Fall in Affair [2] | ナノ
[Menu]
SS Deep
Fall in Affair [2]

 夜半にちょっとしたお祭り騒ぎではあった。いろは坂も明智平も、そして上りと下りを分ける馬返しも。走り屋の車が何台も停まっては先ほど行われていたバトルの話をしていた。興奮冷めやらぬ者たちは走り屋の真似事をするも、この地を統べるEmperorが睨みを利かせているのでそうそう無茶はできなかった。
 しかし、今夜のバトルは暫く間、走り屋たちの話題になるだろう。
 
 そして明智平トンネルを超えて、中禅寺湖方面と華厳の滝前の三叉路を右に、ガソリンスタンドのあるいわゆるここ、いろは坂の下りでバトルをする時にスタート地点として使う場所にゆっくりとFCを停めて涼介は携帯電話を取り出した。
 啓介に、自分は京一としなければならない話がまだあったから先に帰れと言ったのだ。
 もちろん、啓介は突然そんな事を言われても、大人しく聞くわけでもなかった。涼介の申し出に車を降りて、FCの運転席に座る涼介に詰め寄った。自分もついて行く、アニキをこんなとこで置いていけるかよ! と言うも、リーダー同士の話であり、今回は言う事を聞いてくれと言われた。
 それでも食い下がる啓介に涼介は

「あれだけの勝負をした藤原に祝いの言葉でも言わなくていいのか?」

と啓介がもっとも引き付けられるであろう言葉を言った。はっと我に返った啓介はすんなりと拓海を追いかける方に気持ちが動いたようだった。
 慌てていろは坂を下っていく黄色のFDに苦笑をし

「悪いな、俺も……まだまだ楽しみたいんだ」

と微笑んだ。


 蹴散らす勢いで下っていくFD、そして数分後、暫くしてゆったりと白のFCが第一いろは坂を下る。VIPが行くから手出しはするなと、京一から直々に命令が下ったのもある。手出しどころか一斉に散れと言われ、静かな中を走って行った。

 涼介は京一の言ったとおりに、左手に見える剣が峰展望台を超えてすぐ、トンネル手前の右手のスペースにFCを乗り入れた。一方通行である第一いろは坂の逆に行くように細い道が右奥にある。ここより大谷川を遡った道で馬道発電所に行くための道のようだった。
 近くを流れる大谷川のせせらぎの音が聞こえる。FCを下り車線から見えない場所へと停車させ、眼下を流れる川の音を一人聞く。

「……こんな場所……好みの女を捕まえてはここでヤッてるんじゃないだろうな……」

 涼介はぶつぶつと文句を言っていた。走り屋チームに群がる女など腐るほどいる。その上にリーダーともなれば女が寄ってきて当然だ。ましてやどちらかというと京一のEmperorは自身の統べる赤城RedSunsに比べ、ガラの悪い男くさいチームなのだ。女に対してもそこいらで拾って……など余裕で考えられる。
 
「……ナンパな態度は似合わないが……偉そうに命令調で乗れ、とか」
「いきなり車をこういうところに停めて、……」
「……咥えろと言ったりとかな……」
「あの…逞しいものをそそり立てて…女の髪を撫でて口淫を愉しんだり…」

 さっきまでそうされていたのは誰だ? と涼介は自答して皮肉に笑う。なのに歯噛みもする。あの体、あの腕、あの手で。別の誰かを、女を抱くのかと。
 自身は知っている。京一のセックスは荒々しくもとても優しく繊細だ。偉そうに命令しながらも絶妙に甘くとろかせる手管は絶品だった。それにバトルと同じくねちっこく、相手の弱点を責める。こちらがもうダメだ、欲しいというくらい、焦らして熟させてから奴は……。
 熱い溜息が漏れる。甘さも含んでいる。あの熱を打ち込まれるのだ。信じられないくらいの快感を与えられながら。
 女にもそんな手管を?
 涼介は舌打ちすると、さっき京一に買ってもらった飲みかけのペットボトルを口に運んだ。


 爆音を轟かせて山間を漆黒の機体が駆け抜ける。涼介からの「着いた」とのメールを受けて、京一はまだまだメンバーが残る明智平を後にした。次いでまだまだたむろをしているメンバーにも早々に帰れと釘をさしておいた。
 京一に着いて行こうとする者がいたので、京一はうっとうしそうに「一人でゆっくりとコースを考えて走る。お前らも勉強しろ」と言い残して連中を下がらせたのである。
 涼介の待つ馬道発電所入り口は、二荒山神社境内かどうかの境界線にある。そこから先は女人禁制であるという昔の案内碑が建っている。
 京一は慣れた風に数あるコーナーをこなし、33コーナーで小柏カイのした地元走りを思い出してニヤリと笑った。


 約束の場所に着いた京一は、エボVを停めようとハンドルを切り返した。
 涼介のFCは下りを走る車からは全く見えないように停めてあった。さらにそれを庇うようにエボVを停めて、京一は車を降りた。

「待たせたな。上手い具合に弟を帰らせたな」

 京一は運転席にいる涼介に声をかけ、がちゃりと開いたドアの中を見てその様に片眉を上げた。

「どうしたんだ? 具合でも悪……」

 運転席に座り、ハンドルに顔を伏せるようにしていた涼介がゆっくりと顔を上げた。赤らんで睨みつけるような、その目が熱に浮かされたように潤んでいる。

「おまえ……」

 スラックスの前を開いて下着をずり下げ、露出させた性器を忙しなく扱き、反対の手は紫紺色のタートルネックの中に潜らせて蠢かしている。おそらく乳首を弄っているのだろう。

「我慢できなかったのか」

 京一の言葉に涼介は頷き、掠れた声で

「遅い。早くしろ」

と言った。


 2シーターのFC3S、アンフィニでは大したこともできない。京一は以前のように涼介をここから連れて自身の部屋へと連れ、愉しむつもりだったがまずそんな我慢はできなさそうだった。

「あ……んっ……」
「仕方のねぇ奴だな……」

 涼介の様子にまずはひと抜きしてやろうかと肩を竦め

「あっ!」

涼介が思わず声に出すくらい突然に担ぎ上げて、エボVの後部座席にその身を放り込んだ。

「はっ、ああ……」

 覆いかぶさって激しいキスを交わす。涼介が殊更好きな乳首への愛撫も、京一の節くれた指が、乱暴そうに見えて実に甘く快感が湧くように愛撫する。
 完全に尖って愛撫を望む胸から全身に、甘い痺れが波紋のように次々と広がる。男らしい指がコリコリと悪戯して体が跳ねる。クルクルと指先を回され尖りを素早くはじかれたら、ねだる言葉が次々出て、甘い声で啼いてしまう。
 口腔内いっぱいの京一の厚みのある舌が、涼介の喉奥も頬の内側も上のざらついた粘膜も全てを味わっていく。

「んぐぅ……ふん……ふ」

 苦しそうな声を上げても悦びしかない。ああ、これはフェラチオと同じだ。京一の逞しく勃起した男性器が、同じ性の自身の口の中を暴れて味わうのと同じだ。

「んんーーーーー…っ」

 顎を掴まれて舌でピストンされ、唾液まみれにされる。露出した性器を擦りつけあって、先走りが淫らな音を立てる。
 涼介の、男を欲しがって収縮する孔の上部、会陰部分がヒクヒクと息づいたかと思うと。

「ん、んふっーーーーー……ふぅーーーー……ふ」

 笑うような高い声を上げて、涼介は体をひきつらせて射精していた。



「……いい気分だな。おまえに咥えさせるのは」

 シートに座った京一の前に顔を伏せて、涼介は熱心に口淫をしていた。

「あ、あふ……あ、こんなこと、いつもここで女にさせてるのか」

 膨れ上がった亀頭に濡れた舌を閃かせて、涼介が上目遣いに京一に言った。
 その様を愉しそうに見る京一の左手指は、涼介の密孔にずっぽりと挿し込まれ、卑猥な音をさせて螺旋を描きながら何本も出し入れされていた。その動きに合わせて涼介の勃起しきった性器が涎を垂らしながら揺れている。
 それでも口いっぱいに男根を吸い、貪欲に舌をうねらせている涼介に京一は苦笑する。

「気になんのか……? 皇帝の色事が」

 涼介のさらさらとした髪に置いていた手を肉棒にやり、低く笑いながら涼介の口から取り出す。ぷはっと顔を上げた涼介の、赤みが増してふっくらとした唇を滑らせながら愉しむ。上唇にまでプラムのような張りのある亀頭がすべすべと愛撫する。ベロンと出して物欲し気に動く舌にも、京一は手にした男根でピタピタと当てて笑った。

「はっ……そんな、うちの一人だなんてごめんだからな」

 涼介がカプリと軽く甘噛みしたのを、京一が苦笑して目を細める。

「こら、歯を立てるな……おまえ、俺がそんな風に女とヤルのを想像して興奮したんだろう?」
「……うるさい」
「……おまえはそこいらのとは訳が違う。……男だしな」
「その男にこの凶悪なペニスを舐められて、さっきは盛大に射精した。呆れた悪食の皇帝だな」

 そんな言い方をしながらも太い幹をしっかりと握って、顔や舌を動かして刺激し続ける。もう片方の手で、ここに溜まった精子を全部出せといわんばかりに、重々しい睾丸をやわやわと揉み込んでいる上に、さっきはそこまで口にいっぱいに含んで鼻を鳴らしながら舌で転がしていたのだから世話ない。
 性器も睾丸も涼介の唾液まみれにされて、京一は仕方がないなと溜息を吐く。
 涼介の目の前で大きな男根を扱きあげる。その動きで睾丸までタプタプと動く。ゴクリと生唾を飲み込み、次いでほうっと熱い溜息を吐くとうっとりとして涼介はそれを見つめる。
 逞しい剛直を見てるだけでジンジンと乳首が性器が後孔が。疼いて腰が浮く。はしたない、まるで発情期の動物だ。だらんと顎が下がって唾液が増え、呼気は湿って熱いのだ。

「俺は美食家だ……涼介、おまえのフェラ好きには驚かされるがそろそろぶち込んでやろう」

 京一の声が、いっそう低く獰猛な気配を漂わせて宣言する。今からその熱塊で存分に中を掻き回されるのだ―――――涼介は期待に身を震わせ後孔に律動する京一の指を締め付けた。


 FC3Sを隠すように停められたエボVの車内で、いろいろしようにもやはり大柄な二人は大変である。だから後部座席のドアを開け、今は腰を掲げてスラックスと下着をずらした涼介の痴態を愉しんでいる状態だった。
 暗闇でも少しの明かりはある。白い双丘の間で繰り広げられる淫らな手遊び。開いては指二本をチュプチュプと出したり入れたりを繰り返す。京一に見せつけて興奮しているのだろう、十分に犯されているかのような惚けた顔で涼介は指を忙しなく動かしている。京一の目に白い尻を突き出してくねらせ、ねだる涼介の姿が映る。

「ここに……早くっ……!」
「見てるぜ……いやらしいな。イイ感じに血が集まる」

 てらてらと先走りを垂らす巨大な性器を開いたジッパーから突き出し、ビクンビクンと慄かせて、今か今かと獲物を狙う大蛇のように指が行き来する縁を擦る。

「ああ……早くっ」

 涼介は慌てたようにポケットからチューブを取り出した。

「おまえ、これをいつも持ってんのか? それとも俺と会うのを見込んでこれを持ってきたのか? バトルを見に来たのを装って」

 それを見た京一が呆れた声を出す。

「おまえに会うのなら嗜みだ。それに装ってない、実際バトルは見た。それより早くっ」

 潤滑ゼリーのチューブを渡されると、京一は溜息をつきながら性器に塗りつけた。それを見越した涼介が期待に笑みを向けながら、十分に開いてパクパクと収縮する粘膜へ京一の性器を誘導した。


 パアアーーーーーーンと通り過ぎた車のバックファイアの音が山間に反響する。トンネルが近いから響くのだ。
 クラクションでも鳴らされたらけっこうな音がこっちの車まで響くだろう。

 FCを隠すように置いたエボVの後部ドアが開いていて、背の高い白くバンダナをしている男が立っていた。リズミカルにジーンズを履いた腰が白い尻に向かって激しく前後している。車内ではひっきりなしに嬌声を上げ、スラックスを履いたままなのに双丘と性器だけを突き出した涼介が叩きつけられるリズムを喜んで受け止めている。
 光るのは粘液だ。まるで湯気でも出そうな湿った熱気もある。白い肌に赤黒い筋張りが、睾丸を打ち付けながらぬめって素早く出入りするのは中々の見物だった。

「あ、ああっ……! はっ……!」

 獣の姿勢で、涼介は頬をエボVのシートに押し付けながらの、お互い性器だけを露出した野外での性交である。

「いい、凄くいいっ……! きょう、あああっ……!!」

 性交されている尻を突き出すように、涼介は両手で己の双丘を開いていた。いかにも欲しいというようなあからさまなしぐさに京一は苦笑する。

「もっと、もっと……ハメてくれ、俺を……してくれ……っ」

 京一の匂いの残る、京一の化身のようなエボVの車内で。
 理性が飛んで、頭の中までとろとろになってしまうくらいの快楽。涼介は貪欲にそれでも京一を求めた。

「欲しくてたまらなかったって感じだな……涼介」

 舌で唇をペロリと舐めて、京一が規則正しく腰を動かしながら低く言う。

「あっ……! ああっ……欲しかっ……早くおまえに、こうやっ……ああっ!」

 延々後孔を突き込まれて、何度か射精しても収まらない。エボVのシートを汚さないよう敷かれた布に何度も精液を垂らしてしまった。
 京一の与える快楽を存分に味わっている。
 悦楽の境地に涼介は唾液を垂らしながら、京一の繰り出す快感の波に翻弄されていた。

「そろそろイクか」
「ああっ……いや」

 そういうと京一はいったん車の中に身を屈めた。そして涼介の後孔に出し入れしていたまだまだ力の衰えない肉棒を引き抜いた。行為を中断したことで、涼介から残念がる声があがった。京一は苦笑しながら器用に涼介の腰を掴むと、膝を折りたたむようにして仰向けさせ、グリンッとスラックスと下着を抜き取った。

「きょうっ……!」
「待ってろ」

 抗議の声を上げる涼介を宥めながら、京一は慣れた風に助手席に置いていたブルゾンを体を起こして取った。

「ほら、下に敷いてやる」
「いいから早く入れて腰を振れ!」
「……ったく、ロマンもねぇ奴だな……ちょっと待て」

 そう言うと散々自身が男根で嬲った場所を、舌で素早く慰撫し始めた。

「あは、ああ、んあっ……!」

 甘い悦びの声に変化した涼介に苦笑しながら、熟れた粘膜を指で広げながら舌で味わい、さらに熱く蠢く中に潜り込ませる。

「俺ので散々突かれていい具合に熟れてやがるな……いい子だ、愉しませろよ」
「はあっ……ア、ふう……う、ああ……は……っ! アアッ!」

 十二分にとろけたそこを舐め終わると、間髪入れずにジュプリと肉棒を突き入れた。スムースに京一の巨大なものを飲み込んだ涼介の密孔は、まるでそこでフェラチオをしているかのように蠢いた。

「ひ、ああっ……! アアッ……!!」
「ああ……いい具合だ……しゃぶり尽くしてやがるな」

 リズミカルな律動を繰り返しながら、京一は口端を歪めて言った。涼介は膝裏を京一の腕に抑えられて、両足の間から淫らな叫びを上げている。

「京一っ……きょうい、ち……っ!」
「ほら、舌出せ」

 顎を掴まれて舌を突き出し、こちらも互いの粘膜をタッピングする。上も下も粘膜と体液を交わらせる。

「あ、ん、あ、はぁ……ぁ……っ ア、アァッ……!」

 激しく打ち込まれて、目の焦点も定まらず、息も絶え絶えな涼介が朦朧としながら股関節をガクガクと震えさせた。

「……なんだ? イイか? 俺もいいぞ……ああ……食いつい、てくるな……おまえ、の×××は最高だ……」
「ああっ……!」

 激しい性交をしている真っ最中、いろは坂を下ってきたらしい車の爆音が轟いてきた。それはおそらくEmperorのチームメンバーである。ランエボ数台の音だった。

「チッ……アイツ、ら……今頃来やがったか……涼介、俺の×××がおまえの×××をガンガンに突っ込んでるところを、見てもらうか……ッ」
「ああ、嫌だ……っ!」

 京一もそんな気はないのに、被虐の悦びに粘膜が嬉しそうに食いつくのを愉しむように涼介に言った。

「赤城の白い彗星、高橋涼介はケツ×××をいろはの皇帝にFuckされて大喜びだ」
「あ、そんな……アアッ……」

 そう言ってる間にも、腰から繰り出す激しいピストン運動は止めない。更にランエボの爆音が近づいて来ている。

「ほら×××もこんなだ、全部見てもらうか? さっきも俺の×××を咥えているのを見られたかったのだろう?」

 ぐいっとのしかかった京一が、結合部も露わになるように腰を浮かしながらストロークを繰り返す。上から下へ、野太い性器が浮かされた尻の間、熟れた粘膜にとてつもない速さでストロークされている。
 京一は意地悪そうに笑うと手を伸ばし、パチンとルームライトを点灯させた。
 一瞬にして、ドアを開けていても熱気のこもった車内は、暗闇から明るい世界に変わった。

「いやだ! 京、一っ……! い、ああっ……! ああああっ!」
「……はっ……×××がケツ×××にずっぽり、ズコズコ突っ込まれてるのがバッチリ見えるぜ」

 ルームライトを点けられて、自分たちの淫らな行為が暗闇にはっきりと浮かび上がった。いくら暗闇の上に道からは見えないようにしているとはいえ、通り過ぎる時に右側やミラーで後方を見れば何をしているかわかってしまう。
 朦朧としながらも涼介はのしかかる京一の目を細めた雄の顔、そして広い肩、ジッパーから出されて、濡れ光りながら出入りする肉棒を見た。自身の性器もこれ以上ないくらい張り詰め、快楽に跳ねるように揺れて精液を撒き散らしていた。
 そんな光景が見られてしまう……激しい律動から来る快感に気を遣りそうになりながらも、ランエボの明るい光が凄まじい音と共に近づいて涼介は悲鳴を上げた。

「あ、ア! いや、嫌だ……っ京一……! きょう……!」

 見られる羞恥に慄いたのか、それとも見られるかもしれないという、快感が過ぎるのか、黒髪を揺らしながら京一にしがみつこうと必死に藻掻く。
 なおも律動を止めずに腰を打ち付ける京一の背後を、爆音と閃光を轟かせながら数台のランエボが掛け抜ける瞬間、京一はルームライトを消した。

「きょう、ちっ……きょうっ‥‥…!」

 京一は涼介の後頭部を支え、首にしがみつかせて、慄く涼介を宥めた。

「わかったわかった、……アイツらには見せねぇ、誰にもな、俺の独占だ涼介……」
「……っ……あ」

――――――俺のものだ涼介

 そう言われたような気がした。そんな筈はないのに。だけど思った以上に耳に優しく甘く囁かれて、喉を競り上がるように湧き上がる感情に涼介は襲われた。
 言いようのない切ない思いに 目尻に熱いものが光って流れる。気づかれないようしがみついて、涼介は一気に昇りつめた。

「きょう、ち、京一……っ あ、あ……イク……う」
「出してやる…… 今度は中にな、さあ飲め……」

 掻きむしるように京一の腕に爪を立て、涼介は快感が過ぎてバカになってしまったような下半身をまた震わせて絶頂を迎えた。奥に突き込まれてゴプリゴプリと注ぎ込まれる、京一の精液の熱さを粘膜は悲鳴を上げて喜んでいる。

「ああ……ああ……」
「……は……可愛い××××は俺のを全部飲んだか? 後で掻き出してやろう」
「あ……ア」

 ズルリと性器を引き抜いて、京一は体を震わせてぐったりしている涼介の上から身を起こした。
 片眉を上げて、涼介の足を開いてさっきまで自身が思うさま蹂躙していた部分を親指でぐにゅっと広げて見た。

「ほう……中々いい眺めだ」

 まだに勃起した性器から粘液を垂らし、涼介の開いた花のような粘膜と繋がっている。京一は自身の精液に濡れて、物欲し気に開いてヒクヒクと動く涼介の密孔を片眉を上げて笑みを浮かべている。

「赤城の白い彗星のケツから、いろはの皇帝のザー×ンが垂れているなんてな……」
「ア……ふ、ん、は、あ……はあ……」

 カチン、シュボッと音がして、深い溜息の音がする。京一は煙草を咥えて片目を眇めながら淫蕩な行為の証のような涼介の恥部を満足そうに鑑賞していた。

「……酷、い男だな」

 そう言われた京一はくっと笑って肩を揺らし、竿を振るように蜘蛛の糸のような銀糸を切った。乱暴に車の中を探るとティッシュを取り出して、己の欲望にぬめぬめと光るそれを慣れたように拭い取りしまう。
 煙草を咥えながら涼介にもティッシュを寄こす。受け取ろうとするも、ぐったりとしている涼介が気怠そうに身を起こす。

「拭いてやろうか?」

 京一の言葉に涼介は強気に睨みながら

「自分でする」

と言った。そして身支度を整えると涼介はエボVを降りた。

「……部屋に来るだろう?」

 京一は顎をしゃくって涼介に言った。視線の先、よく見れば服は何度も放出したモノで、汚れてしまっていた。

「拾った女のようにヤッたら放り出すんじゃないのか」
「……やたらにそういうのにこだわるな。お前は特別だって言ったろうが……それにここらの山一帯は二荒山神社の神域で境内だ。俺は氏神さんにやましい事などしてねぇぞ」

 京一の言葉に涼介は顔を上げた。

「おまえの氏神様なのかここは。しかし……いろはのバトルの後は中禅寺湖のほとりのお前の知り合いの宿でヤッたが。あれは境内の中だぞ」

 京一は肩を竦めて笑った。

「は……おまえとの事はやましくはないからな……しかし、おまえは俺をどんなヤリチンだと思ってんだ。そりゃ男だから色々あるがそれなりに、だ」
 
 煙草を吹かしながら、京一はぼんやりと立つ涼介に言った。

「……どうでもいい。それに今日は……啓介が心配するから帰る」
「……」
「ジャケットを着て隠すから大丈夫だ」

 その汚れでバレるぞ? という視線を受けて涼介は気まずそうに言った。

「そうか、なら……お前は122号線からでなくて高速で帰るんだろ? 宇都宮までついててやる」
「……いろはじゃあるまいし、高速は一人でも平気だぞ」
「まあそう言うな。皇帝の庭でぐらいちゃんとエスコートさせろ」
「……」
「どうした?」

 さっきまで自分を抱いていた男が。
 自身があれだけの痴態を晒して、それを受け止め愉しんでいた男が。
 もう既に通常の、日常を思わせる態度でいるのに涼介は何とも言えない気持ちになった。
 誘って、煽って翻弄し、この男の目を向けた。
 この男を皇帝と崇めるチームのメンバーがいたのに。そして場を荒らされるのを嫌うだろう京一が、拓海とカイの突然のバトルに興味を持った。そしてそのバトルが行われる寸前なのに、だ。

 自身を選んだのだ。なのに今、平然と涼介に接する京一にどこか、突き離されたような感覚になった。

「……何でもない帰る」

 覗いてしまえば引き返せなくなりそうな、幾重にも様々なベールが折り重なり、隠されている感情。赤いイメージの粘った滴りが脳裏に浮かぼうとする。そして同時に鼻腔に蘇ろうとする、あの人工的なきつく甘い香り。どす黒い沼地のようなそれに引き込まれる感覚がよぎり、涼介は顔を逸らすようにFCの運転席に向かおうとした。

「ちょっと待て涼介」

 京一の声が背から投げかけられ、涼介は振り向いた。
 瞬間、吹き付けた強い風が、たくさんの枯れ葉と共に二人の間に駆け抜けた。
 物ともせずに至近に近づいて来ていた京一が腕を伸ばし、髪を揺らして見上げる涼介と見つめあう。
 大きな手がすっと涼介の髪に触れた。

「……」

 髪に引っかかっていた一枚の枯れ葉、それを京一の指が挟んでいた。そして指先をパチンと鳴らし、枯れ葉を弾いた。行き場を無くした葉はふわりと浮かび、ゆっくりと落ちていく。

「……また抱かれに来い」

 目の前の静かに見つめる男が言う。偉そうで、どちらかというと屈辱的な内容なのに。なぜか確固とした安定感のあるその物言いは、涼介の中に湧き上がろうとした不穏な血生臭い靄を一陣の風と共に打ち消した。それはまるで祓いのように。

 皇帝の伽と相手として選ばれるために詣でるなぞ、涼介は「そんなうちの一人はごめんだ」と言いながらも。
涼介は京一が一時の気晴らしで相手をするような女達と同列に、自身との事を思っているだろうと思い込んでいた。だから涼介の方から京一の性行動を語るときは「ヤる」と表現してたのに。

 京一は今夜ここで「抱く」と言った。
 
 それは――――おそらくどちらも無意識に。

「わかったな?」

 そしてその言葉を最後に言う。それが、涼介が京一に誘いをかける負い目のような気持ちを掬いあげた。
 この男はそうなのだ。いつも、自身に対してそうなのであったのだ。
 自身から京一を誘ったのに。踏み出したのは俺だと。先に立ち庇う。

「……」

 見つめる目の中に揺らぐそれぞれの思い。それは見てはいけないものなのか、見つめ続けてきたものか。
  
 これ以上、考えれば導き出される答えを目の当たりにされることになる。まだできない。まだ、なのだ。記憶にまだ鮮明に残る。虚空で名を呼び、泣き叫ぶ声がまだ響く。それは罪を咎めて断罪する声に変わっていくのだ。

 髪に触れた優しい手に、涼介は僅かに眉根を切なげに顰めた。そしてただ一言

「……気が向いたら……な」

と言った。
 
 弧を描き、螺旋に舞う。いろは坂に吹く風に包まれる二人の足元に、音も立てずに枯れ葉は落ちた。



Pict 

SS Deep

[MENU]

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -