11'Now Gift for you ,Holly Night[1]
今年のクリスマスはここ最近、数年のクリスマスの中では安穏としたものじゃなかった。
恋人同士なら当然に会う約束をし、その夜は性? なる夜を過ごすのが当然とまでは言い難いが、そうなのであろう。
今年は珍しくと言うか、仕方が無いのだが各人の用事が重なった。別にイブでなくともいつでも俺たちはラブラブだ…とハハハと乾いた笑い声が12月24日の深夜の群馬医大、研究室のある一画に響く。
「ああじゃあな」
ピッと音をさせて携帯電話をパタリと閉じる。ふ〜と深い溜め息をついた稀に見る美形、高橋涼介は肩を落とす。
「……啓介はクリスマスを謳歌しているのに何で俺は……」
同じ研究班である数人が今夜はどうしても……と頼み込んできた。とは言え、元々は助教授の手伝い程度のもので検体の時間ごとの観察だけなので、ひとりいればこと足りるようなものだった。
「……今夜で童貞おさらば予定クンと、初めての彼氏とのラブラブクリスマスの予定が! と、泣く真面目そうな女子……の頼みなんだ。数年前からあの京一に最高に愛されて最高に幸せな俺が、少しくらい幸せを分けてやってもと思ったんだ……」
毎年、京一の部屋であらん限りの痴態を繰り広げる発情クリスマスな涼介であったのだ。
「…………」
鏡のような夜のガラス窓に映した、いろはの皇帝須藤京一と赤城の白い彗星高橋涼介の愛し合い、求め合う本能のままの姿。
「……ほう……」
局部も結合部も露わな無修正生本番な光景を思い出す。汗と体液と精液にまみれ、てらてらといやらしく光る京一の極太のキャンドルが己が秘密の花園に侵入し、ハメて出してハメて出して、入れて抜いて入れて抜いてのThat's Holly Making Love。
とろけるような愛撫と腰の妙技で、突き崩されて乱れ溶け落ちる雪の花びらの数々……。
激しい律動に責め立てられ、逞しいアレから熱い蝋を垂らされて注がれて、ぱくぱくと開く花園や、突き出された舌や大きく開けた口腔にたっぷりと……。
「……あ……」
迸り、舐めあげられて、爛れたような花園をまた舌で存分に慰撫されて。
おねだりするままに、にやりと男臭く、いやらしく笑いながら恥ずかしい言葉責め……エロオッサン京一に欲しがる体を実況され、放送禁止用語を言わされて。
さんざん焦らされて我慢できずに、自らいじって開いたアソコを見せつけ、ようやくぬっぽりと挿入されて……。
「……ああ……っ!」
思い出すだけで…。
「……はあ……っ……駄目だ、前がつっぱらかって……っ」
白衣の下はコットンパンツである。そんなに押さえが利かない。発熱したんじゃないかと言う様な上気した桃色顔で涼介は呟く。
「困ったな……。このままじゃ……トイレでも行って抜いてしまおうか」
すんなりとした立ち姿。そして立ち上る清潔さと裏腹な、誘い込むような色気を持つ、赤城の白い彗星、群馬医学部の王子様が言う台詞とは思えないものが涼介の口からため息と共に漏れ出る。
「しかし……イブの夜にひとりトイレでシコシコとオナニーするなどっ……! そんなの、この赤城の白い彗星、京一の無二の恋人の俺にふさわしくないっ!」
頭の中でごんごんと唸っていたつもりが、いつの間にか口にしていて案外大きな声だったようだ。
「……高橋?」
顔面蒼白となった偶然通りかかった同級生が驚愕と狼狽と困惑と恐怖が綯い交ぜになったような顔をして立っていた。
「別に具合が悪いわけじゃない」
涼介の熱っぽい顔と意味不明な言動を心配した同級生の薦めで保健室? のような場所に連れて来られた涼介である。
「……いろいろ考え事をしていただけだ」
既に下半身の涼介自身は座布団でくつろぐ猫のように、大人しく鎮座している普段のスタイルに戻っている。
「……少し休めば平気だ」
僅かに残る赤い顔で強気に言い放つ涼介になおも人のいい同級生は心配をする。
「……じゃあ何かあったら呼んでくれていいから。後は僕たちでなんとかできるし」
同級生はベッドに座る涼介に愛想笑いをするとそそくさと退散した。
「……普通、この俺が夜の大学構内の保健室で休んでいたら、あまりの俺の美しさにソノ気になって襲い掛かってきてもおかしくはないのにな……そういう展開を繰り広げる薄い本もたくさんあるってのに……なんだあの及び腰は……」
親切な対応を受けていながらも、どこか引いた同級生の態度に眉根を寄せる涼介である。
「……ま、いいか……」
ごろんと横になる。そして手持ちぶたさにポケットに入れておいた携帯電話を手にする。
「……東京へ出張だと言っていたな……」
クリスマスイブに大学での研究が決まってしまったと言う涼介の話を聞いて、京一はそれならば……と以前から打診されていて、断り続けていた東京への出張を決めたのだ。
「…………」
今ごろはどうしているのだろうか……。接待やなんだが大変なんだと言っていたから、今の時間までそうなのだろうか……と、涼介は携帯電話を開く。
「……会社の接待なんて、まさか俺の京一がキャバレー(*注 涼介の認識です)なるいかがわしい場所でネクタイを頭に巻いて……部長〜ナイッショーナイスインですよ〜(ゴルフではない)なんてやってるんじゃないだろうな……。それとも年増の女性に気に入られて、須藤くん……私を乾杯してみない? なんて言われてたり、私のコルクはもうゆるゆるよ? なんて言われたりしたら……」
あらぬ妄想のしすぎで、こめかみに血管な涼介である。憤然と携帯電話の発信ボタンを押すが、すぐに消しを連発で繰り返した。
「…………」
しかし、じょじょにボタンを押す音は間隔が大きくなってきた。涼介も何かを思い出すように遠くを見ているような目になっている。
「…………」
アドレス帳を開かなくても、即つながるように設定している。そうだ、あの頃とは違うのだ。何度も何度も発信ボタンを押しては切っていたあの頃とは。
「…………」
ピッと音がする。そしてまたピッと。変わらないのはあの頃と同じ、今はこんなに愛されているのに、ただ会いたいと言う気持ちだけ。
―――――……好きだと言う気持ちだけ……
「……馬鹿……」
身をつなげ、心を通い合わせてから京一は、寂しい想いはさせないとよく言っていた。想いを封じ込めてひとり佇んでいた涼介の、心の痛みが痛いほどわかったからだ。
赤城の白い彗星と呼ばれ、群馬医大で首席を取る、容姿端麗な悩み事など欠片も無さそうな、恵まれすぎていると羨望と嫉妬の目を集める自分が。
結局は夢ひとつ何ひとつ自分の手で叶えることもできず、口に出すこともできず。弟に譲り後進を育て、そして望まぬ道を何一つ文句も言わずに進むしかないのだと言う事実。
「…………」
自分の存在は何なんだろう、叶える手腕を持ちながら最初から無理なんだと己を納得させて言い聞かせてきた。それは「走る」こと以外、全てのことに関わる、自分の望み、願望と言うもの全てに及んでいたことなのだ。
―――――……なっていいのか…? 俺は……幸せに――――なんて……なっていいのか……?
あの桜の木の下で。海外へ出張へ行っていた京一と涼介は再会し、愛を確かめ合った。
その時のことを思い出す。涼介は、自分は。
幸せになってはいけないのだと。
幸せ―――――己の願望を叶え、口にすることはしてはいけないのだとそこまで刷り込まれていたのだ。
幸せになるのが怖い―――――その言葉は映画か小説かの話の中の台詞だったろうか。
京一の腕に戻るまでの涼介は確かにそうだったのだ。
そんな自身を京一は逞しい腕で引き寄せ、抱き締めた。
――――……なっていい……―――――……幸せに――――……俺がしてやる……
あの時、自分は世界一幸せだと感じた。そしてそれは今も続き、たくさんの小さな幸せを感じることを教えて貰った。
怯え震える自身の内なる涼介。
それを見抜き、窒息しそうな世界から自由に自分を表現できるよう手を伸ばして捕まえて。
「……京一……」
周りに囲ういろいろな物、それに従わなければいけないと……と言う強迫観念に近い感情を優しく壊して、素の自分を引き出して包んでくれた。
「……あのバトルこそ……」
真っ向から全力で須藤京一は捕らえ、高橋涼介も何も飾らず全力でぶつかった。
「……俺の真実……」
一度目も二度目も、そんな自分でいれたのは京一だからこそだと。
「……愛してるんだ……京一……」
携帯電話を手に、涼介は熱い涙をぽろぽろと零した。
[2]
SS Deep