Fall in Affair [1] | ナノ
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Fall in Affair [1]



 それはしっかりとした上着を着こまないと、夜の山では本格的に寒いであろうという季節の事だった。
 そこでそれが行われるという情報が入るということは、このあたりのチームリーダーなら当然の事だった。
 特に自身は北関東でも有数の走り屋のチームリーダーで、自身が望んだわけではないのにカリスマ扱いまでされている。
 そして事に最近話題であったのは、その有数なる走り屋の中でも弱小で、とりわけ目立つ車もないチームから、突如として現れた白と黒ツートンの車、いわゆる秋名のハチロクが発見されてからその車の話題が耳に入ることはままあったのだ。
 情報網も敷いてある、なにかあればすぐに伝えられる。そんな中の出来事だった。

「あっちで変に尖るなよ。今日は俺達はただの見物客だ」
「わかってるよアニキ」

 夜目にも鮮やかな白と黄色の二台のロータリー車がある場所へ向かい、その咆哮を轟かせている。関越自動車道を南下し、すぐに北関東自動車道へ。一路東へと向かう、きちんと目的を持った綺麗な走りだった。
 車内のスピーカーにBluetoothで繋いだ携帯で白の車から、少し後方を走る黄色の車に向かって発せられた。元々、この情報を持ってきたのは黄色の車ーーー高橋啓介からの情報だった。
 

『ふざけるなよ。いくらランエボを負かした秋名のハチロクだからって、わけわからない奴とバトルしなきゃいけないって事はねぇだろ? アニキ!』

 激高しながら、いつものようにノックもせずに部屋に啓介は入ってきた。綺麗に整頓された殺風景とも言える自室にて、パソコンを弄っていた涼介は溜息をつきながら、辛抱強く冷静に事の顛末を啓介に聞いた。

『藤原のガソスタの奴に聞いてもSW20に乗ってた若い奴ってだけでろくに情報持ってなくてさ、相手は元々バイクに乗っててカートもやってたヤローでけっこう名が知れた奴だって話だ。これは俺の舎弟が言ってたんだけどよ』

 啓介の「俺も中々にできる男だぜ」なアピールを涼介はするりと潜り抜けた。

『車はSW20か。……面白いなそれは』
『だろ? って、じゃなくて藤原がわけわからない奴とバトルしていいのかよ! アニキ!』

 啓介がやっと言いたいことの本題まで話が戻ってきたところで、涼介は冷静に言った。

『それは藤原が決める事だろう。俺達がどうこう言う事じゃない。天下の公道だと前にも言ったろう』
『……須藤と赤城でバトってエンジンブローさせた時だっけ……クソ』
『……』
『だけど、いくら相手が須藤が標的だったのに藤原が負かしたからってバトルしなきゃなんないんだよ』

 啓介の口から出た人間の名前に涼介は僅かに目を見開いた。

『……京一が標的だったのか。そのSW20は』
『だったってガソスタの連中が言ってたぜ。えらく挑戦的に”須藤は俺の標的だったんだ! なのにおまえが負かしたから自動的に俺の標的はおまえになる”ってえらそうに言ってたらしい』
『……わかった』

 ゆったりと座っていた椅子から涼介はいきなり立ち上がった。そして怪訝そうな顔をしている啓介に言った。

『場所はいろはだろう。今から行くぞ啓介』



 日光いろは坂は華厳の滝や日光連山をも含む、その広大な一体を二荒山神社の境内とする中にある。彼の車は少し前にいろは坂に着いたらしい。何度かコースを下見して回っていたということだった。早いうちからいろは坂に様子を見に来た連中に聞いた話のかぎりではあるが。

「須藤ん時、んで今日っていろはばっか来てんじゃねーよ……」
「確かに相手がいろはを根城にバイクで走り込んでいて、藤原にバトルを申し込むのに自分に有利なホームを選ぶのは釈然としないが……」
「だろ? せめて秋名ならわかるんだけどよ! 俺達がそうしたみたいに」

 一際大きくなった啓介の声を聞きながら涼介は笑った。

「……まあな、藤原は京一の時も俺が誘いをかけたプロジェクトDに入る決心を後押しするように挑戦したかったらしいし、今回も売られたバトルを受ける事で自分の可能性を広げたいんだろう」
「そりゃわかってるけどさ……」

 終点である清滝で宇都宮日光有料道路を降りて、清滝バイパスである国道120(122重複)号線を沼田、中禅寺湖方面である西北方向へと向かう。ロータリーサウンドを周囲に撒き散らしながら、二台は栃木県日光市にある第二いろは坂に向かった。左手に流れる大谷川に沿って町の灯や家屋の明かりもほとんどない街頭のみの闇を走る。
 走り屋には当然に名高い二台の白と黄色のMAZDA車。車だけでもぎょっとするのに、赤い、その場所にたむろするものからすれば悪夢であろうステッカーを見て騒然とし、慌てて携帯電話を取り出す者もいた。



 ここに黄色の車が訪れたことはなく、VIPとされるこの白い車が訪れたのは。
 一年以上前、熱いバトルを繰り広げ、そして涼介の誘いによって二人が初めて身を重ねた時以来だった。その時の思いつめたような、それでも痛みを隠してるかのような涼介の様子、そして諸共火の塊になってもおかしくないほどの走りを受けて、藤原拓海の時のように危機感からアクセルを緩めたのが敗因だった。
 性急にそれでも酷く緩慢に、涼介は誘った。自身と寝ろと。

「涼介」

 その声がその名を。その名を持つ本人に発したのもそんな遠い過去ではない。プロジェクトDという涼介自身が結成した、赤城RedSunsをベースにした県外遠征のチームへの参加を藤原拓海に打診した少し後。彼から電話で須藤京一と走りたいと言われたのだ。
 プロジェクトに誘ったのに涼介と走りたいではなく、京一のほうに気が向いているのは、こちらを無視しているようで釈然としない、自分達を軽く見ているのではないかと啓介は憤っていたが、直接藤原拓海の電話を受けた涼介はそれを否定した。

 拓海を唯一負かしたと。拓海本人がそう思っている京一に、新しいエンジンとなったハチロクでの可能性を試したいのであろうと啓介を諫めたのである。
 赤城で、啓介にそれを説明しているまさにその夜、京一と拓海はいろは坂でバトルをした。
 その前夜、涼介は京一に連絡をしたのである。

 二人にとっては赤城のバトル、その後の逢瀬以来の会話だった。涼介からの突然の電話に京一は驚きながらも用件を尋ねるもただ涼介は「今、そちらへ向かっている」と言った。
 そちらってどこだと聞けば家に、京一のマンションへ行くという。それを聞いて仕事場から急いで野暮用を済ませて帰宅した京一は、再びその白いFCが自身の住むマンションの駐車場に停まっているのを見た。

 一度目は。赤城での二度目のバトルの後、どうやって知ったか涼介は京一の住むマンションの駐車場にFCを停めて待っていた。
 赤城での勝負の結果ゆえに、やはり何とも言えない複雑な感情で、まとわりつくチームのファンや女達の誘いを振り切って帰宅した京一は涼介とFCがそこにいる、その姿に驚いたのだった。
 なぜだ。勝負には勝った筈だ。負けた自分にいったい何の用があるのだ、と。
 そう思い問いかけるも涼介の口からは挑戦的な言葉しか出てこない。
 
 まるで誘うように。またバトルを仕掛けるように涼介は京一を挑発した。

 そのつもりなら乗ってやる、と。部屋に入るなりキスしてきた涼介を存分に抱いた。
 そしてその熱量に溶かされ、疲れ果てて自身の腕にすがるように眠る涼介を見て気づいた。
 赤城でのバトルの後、自身のようにチーム連中に囲まれ、その勝利を祝っていたのではないのか? ましてや地元のバトルだ。ギャラリーもたくさんいてお祭り騒ぎだったろう。
 涼介の盲信者と言えるほどの弟、チームの人間。自身でもそうだが、強いリーダーを求めて集まってくる連中はそのリーダーの勝利に酔いたいものだ。
 なのに時間からしてもそれを振り切って、飛ばしても一時間は余裕でかかる宇都宮までやってきていた。自身の住み家は如何なる情報で調べたのか。何より、自身がいつ帰って来るかもしれない、或いは帰って来ないかもしれないのに。

 彼は待っていた。白いFCと共に。自分に会いに、そして抱かれるために。
 疑問とも言えるような、涼介への不可解な思いが。初めて涼介を抱いたいろは坂での二人のバトル以降、深みと甘みを増していっていた。

 そんな中の再びの涼介の来訪。自身に気づいて車から降り立つ彼の、艶めいた髪を風に吹かれて立つ姿が心もとなく感じて、思わず手が伸びそうになったのは何故だったのかわからない。
 発せられる言葉は相も変わらずの強気で、まるで何かを隠しているかのような挑戦的な目で。
 ぶっきらぼうに拓海がいろはに来る事を告げ、艶然と微笑みながらベッドへと京一を誘った。


「おもしろいバトルが観られると情報が入ってきたのでやってきた」
「ふ……勝手にしろ」

 思い出が交錯する。交わした視線に甘さはほんの少しだった。名を呼ばれて答えた涼介と、仕方のねぇ奴だというようにふっと笑った京一との僅かな間。
 二人の間に流れたものを流し去ってしまうような、風が二人を吹き付けた。

「風が強いな……今夜は」

 黒髪が枯れ葉を舞い上げる風に吹かれて夜目にも輝く。その後ろには呆れるほど派手な太陽色をした髪の弟がいても京一は涼介に目を離さなかった。

 ひらりと風が一陣吹いた。一枚の枯れ葉が涼介に纏うように舞って静かにアスファルトの上に落ちた。
 すっと京一の大きな手がその落ち葉を拾い上げ、涼介に語りかけた。

「そうだな。日光の山からの風に運ばれる枯れ葉。土壇場で勝負を分けるのはこの枯れ葉かもしれないぜ」
「気まぐれな落ち葉……か」

 京一の勝負への先見に、涼介はぼんやりと口を開いた。

 スタート地点は明智平から西へ向かう、中禅寺湖方面に向く明智平第二トンネルをくぐり、三叉路を右に曲がった下りの第一いろは坂へ入る前のガソリンスタンド前である。そこは依然、拓海と京一がバトルをした時もスタートをする場所にしていた。もっとも、地元でこの地を統べる京一はハンデキャップ方式というものを取った。地元でない車、この場合拓海の車を先行させた上でのバトルであったが、今回の小柏カイとのバトルではスタートも同時であった。
 
「そろそろスタート地点に揃ってるらしいですよ。秋名のチームも来てます」
「そうか」

 京一にチームメンバーからの報告が入る。それを聞いていた涼介がよく通る声で言った。

「京一、まだ時間がありそうだから少し話がある。あっちで話さないか」

 涼介の言葉に弟の啓介がぎょっと反応した。

「なんだよアニキ? 須藤と話って……!」
「チームリーダー同士、話すことがあるだけだ。リーダー同士の話だから邪魔はするなよ。おまえはエボWの岩城だったかな、仲良くしてもらえ」
「えええっ!?」

 兄弟二人のやり取りに京一は溜息をつくと顎をしゃくり

「清次、相手してやれ。客人には手荒にするなよ」

と言って涼介と共にレストハウスの方へと行った。



「ここじゃ見られる」

 涼介は京一と連れだって来たパノラマレストハウスの右横を更に奥へと行った。

「おい、そっちは暗がりで足元もよくねぇ。崖になってるから落ちるぞ。話ならここでできるだろうが」

 しかし京一は怪訝な顔をして、涼介の腕を引き戻そうと掴んだ。

「と言うか話ってなんなんだ?」

 腕を掴まれた涼介は京一へと振り向き、その目に艶めいた潤みを乗せて言った。

「暗がりでいい。こっちで人に見られないよう二人で話そう……京一」

 訝しむ京一は気づいた。涼介のその目が。あの時のようーーーーいろは坂のバトルの後やFCと待っていた時のような目だったと。

「……おまえ……」
「こういうのは嫌いか? ……京一」

 引き入れるように入り込んだ店の裏側で、涼介はいきなり京一の首に腕を回し、キスを仕掛けてきた。


 角度を何度も変えた深いキスは息を荒げさせた。舌は奪い取るように口腔を犯す。涼介は京一が自分の挑発に応えて舌で自身を味わっているのに歓喜する。
 尻を揉みしだかれ、熱くなった股間を擦り合わせる。硬い感触を布越しに感じてはくぐもった声が漏れ出てしまう。

「気づかれるぞ」

 すぐ近くで聞こえる、清次と啓介の騒ぐ声、そしてEmperorのメンバーの騒ぐ音に車の音。

「うるさいから大丈夫だ。それに手っ取り早く……」

 そういうと涼介は興奮しきった顔で京一のジーンズの前を手で撫で擦るといきなりジッパーを下ろした。

「おい! おまえいくらなんでも」
「うん……ふ」

 跪いて大きくなったそれを取り出して舌を絡める。扱きながら素早く裏筋や亀頭を見えるように舐めれば、歓喜した雄はたちまち望み通りの逞しいものになる。
 涼介は京一の性器を横舐めしながら満足そうに微笑み、喉奥深く咥え込む。目はうっとりと発情の熱に浮かされながら、口の中で熱く脈打つそれを引き込んでは舌をうねらせる。

「くっ……」

 京一は涼介の淫らな行為に眉根を顰めた。暗闇の中で弟や清次がいる駐車場からの街頭の、僅かな光を受けて唾液を光らせる。
 赤い唇と舌で己の凶悪に勃起した性器を舐め回し、頬をすぼめ咥え込んで頭を上下する涼介を見つめる。
 涼介は自身のジッパーも下ろすとビクンビクンと涎を垂らして反応している、京一とは違い男にしては綺麗とも言える性器を外気に晒した。

「おまえ……フェラチオしながら興奮してやがるのか」

 京一は涼介の滑らかな髪の中に手を潜らせて、上下する頭を誘導し腰を使った。じゅぶじゅぶと音を立てて、涼介の赤い唇の中にグロテクスな筋張りが引き戻されては打ち込まれる。

「そうだったな……おまえは……俺のをいつも美味そうにしゃぶる」
「んん……ふ……他の誰かに、使ったのか……?」
 
 口から取り出して、舌を素早く動かしながら涼介は憎らしそうに言った。

「ふ……気になるのか……」
「今は俺のモノだ……ああ……俺に興奮している……おまえのが×××が……」

 敏感になって蹂躙されることを望む下半身は、前は手でくちゅくちゅと音を立てて愛撫され、後ろは粘膜が熟れて疼くばかりだ。我慢できずに前を触って濡れた指で、急くように後ろへと指を伸ばした。

「んっ……んっ……」

 京一の男根を扱いていた手を離し、その手指を更に舐めて唾液をまぶすと切なげに笑みを浮かべて後ろへと挿入した。自身の性器も擦りながら、後ろは案外強引に指を挿入して掻き回す。
 口には打ち込まれる京一の性器、それをいつ見られるかわからない場所、すぐ近くでは弟さえもいるのに、こんないやらしい事をして興奮している。

「……誰か来るぞ」

 表から数人の声が近づいて来ている。

「俺あったけーコーヒーな!」

 その中には清次や啓介も声も混じっている。

「チッ」

 京一は忌々し気に舌打ちをした。己の下半身に顔を埋めている涼介を見やればうっとりとしながらも、挑戦的に目を鈍く光らせて前後運動を繰り返している。
 清次たちは大きな声で騒ぎながら自動販売機で何かを買っているようだ。靴音と声、そしてジーガコンガコンと自動販売機を操作する大きな音が暗闇に響く。

「アニキ、まだ話終わんないのかよ〜、どこで話し〜うわっ」

 刹那、強い風が枯れ葉を伴って明智平に吹き付けた。

「ひえ〜、さっみい! 風強すぎるって! アニキ! アニキまだ話してんのかよ?」

 涼介と京一が連れ立って消えた、パノラマレストハウスの奥へ向かって大きな声を上げた啓介を何かを察したのか、ぎょっとした清次が諫める。

「しっ、リーダー同士の話だって言ってたろ? 俺達にゃわかんねぇ難しい事話してるんだろうから邪魔しちゃいけねぇぞ!」
「わーかったよ、でもさっきの話、岩城って面白いよな〜」

 わいわいと言いながら遠ざかっていく声を聞きながらも、涼介は臆することもなくその目に悦楽を乗せて口淫と自慰をし続けている。

「……涼介、おまえ本当は見られてぇのか……人がいるすぐ近くで男の×××をしゃぶって喜んでるおまえ自身の姿を」
「ふ……ん、んふ……ん」

 京一の腰が加減をしながらも前後し、涼介の艶めいた髪がその動きと、吹き抜ける風の余韻に煌めく。

「しかもてめぇで×××を扱いてやがる……ケツにもずっぽり指を挿れて手遊びだ……まったくいやらしい事が好きだなおまえは」

 涼介はそうだと応えるように頭をスライドさせながら舌を男根に絡みつかせ、裏筋をタッピングした。
 少し睨み上げながら、いいから早く出せと言わんばかりに。

「ふ……ったく飲みてぇのか……ほら、出してやるから口を開けろ」

 喜びに目を輝かせた涼介は大きな性器を口から出した。
 仁王立ちした京一が誇らしげに濡れた性器を扱く。赤く上気した頬や鼻に、ピタピタと当てられる。舌で追いかけるも、今か今かと口を開けながらその時を待っている。

 大きく無骨な手が、ジッパーからそそり立った性器を扱くスピードを速めた。涼介は自分の自慰の手も速め、腰をじれったそうに揺らし、くねらせた。

「イクぞ……、ちゃんと全部飲めよ。それとも精液まみれの顔で皆の前に出たいか……」
「そんな……ア、出るっ……」

 京一の大きな亀頭の鈴口がぽかりと開いて、白い濁りが勢いよく涼介の喉の奥に打ち込まれた。二度三度ビャッビャッと、狙ったように口蓋垂に生温かいぬめりが当たる。

「ク……、ああ、溜まってたからな…大量に出たぞ……」

 大きな体躯を僅かに強張らせて弛緩させ、深い溜め息をつきながら、京一は残酷にも見えるような獣じみた目で涼介を見つめている。

「……喉に熱い…美味しい……っ」

 涼介は半開きの目で鼻から熱い息を漏らしながら、大きく開けた口が白い粘りでいっぱいになるのを実感しているようだった。

「ア……ああ……あ、アア……」

 迸りの勢いが緩くなってくると、粘ついた白い糸を引いた舌を閃かせて、膨れ上がって小さな射精を繰り返す亀頭を刺激し、さらに滲むものを舐めとって味わい飲みこんでいた。

「ああ……素敵だ……おまえの……ザー××……」

 涼介は京一の性器もソレも、味わう事が殊更に好きなようであった。
 同時に陵辱者を欲しがる肉壁に指を奥まで乱暴に突き立て、勃起しきった性器は淫らな指や手で弄りまわされて、京一の精液を喉奥に射精されたと同時に達していた。
 尻を震わせ、射精した精液は荒れてひび割れたコンクリートに重く飛び散って、鈍い光りを帯びた滲みを作っていった。

「……おい、いい加減戻るぞ」
「……」

 ビクンビクンと鎌首を持ち上げる京一のそれから伝う、光る白濁の糸を舌に引きながら名残惜し気に舐め上げていた涼介の頭をそっと押しやる。呆れて苦笑した京一はポケットを探った。

「ほら、顔を拭け。俺ので汚れてるぞ」
「ん……」
「それともそれつけたまま弟や皆の前に出るか? 汚れた彗星……ちょっとした見物だな涼介」

 唇の端や頬に光ってぬめる粘液を京一は指でそっと拭い、涼介に見せる。涼介はほうっと溜息をつくとその指を夢見るようにしゃぶって舐めた。

「そんな興奮するような事は言うな……また勃起してしまう」
「やれやれ」

 それぞれ汚れた部分を手持ちのティッシュやハンカチで拭うと、爆音と歓声がひときわ大きくなっている表へと向かう。

「……ア」

 立ち上がって歩き出すもふらついた涼介の尻を京一の大きな手が掴んで、揉みしだき、涼介の弱点でもある耳の裏に唇を当てて低く、京一は囁いた。

「ここもまだ疼いてるな? 剣が峰展望台を超えてトンネル手前に右に隠れる場所がある。弟をまいてそこで待ってろ」
「わかった……」

 それを待っていたという顔で。淫靡な期待に溶けたような顔を向けた涼介の、まだ精液の味が残る口に舌を突っ込んで蹂躙する。
 そして片方の手が涼介の興奮して尖った乳首を絶妙に弄る。ピリリッとした快感が全身に駆け抜けて、ああっと甘さをじゅうぶんに乗せた溜息をつく涼介は京一の指が刺激する後孔を収縮させた。



 ジ――――ガコンと音を響かせて、京一は取り出したミネラルウォーターのペットボトルのキャップを開けると自分も一口あおり、次いで涼介に差し出した。

「遅いよアニキ! 藤原達スタートしたみたいだぜ!」
「ああ、今連絡が入った。揃ってのスタートだってよ、京一」

 Emperorのリーダーである京一が前に歩き、赤城RedSunsのリーダーである涼介は少し遅れて皆が待つ場所へと着く。

「なに? 寒いのに冷たい水なんて飲んでんのアニキ?」

 ペットボトルをあおり、勢いよくけっこうな量のミネラルウォーターを飲んでいる涼介を見て啓介が驚いたように声を上げた。

「……ふう。喉になにか絡んでるみたいでいがらっぽくてな」

 微笑みながら涼介は、変な顔をしている啓介に口元を拭いながら言った。
 
「車に置いてあるパソコンを取ってくる」

 そう告げると涼介はすっと京一の横を通り過ぎて、自身が乗ってきていたFCへと向かった。片眉をあげて無関心を装った京一と、意味深なアイコンタクトを一瞬したのは誰にも気づかれはしなかった。

「ここからならいろはが見える」
 
 半分ほど中身を残したペットボトルは車内に置き、代わりにノートパソコンを持った涼介は、一行と京一の言葉を受けて駐車場からいろは坂が見えるロープウェイの側の柵近くまで来た。夜目にも真っ黒の男体山が見え、その手前に何個かの蛇のように曲がっているコーナーが見える。

「ここでいいか」

 涼介は頷き、柵を支えにしてノートパソコンを開くと起動ボタンを押した。

「こんな場でもパソコン持ってきてやがんのかよ。やっぱリーダーはちげぇなあ」

 呆れたような清次の声に啓介が

「ふん、俺のアニキはすげーんだぜ!」

と自慢気にやり返していた。



「小柏の奴、やりやがったな」

 どこか面白げに京一が言った内容は、地元である清次よりも涼介の方が素早く理解をしたようだった。地元走り、掟破りのそれを仕掛けたカイはいろは坂の折れ曲がったコーナーを飛び越えるショートカットで先行していた拓海のハチロクを抜いたのだった。

「だが早すぎる仕掛けは相手に、精神的なダメージから立ち直る余裕を与えてしまう」

 ノートパソコンを操っていた手を止め、風に黒髪を揺らしながら、涼介は冷静な顔で京一に言った。きりっとした清廉な顔で。
 さっきまで、数分前まではその唇で京一の雄を愛撫し、歓喜して精液を飲んでいたのに。

 そんな淫蕩さを全く感じさせずに質問する啓介や清次に答える涼介を見て、京一は苦笑した。それは自分もなのだ。涼介の突然の誘いはこの場で考えれば、普通の精神で考えれば乗るべきではなかったろうに。
 刺激的で蠱惑的、まるで堕ちていくのを愉しむような、そんな涼介の態度の中に見える揺らぐ影を捕まえたいと思うように。
 その手は拒否をせずに涼介の望むようにさせ、自身も男の部分を十分に愉しませてもらった。


「ハチロクが勝った! 小柏の奴、ゴール寸前でスピンしたそうだ」

 清次が伝えられた内容に目を見開いて京一、そしてその後ろにいる涼介と啓介に伝えた。その声音には驚愕と興奮がよく聞いて取れた。

「そうか」

 感慨深げに答えた京一の言葉を受け、涼介はふっと笑ってノートパソコンを閉じる。隣では驚きながらも、拓海の勝利に笑顔を輝かせる啓介がいた。

「アニキ!」
「……ふ、帰るとするか啓介」
「ああ」

 背が同じくらいの二人がそれぞれ己の車に乗り込む。兄弟であっても二人の異質なキャラクターをそのまま具現化したような、二台のMAZDA車は明智平の駐車場をゆっくりと進む。
 白のFCが先に走り、明智平の一方通行の道を下りの第一いろは坂へと行くために明智第一トンネルへと向かう。
 駐車場を出る僅かな間、ルームミラー越しに涼介は腕を組んで己を見つめるこの地の皇帝に小さく「京一、待ってる」と呟いた。

[2]へ続く

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