To Mobile [2] | ナノ
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To Mobile [2]

 研究室にいないときは、たいてい部屋にいる。以前は闇深い山の中、峠であることが多かったのだが。

「最近は暇になったんだがなっていないんだか。まあ、試験も受かったし暇と言えば暇かな……」

 涼介は最近手に入れた携帯、いわゆるスマートフォンを片手に、デスクトップのパソコンをいろいろと弄っている。

「便利になった。今では何か調べたいときは声を掛けるだけだもんな」

 パソコンで入力するより早く、呼び出せばいい。

「KIRI。〜を調べてくれ」
『了解シマシタ、検索結果ヲパソコンニ表示シマス』
「ふむ」

 涼介は満足げにパソコンのモニターを見ている。しかし何か気に入らないものがあったようだ。

「マイナー検索の結果が甘い。もっと、詰められないものか……」

 調べたいものがあってもいらない情報が多過ぎる。そこに引っかかって時間を取られるのは実に無駄であるが、実際そうなのだ。

「さすがに……プリインストールアプリじゃそこまでの性能はないか」

 それは手許のスマートフォンに初めからインストールされているアプリである。声を掛け、質問や探し物、注文を言えばそれに応えてアプリがさまざまにスマートフォンを動かすことができる。いちいち、自分で画面をいじらないで済み、明確化されたシステムが人気だった。
 涼介はチラとスマートフォンを見ると、おもむろにパソコンに入力し始めた。

「もっと学習機能のある……優秀な、KIRIのような何か……あれば……」
『……』

 KIRI。そのマイクは涼介の呟きを拾い、そして

『了解シマシタ、検索結果ヲパソコンニ表示シマス』

と言った。

「……。ん、これは……KIRIのような……しかしもっと優秀なOS?」
『ワタクシKIRIノ、試験的、実験的ベータ版、ヒト様OS(Operation System)ソフトウエアデゴザイマス』

 画面に現れたそこは、大々的には宣伝はしていないが、OSを使用するモニターを募集しているようだった。

「へえ……ヒト様ってね。いくらなんでもヒトってのは……」

 インストールのボタンをクリックしながら、涼介は口を皮肉に歪め、その秀麗な美貌に冷たくも見える笑みを浮かべた。

「人間ほど、訳の分からないものはないっていうのに」

 思い出しながら目を据わらせ、涼介の面からすっと笑みは消えた。

 人殺しをしようとした男と、自分自身を殺してしまった女。

 自身を殺そうとしながら、己はまだあの冷酷な女性に選ばれる立場であるのだと愚かにも期待し続けた男(実際に殺されかけたのは突然のブレーキの故障というオカルト的な目に遭ったその男なのだが)と。
 人の人生をあっさりと、何の感慨も遠慮もなく爪で弾くように「つまらない」と言ったり、家同士を巨額な金銭で繋ぎ、人生の一大イベントである結婚を涙だけで反故にできると思えるその短絡的な自信と容赦のなさを持った女に。

「…………」

 身も蓋もない言い方をすれば壮絶に巻き込まれ、利用された自分と。そのことがずいぶん、思ったより響いていることに少し溜息を吐く。

「……ヒトなんて、どうせ……」

 信頼していた先輩、その婚約者だとは言わずに近づいてきた、自身にとっては絶対にできないふるまいをする女。

 涼介にとってどちらにもそれなりに持った情の部分は、騙され利用されて踏みにじられた。そして医師の卵であるのにその死をリアルに中継され嘘のように、そのエゴイストの死を告げられた。

 夢でさえも。不幸だと言われた医師の道も。まるで呪いをかけられたように死を刻まれてしまった。

 それはもう一人の、その女との華々しい、だけれども何故か大学内の周囲に秘されていた婚約をしていた男もそうだった。
 後に、大学の中でも金を持っているいわゆる遊び人の男達何人かには気の毒そうに言われた。

――――北条先輩もお前もあの女の事マジで知らなかったのな……先輩は婚約を公表したがったのにあの女は絶対に言うなと言って周りに隠してるって。そういう女だって影では知られてたっつうか。
 と。
 免許を取り、車を買って車に夢中になって、走り屋というのを先輩に教えてもらい、望まぬ道とはいえ勉学と共に楽しい日々を送っていた自分、その先に美しい婚約者との幸せな結婚があると信じていた先輩。
 
 自分達はなんて――――バカで子供で、愚かだったのだろうと。

 まるで何か悪い夢、そしてタチの悪い冗談のような。どこか滑稽にも見えるかもしれない踊らされた二人の男。
 傷はもちろん、あちらの方が深かったろう。愛していた分。
 そして、残った者二人での問題であったように見えて、実は死んだ者とそれを愛していた男との二人の問題が核心であったのだ。
 最初から蚊帳の外であって、そのスペックから材料に選ばれたようなものだった。

 自分はだから負い目もあったのだ。走りに没頭できるくらいにクリアーであったから。

「……面倒なだけだ……」

 しかし責め続けられた。あれだけ親しい間柄だったのに。殺すと相手が思うほど、Dを推し進める、それはいけないことだったらしい。

「……だったら独りでいた方がいい……」

 苦痛にまみれ諦めたような、どこか諦観したその声音を

『はじめまして。どうかされましたか?』

「……え?」

 自動解凍されたそのOSは拾った。


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