Naked
その夜のことを忘れはしない。
忘れるはずがない、心にも体にも深く刻まれた。
数年ごしの想いを繋げたあの夜――――――そこに在ったのは、素裸の自分だった。
そんな自分が。そこまで自分が。幾重にも厳重に張り巡らせた壁が見る見る落ちていく。
それは一つの言葉がそうさせた。その言葉が持つ意味がそうさせた。
"愛されている"と、それを望み、強烈に求め続けても。
諦めるしかないと言い聞かせてきたのに引き寄せられ、腕の中に呼び戻されて隠し続けた心が露になった。
暴かれて、曝け出される。何より怖いはずだったのに。
自らボタンをひとつ外し、外しきれない残りのボタンを大きな温かい手がそっと外していく。
群青色のベッドに横たえさせられて脱がされていくシャツの中、冷気に粟立つ肌はそっと撫でられ、口づけを受けた。
震えるような溜息と共に灯される熱に、じょじょに艶めいていった。
流石に始めは。
その手は上にのしかかる男の上腕あたりを、男を微妙に押し戻し、抵抗するように強く握っていた。
そして、ゆっくりと男の背筋がうねり、動き出す。握りこんだ指先は白く、しかし震えが指先に訪れる。
男の逞しい腕が、抑え気味にベッドに立てられていた腕が。
動きが速くなるにつれて、肘を着き、何かを包み込むように動く。
白く指先を立てていた細い手は、男の肩を押し戻すようだったのに、立てられた指先が向きを変えて、男の体を引き寄せるようにまさぐる。
声は――――――苦痛を堪えた重いものから、軽く甘い響きを滲ませていき。
混沌と交じり合う荒い呼吸と詰まるような低い呻き、身の熱さを吐き出すような深い溜息。
スプリングの軋みと、瑞々しい粘着音が室内に響いた。
言葉にならない喘ぎ、なのに名を呼び合うのは。
二人の想いの強さと深さを、表しているのだろうか。
――――――薄暗い部屋の中、ぼんやりと灯りを燈して、それを思い出して語ってみよう。
胸にしっかりと刻み込まれて、連綿と甘い想いを湧かせているのだろう。
時には口に出してみるのもいいのではないか? ゆっくりと、とりとめのない話でもいいから。
二人の大切な思い出の宝箱をそっと、開けてみようではないか――――――
Ryousuke taking
―――――……男に抱かれた。昨夜、俺は京一に抱かれた……
帰り際、FCに乗り込んだ俺に開いたウィンドウから、そっと贈られたキスを、まだリアルに唇に感じる。
その少し前は、互いに服をはだけて。別れを惜しんで体温を、肌を触れ合い、確かめて。唇や舌を貧り合い、熱く疼く体を擦り合って達した。
その前は気を失って眠りに付く寸前まで、激しいセックスをしていた。
――――……何度抱かれたろう……
息つかずに、まだ喘ぎながら発した俺の言葉は。
―――――……本当に……男同士でもセックスってできるんだな……と。
京一は汗を額に浮かべながらも男臭く苦笑して、俺の額にそっとキスをした。
怯えた心と体はずっと性を拒み続けてきた。
自覚はあった。女性にはある程度の人に友情のような感情はあっても、性的には何も感じない自分だった。
そう……揺らぐ記憶は、最初から。
京一にだけだった。
「――――……あ……京……も……っと……」
溺れてしまいそうな俺の助けを求めるような声に、応えるように引き寄せて、俺を包む逞しい腕も。荒々しいキスも。
「……涼……介…………腰……浮かせろ……」
従うよりも強い力で、抱え上げられて晒される体。充分過ぎるほどに熟れてヒクヒクと息づく場所を、宥め溶かすように舐めまわされる。
羞恥に唇を噛んでも、すぐに開かれて洩れ出す声。
「は……あッ……ア……ッ―――」
俺の方が早いんだ。バトル以外では悔しいが。
「ん……ふぅ……う」
京一のキスが好きで。
もう何をどうされているか、訳がわからなくなるくらい溶かされても。縋りつきながら、ずっとねだってた。
「あああ――――……はあ……」
熱い舌が螺旋に俺を舐め回す。開いた唇を当てながら。
時折唇で挟み込み、甘く噛まれて。体中を熱く荒い息が這い回って。
俺を捕まえて逃げることを許さずに。俺の全てを奪っていく。
「……堪んねぇ……――――……ク……ッ―――」
ベッドが軋むリズムは段々速くなる。
「んう……ああ……あッ……ア……ア―――……」
俺の体の奥に熱く硬い―――こんなに深く京一を感じる。
「まだ――――だ……足り……ねぇッ……もっとだ……ッ」
ドクリと撃ち込まれて。ああ……と仰け反り、芯から痺れる。
浮遊するような感覚の中、突き上がる衝動。溢れる京一の白い血を、もっと注ぎ込んで欲しいと縋る。
「ああ……あ……きょう……ち……きょ……う……もッ……俺を……」
抱いて欲しい。愛して欲しい。
俺はこんなにも、お前を求めていたのか。
「また―――――ああ……達く……イ……ク……ゥ……」
お前に求められる、欲される事がこんなに震える程嬉しくて。
「――――涼…………、……涼……介……ッ」
追われて、捕まえられて、離さないと刻み込まれて。
このまま一つに溶けてしまいたいと。
「……愛し……」
心の底から思った。
――――……それが俺の
京一を愛し続けた俺の本当の姿。京一に抱かれて愛されて、俺は在りのままになれる。
そんな俺を、どこまでもいつまでも、何があっても。
ひたすらに包む、俺の愛した男。
kyouichi talking
―――――……アイツを抱いた。昨夜、俺は涼介を抱いた……
帰り際、俺を見つめる瞳が、溢れる程の揺らぎに満ちていた。
その前は体をまさぐり二人極まって。眠る前には、何度達したかわからないくらいだった涼介が気を失った。
――――……我ながら
どれだけ飢えていたのかと。
男に抱かれるどころか、全てが初めてだった涼介を貧り尽した。
俺の打ち込むリズムに合わせて掠れた高い声を上げ続け、それが途切れてぐったりとした涼介から身を引き抜くと、下肢から溢れ落ちた白と赤。
俺の目は見開き、痛々しさと自身の激しさに呆れながら。
熱を持って綻んだ其所を、舌で丹念に癒した。
舌に触れる熱く熟れた場所。俺が開いてそこに欲望を捻じ込んだ……誰も知らない場所。
はっきり言えば完全に理性はブチ切れた。涼介の真っ白な体に、己れを刻み込む。身のうちが震えて、腹の底から熱いものが噴出しそうになる。
流石に初めはキツく、痛みに二人格闘したが。
涼介は、止めるなと掠れた声で言った。俺に抱かれたいと、一つになりたいと。
いじらしさに、胸が掻きむしられる。愛しさにネジ切られそうになる。
俺を漸く受け入れて、じょじょに艶めく腕の中のお前は本当に――――綺麗で。
「京――――……ああ……感じ……る……」
そんな甘い声を、暴走しそうな俺の耳に注がれる。
「涼介……お前ん中……」
指に伝わる熱さ、悦楽の場所、ジュグリ……と締め付けて指に絡む。
こんなにも、欲望に己が理性が絡めとられたことは無かった。いや、それをずっと望んでいたのかもしれない。
俺の中にある強烈な飢えが。漸く手に入れた極上の獲物を前に、暴れだそうとしている。
たまらなくなる、ここにもっと俺を捻じ込んでやりたい。
「はッ……ああ……ア……」
涼介の腰ごと掴んで、揺らして。甘い蜜を滴らす場所も含んで。
「あ……あッ……達く……ッ……ああ……」
そして飲み干し、舐め尽した。
膝裏を押し上げ、腰を持ち上げて。更に繋がる場所を解かして、溶かして。
捻り込む舌が熟れた粘膜に交わる。
お前の体のどこもかしこも、俺と交わらせてやる。
身を繋げて、狭い中をゆっくりと。痺れるような快楽に本能に絡めとられそうになる。
「ああ……京一……こんなに……」
――――深く繋がって
すぐにでも、突き殺してやりたいくらいの激情に。
「んあッ……ああ……あ……きょう……」
俺の腕の中で、俺に足を抱え上げられ、仰け反り、晒される白い喉はヒクヒクと上下して。
ぎりぎりに傷つかないように、必死で自制しながらも。
濡れた音を立てて、刻み込む。
もう何もわからないくらいに、喘ぎ続けるお前の精が。
激しく律動する二人の体の間に散り、上気した頬にまで滴は光り、俺の舌が掬い、味わう。
「涼……介―――――涼介……」
涙を流して縋る可愛いお前に。何度も俺の血を注ぎ込んでやる。
「んッふ――――んう…………ふ……ああ……あ……熱……い……」
もっと深くに、もっと奥に。俺の熱い迸しりをぶちまけられて。何て艶めいた顔しやがるんだ。
「ア……ッ…………いい……いい……」
のけぞる首は見事なラインを描いて。
月明かりに浮かび俺を眩惑する。その息を呑む光景は。
何年も何度も
こうやって、お前を夢の中で抱き続けた俺の。願いが叶い、更に深い欲でお前を刻む。
決して離れぬように。
二度と離れぬように。
それはあの時のバトルのように逃げ場を無くして、確実に追い詰めて容赦無く。
身勝手な欲にまみれた俺は、お前の全てを奪い尽くして、まだ足らぬと餓え続けお前を掴む。
そんな俺を求めるお前に
俺の全てはお前に
初めて会った時から
お前にだけに
Naked
2009,3/7 end