぇ奴だな。このまま指を食ってるか?」

 京一の言葉に涼介はろれつの回らない言葉で、

「いや、だ……! おまえの×××! ×××を奥まで入れて突いてくれっ……」

叫んだ。

「わかったわかった……待ってろ淫らな涼介」

 切羽詰まった声で叫んだ涼介は、乗り上げた京一が真上から熱の塊のような男根を挿し込んだのを嬌声をあげて喜び、今度こそ大量に射精した。

「ひ、あああっ…ああああーーーーー」

 涼介の早すぎる絶頂をものともせずに、強い律動を繰り返す。もっと深く欲しいと双丘を両手で開いている。その狭間を赤黒い巨大な男根が、速いスピードで杭を打ち込むように出し入れされている。
 京一の強靭な腹筋が、逞しい腕が。引き締まった腰が自分に、男の自分に発情している。男の自分と性交している。
 なぜだろう、自分という存在が認められたような気がして目に熱いものが浮かぶ。
 京一に抱かれる。バトルもそうだ。この一瞬が欲しいものの全てだった。

「おまえ、が……オレに、興奮して、勃起した、×××を振り立てて、オレとセックスし、てる……っ、あああ……っ」
「は……いいぜ、涼介……、そうは見えないのに、こんなにいやらしくて、ぎゅうぎゅう締め付けて喰われそうだ……」

 ベッドが激しく音を立てる。そして粘着質な水音も。ひとしきり上からのストロークを愉しんだあと、京一は勢い性器を引き抜いた。

「あっ、嫌だ! ……抜くなっ、もっと! ピストンしろ!」

 京一の眼前で濡れそぼって開いた後孔をヒクヒクさせながら、涼介が抗議の声を上げる。

「落ち着け。下から突いてやろうと思うが、どちらからがいいんだ涼介?」

 膝立ちする京一の、鎌首をビクンビクンと持ち上げる、凶悪な性器を見て涼介は少し怒ったような顔で近づくと勢い手と舌を伸ばし、

「オレが上に乗る。ちゃんと突け、たっぷりと中に出すんだ京一」
「……ったくおまえは……」
「ふふ……」

と、苦笑する京一が見下ろし見つめるのをわかっていて、その張り詰めた肉棒を激しく舌でタッピングした。

「オレが入れる……見て欲しい京一」

 自分がとても淫らな娼婦にでもなったようだ。興奮が過ぎて、天を向く性器はテラテラと濡れている。尻を持ち上げ、奥にある息づく粘膜に性器を捻じ込む自分の姿を見て欲しい。
 仰向けになって上半身を軽く起こした京一の目に、自分から性器を飲み込むところを見られたがっている。

「淫らなカリスマだな……涼介。男のモノを自分からケツ×××に入れるのを見られたいなんざ……」
「そうだ……オレはおまえの大きいモノに犯されるのが大好きだ……」
「は……かわいい淫乱な涼介、しっかりと味わえ」

 逞しい男根を掴むと、にゅぶり……とぬめった音をさせて腰をゆすった。


「あああっ……あああっ!」

 下から激しく突き上げられ、上から浅ましく尻を振る。濡れ光る筋張った男根がいっぱいに拡げられた密孔に容赦なく出入りしている。涼介は赤く発情した目で、己の乳首を舐めまわす男の顔を見てる。舌が容赦なく、まるで小さな性器と化した乳首を責め立てる。

「いい、凄く!! ああああーーーーいいっ……!」

 獣のように尻を振り立てて、涼介は愉悦に叫んだ。下から嵐のように凶悪な男根を突き込まれる。濡れた音、肌と肌がぶつかり合う音、ベッドの軋む音。そして、快楽を存分に愉しんでひっきりなしに淫らな言葉を吐き出す嬌声。

「あ、×××、好き……っ! ああッ――――×××、もっと××××に! オレの××××に! アアッア」
「はっ……腰が暴走してるぞ涼介……っ! では中に出してやろう、イクぞ!」
「ああっ……!! アッアッアッアッ‥‥っ――――――」

 充血した粘膜を突き崩すような勢いで熱塊が行き来する。ひときわ大きくストロークされると、京一の低い呻きと共に熱い飛沫を粘膜に感じて、涼介もその性器から精を飛び散らせた。


「うん……あ、ふ……」

 泡立った白濁まみれの性器をずるりと引き出され、涼介は意識も朦朧としながらも甘く呻いた。上にかぶさったまま、京一に背を抱かれて宥められている。
 思い出したかのように京一の唇を求める。熱いキスを受けて、夢の中でそうするように涼介は京一の名を切なげ気に呼んだ。
 ああ、そうだ。こうやって、同じように京一の名を呼んだのだ。あの男――――――その腕に抱き上げられ、舘智幸に京一の面影を追った。酔いも手伝ってこれがおまえなら、とまでも思わず、この腕はおまえなんだ……と錯覚したまま。

「京一……」
「なんだ? ……涼介」

 涼介は自分のバカらしさに目を微笑ませた。あれだけ渇望した腕に体に。今は抱かれている。これだけでいい。今はこのまま。どうかこのまま――――――焦がれた腕に包まれていたい。欲のままに思うままに、手に入れようとして全てを失った人間もいる。
 
 愛とか――――――恋のむなしさはよくわかっている。痛みをさらに抉る言葉。笑う赤い唇、赤い香り。そして広がり、流れる赤い液体――――――元々その手にはなにもなかったのに。バラバラになった幸せの残骸を必死でかき集めるような、渦巻いて反響していく慟哭。それらが自身に刻み込んだのだから。

「……舘智幸、おまえに似ていた」
「まあ、長いこと一緒にいたからな……」
「共にひとつベッドで夜を過ごしたと言ったが、彼は途中で帰った……」
「……」
「偶然出会って飲んで。酔ったのを介抱されただけだ」
「……本当か」

 それまで仰向けで話を聞いていた京一は、突然顔を上げて涼介の顔を見つめた。

「嘘を言っても仕方ない。……確かめたければ直接聞いたらいい」
「ふむ……アイツならそうしかねん。……まあいい」

 そう言って気が抜けたようにボスンと枕に頭を預けた京一は、同時に涼介の体をぎゅっと抱きしめた。そして大きな手で、汗でしっとりとした涼介の髪を愛しげに撫でる。
 涼介は京一が示してくる感情、態度に自嘲するように笑う。その顔には僅かに切なさを浮かべいる。
 嫉妬でも、一時の気晴らしに寝るのでも、性欲のはけ口でもなんでもいい。
 この関係がいつまで続くのかもわからない。
 刹那的で脆い、危うい――――――車、バトルで繋がってるようなものなのに。
 
「涼介」

 まどろみかけた涼介の耳に京一は低く囁いた。

「アイツには渡さねぇからな」

 その言葉に。幸せそうに涼介は笑った。



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                       2022/03/08


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