男達の裸バトル | ナノ
[Menu]

男達の裸バトル

 北関東周辺の今をときめく走り屋達にとある怪文書が廻った。

――男なら闘え! 晒せ! 「裸バトル開催」日時……場所……―――
*ジーンズ着用

「……で?」

「いや、京一どう思うかなあって」

「…………だから?」

「なんか面白そうだなーって」

「…………なんでジーンズ」

「マニアかなあ? ああ、フルチンは不味いからかあ」

「…………と言うより企画自体……」

「これ、赤城や塾に埼玉も絡むらしいぜ」

 こめかみを抑えていた京一が顔を上げる。

「……マジか?」

「おう、何か走りも体も最高な男ってのが勲章らしい」

「……意味がわからん」

「どうするよ? みんな偉いやる気みたいだぜ。赤城の弟の方なんか、わざわざ電話してきて筋肉ダルマなんかアウト オブ 眼中なんてほざきやがんのッ!」

「………………」

「埼玉の86なんざ、男はセックスアピだろッ! ケケケだとよッ!」

「……………………」

「勝負事だからよッ! 舐められ……」

「お前ら全員脱ぎやがれえええええッ!!」

 言い終わる前に深夜の明智平に怒号が響きわたった。
 総員何事かと、しかし尋常ならざる我が君主たる皇帝様の勅令が下った。

 各員頭が真っ白、顔は真っ青になりながらもオズオズと脱ぎ出す。

「男ならサクサク脱ぎやがれッ! おら清次ッ!」

「待ってましたああッ!」

 馬鹿な子程脱ぎたがるのを地でいく清次が先陣を切る。
 他のメンバー達も慌てて脱ぎ出し、転ぶ奴までいる。

「下は脱ぐなッ! よしッ! お前ら一列に並べッ!!」

 20人もの半裸の男達を一列に並ばせて、須藤京一―――いろはの皇帝と呼ばれるエンペラーのチームリーダーは、まるで鬼教官のようにさげずんだ目で一人一人を舐めるように見る。

 ゆっくりと歩を進め、我が皇帝に品定されるメンバーは気が気で無い。

――羞恥プレイですか……京一さん

――そんなに見つめないで下さい……京一さん

――いや、もっとその目で俺を見て下さい……

 各人其々が心で呟く。一人清次だけが何故か上機嫌である。

「…………揃いも揃って筋肉はまあまあだがバランスが悪すぎる」

 吐き棄てるように呟く我らが鬼教官殿。

 一層縮こまるメンバー達には少しの悦。

―――もっと責めて下さい……京一さん

「……駄目だな……こんなのはバトルにならねぇ…………走りもそうだ……馬鹿みたいにパワー勝負するんじゃねぇッ!」

――ああ……もっと叱って下さい……京一さん

「京一ィ、走りもだけど見本がいるぜぇ」

 清次のどこかどころかあからさまにキラキラした声音に半裸の男達は弾かれた。

「そっそっそうだッ! 見本見せて下さいッ! (清次ナイスだッ! )」

「そッそうですよッ! おねッお願いッします! (清次ッありがとうッ! )」

 うねる男達の哀願に溜め息を吐いた京一は仕方ねぇなとブルゾンを脱いだ。

 ゴクリ……―――

 誰かどころかほとんど全員の喉が鳴る。ブルゾンを清次に預けた京一は白いTシャツを下からゆっくりと捲り上げた。

 引き締まったウエストに腰骨、うねる腹筋が覗く。

 捲り上げる腕を途中で止めると伏し目がキラリと正面を向き、口を皮肉に歪めるとチロと下唇を舐めた。

―――俺ら誘ってんですか…………京一さん……

 一気にTシャツを脱ぎ捨てる。晒された鍛え抜かれた逞しくもしなやかなバランスのいい…………

――……スゲェ……です……京一さん……

 浅黒い肌に広い肩に厚い胸板……

―――すがりつきたいです……京一さん……ああ……

 溜め息とムワンとした熱気の中、京一は呆れたように腕組をした。

「……満足か?」

――……満足どころか鼻血出そうです……京一さん

 腕組してしなやかな体を晒す我らがエンペラーに男達は呆気し上気して見つめる。

「俺がやりますよ。須藤さん」

 いつの間にか至近に来ていた短髪の青年は。

「小柏……」

「テメェッ! 何しにきやがったあッ!」

 イキリ立つ清次に京一がいさめる。

「……面白そうじゃないか」

「流石、須藤さん、まずは見て下さいよ。後悔させません」

 スッとトレーナーをたくし上げ、首を抜くと言うところで留めた。

――……小柏ってホモ臭せぇ……―

 晒された見事な腹筋は若いながらもしっかりとして、小柏カイの外見と比例して実に――――美味しそうだった。

 ゆっくりとトレーナーから首を抜く。両腕が挙げられ、筋肉が動めく様を見せつける―――特に――京一に。

――……見せ方を知ってやがる……

 京一はシニカルに笑った。
 清次他メンバーはカイの若さ溢れる色香と、ホモ臭さにアッケに取られたままだ。

「……成程な、決まりだ、小柏」

 京一の大きな掌がカイの肩に置かれた。少し頬を赤らめたカイの耳に囁く。

「……期待してるぜ」

 潤んだ子犬のような大きい瞳で、カイは京一を至近に見つめた。

「……任せて下さい、須藤さん……」

 今宵、明智平は異様な熱気と怪しい雰囲気に包まれた。



「アニキ〜、ポーズはこうかなあ?」

「そうだな、中々良いぞ、啓介」

「アニキだって堪んねぇよ……、アイツら筋肉馬鹿を叩き潰そうぜ」

「……ふ、京一か。奴は裸体は筋肉と勘違いしているからな」

「こんな色っぺぇアニキに勝てる訳ねぇじゃん……ああ……アニキ、その腰の捻り最高……」

「啓介、今は仕方無いが本番で股間は立てるなよ」

「……ん……アニキィ……」

「こらこら、咬むな、痕がつくだろう?」

「んー……、舐めるんだったらイイ?」

「ア……こら……、もう舐めてるじゃないか……」

 限りなく果てしなく妖しく赤城の兄弟の夜は更けていく―――…………




「……で? 何でワザワザ東京から呼びつけられたんだ?」

「俺にもわかんないっすよ。とにかく伝統バトルだからって社長が偉く熱くなってて」

「バトルならわかるがな、あくまで車の話だけどな」

「……裸……バトルなんすよね」

「…………」

 二人顔を見合わせて溜め息をつく。

「俺は……トモさんに会えて嬉しいっすけど……」

「……大輝」

「つうか、めちゃくちゃ嬉しいっす……」

 目を潤ませて、今にも涙を溢さんばかりの大輝をトモは抱き締めた。

「……放っといて悪かったな」

「いや、俺の我が儘ですよ、トモさん忙しいのに……」

「大輝、レーシングスーツ持ってきたぜ。あれ着てる俺にやられたかったんだろう?」

 大輝の耳をイヤらしくなぶり、舌を差し込みながら囁く。
 トモの右手は既に大輝の尻をジーンズ越しに揉みしだき、高ぶりは荒い息と連動するように擦り合わされていた。

「……はあ……トモさん、素早い……」

 そして開かれた大輝の口に指を突っ込む。

 唾液まみれの舌を絡ませてトモに見せつけるように舐め上げる大輝の手は、トモのジーンズ前から中へ侵入していた。




「嫌だッ!」

「何でだよ? イイじゃねーか」

「絶対に嫌だッ!」

「……仕方ねぇなあ……」

 秋山渉は顔を真っ赤にして叫ぶ延彦をひょいと持ち上げた。

「渉ッ! 何すんだッ! 放せぇッ!」

 頭をボカスカと叩かれても渉は我関せずである。

「俺のテクで、うんて言わせてやるって」

 青やら赤やら顔色を変える延彦に渉は野生的に囁く。

「…………まあ、うん以外にもイイとか〜、もっと〜ッとかもな!」

「この変態どエロ野郎ーッ!」

 埼玉のとある場所に響くのは、延彦の悲鳴か嬌声か―――渉のスケベ笑いか。




 群馬のとある地下のクラブは誰が仕切ったか貸し切りである。会場は異常に男性比率が高く、走り屋関係者達が押し合う。

「テメェッ! 赤城の! どけよ須藤さんが見えねぇだろッ?」

「ウルセェッ! 啓介さんが出るんだッ! 啓介さーんッ!」←ケンタ

 怒号と熱気が立ち昇る暑苦しい会場に暗闇が訪れた。

――お前ら本物の男を知ってるかあッ! ――――――響き渡るMCに会場が歓声と共に揺れる。

――今夜お前達の前で繰り広げられるバトルは本物の男同士の裸のバトルだああッ! ――

 体調不良と人材不足のために辞退した、秋名チームが聞き覚えのある声だなあと首を傾げる。

――先ずは紹介タイムだあああッ! 最初は走り屋界一の肉体美を誇る、いろはチームッ!

 怒号、歓声、悲鳴、絶叫――そのどれもが野太い。

 落とされた照明がバッと当てられ、照らされたのはTシャツとジーンズを着た大柄なイカツイ男三人組。

 スッとTシャツをまくり上げてゆっくりと引き上げる。

――京一さあああんッ抱いてくれぇッ!

――須藤さあああんッ最高だああッ!

 悲鳴にも似た叫びがあちこちで巻き起こる。
 怪しい照明にくっきりとした腹筋が浮かび、少し捩った腰使いに観客席から溜め息と生唾ごくりと悲鳴が上がる。

 脱ぎ捨てられたTシャツになりてぇ――

 そして半裸の美神達がニヤリと笑った。


ウィル・スミス「SWITCH」

 会場全てを挑発する半裸の逞しい三人の男達。

 清次は質量の高い筋肉を自慢気に見せつけ、カイは不敵に笑いながらも若い引き締まった体を晒す。
 京一は顰めた表情も渋く、体は世の中の男達の理想像そのまま―――素晴らしくセクシーであった。

 激しい音響に負けじと男達が叫ぶ。

―――京一さあああんッ! アンタについていくーーッ!

―――須藤さあああッ掘ってくれえええッ!

 それを楽屋裏から見ていた、赤城の美しき兄弟の兄は呟いた。

「……ゾクゾクするぜ……最高のゲームだ」

「くそぉ、アイツらやるなあ。須藤ファンがすげぇぜ」

「……ふ、心配するな啓介……裸は色気だ」

 艶めいて囁く妖しい兄に弟は頷いて、頬にキスを落とした。



―――凄い歓声だなあッ! 流石いろはチームだッ! 次はなんとッ! 走る奇跡、カリスマの赤城チームだッ!

―――きゃああああん! 涼介さまあああッ!

―――啓介くーんッ付き合ってえええッ!

 数少ない女性ファンが男達の歓声に負けじと叫ぶ。暗転した舞台に紗のような薄いカーテンがたなびく。

 ユラリとそれは開かれて蒼く妖しい照明とスモークに照らされた、赤城の美しき兄弟達が幻想的に現れた。




IVY/Worry About You


―――ゴクリ……

 会場全体が――MCまでもが―――いろはチームまでもが唾を飲み込んだ。

 薄い透けるようなシャツを纏う赤城の兄弟は、会場の反応をクスクスと笑い合う。二人は互いに優しく触れて、肩からスルリとシャツを落とした。

 露になる白く細い肩―――鎖骨――胸

 溜め息とどよめきに涼介はチラと客席に視線を向けると、睫毛の長い黒い夜空のような瞳を揺らめかせて微笑んだ。

 この時点で鼻血を抑える者、股間を抑える者続出である。

「京一ッ! 大丈夫かッ!」

 いろはの皇帝須藤京一は鼻を抑えて昏倒しかけた。

――…………テメェッ! 涼介、この野郎ーッ……

 いつぞやの赤城で吐かれた台詞を呟き毒づく。




―――すっ素晴らしいッ! 何と言う色気だッ! 流石赤城チームだああッ!

 我に帰った会場が、また嬌声と怒号に揉みくちゃになっていく。

―――次は埼玉従兄弟チームだああッ? あッああッ? イカンッ! モロ出しだあああッ!

 舞台では暴れる延彦を、全裸の渉が脱がしにかかっている。
 延彦の悲鳴が呆気に取られた会場に木霊するが、会場はある一点に視線が集中していた。

―――デケェ…………

 そしてジーンズ一枚にされた延彦を更に渉はゲラゲラ笑いながら剥ごうとする。露にされた延彦の白い体に儚い悲鳴に、さっきまで煽りに煽られた男達の視線がネットリと絡みつく。

「いやだあッ! 止めてくれよぉ、渉……」




ウルフルズ/すっとばす


――暴れ抵抗する色白、ツンデレ、めがねっ子…………ある種の男の願望がここに

 しまいには半分泣きが入りかけている延彦を会場はジットリとした視線で眺めた。

「ああ? 延彦泣いてんのかあ?」

「うッ……だって、いくら何でもヒデェよ……ッ」

「あ〜、悪かった。ゴメンな。もうしねぇからな。ノブ」

 ヨシヨシとしゃくり上げる延彦を渉はあやすように抱き締めた。
 瞼に頬に優しくキスを繰り返す。

「渉の馬鹿野郎……」

 なおも口を尖らせて文句を言う延彦に渉はからかうように言った。

「ノブがあんまり可愛いからさ」

 ラブシーンが公開されるのは構わないが片や全裸である。

「んー……これ以上ノブに触ってたら此所でブチ込んじゃいそう」

 会場はそれでもいい、是非お願いしたい光景だと思った。



―――さあッ! 気を取り直していってみようッ! ラストを飾るのは―――東堂塾だあああッ!

 会場がどよめく、まさかあの東堂塾が!? と信じられない様子で。舞台が暗転から閃光のような照明に照らされた時に会場は更にどよめいた。

―――レーシングスーツ!? …………まさか

「レーシングスーツ着てるぞッ! アイツはプロか?」

「マジかよッ!」

 互いの裸体を晒すのは嫌と辞退した妙義チームが乗り出す。

 舞台では鮮やかなグリーンのレーシングスーツを着た短髪の精悍な男が、無精髭を生やした甘い顔の青年を片腕に抱いていた。

「京一ッ! しっかりしろッ!」

 いろはの皇帝須藤京一は貧血と目眩を同時に起こした。

―――何で智幸が……




Right Said Fred/I'm Too Sexy


 レーシングスーツを着て不敵に不機嫌な表情を取る舘智幸に、大輝はとろけるような視線を向けると掌を智幸の体に這わせた。
 昨夜、そのスーツを着た智幸に、散々哭かされた大輝はまだ余韻に浸っているようである。

 スッとスーツの前を下ろすと逞しい体が現れた。

―――ふううぅぅんむううぅ…………

 溜め息と慟哭、走り屋達には憧れと垂涎の的であるレーシングスーツが――――妖しく羨ましく脱がされた中には逞しい体――これも夢と言わずして何と――――

―――舘さあああんッ! 渋いっすーッ!

―――いいぞおッ! 大輝ィッ!

 客席にいる塾関係者達が叫び、金縛りにあっていたような会場はやんややんやの歓声とドヨメキに包まれた。



―――会場を一望できるVIP席――そこには5人の男達が微笑を湛えていた。

「MCご苦労だな、盛況じゃねぇか……祐一」

「おう、文太。粒揃いだぜ。拓海も出せばいいのによ」

「……拓海をゴッドコンビに晒す訳にはいかねぇわなあ」

「…………クスクス、相変わらず口が悪いねぇ、藤原は、なあ好ちゃん」

「まあなあコイツは昔からだよ、城ちゃん」

「とりあえず、紹介タイムは終わったぜ、お前らイイの見つけたか? 俺は埼玉が中々だったな」

「…………フフフ、いろはのリーダーはこれがまた何とも……」

「城ちゃんはああ言うの好きだねぇ。俺は赤城だなあ。色っぺぇのなんの」

「お前らも好きだな……、塾のプロなんか中々泣かしがいがあるがな」

「おいおい、文太に智幸はやれねぇな、アレは俺の秘蔵だからな」

「塾長、アンタのお手付きかい? あのレーサー?」

「祐ちゃん、東堂塾だぜ、そりゃあなあ。」

「好ちゃん、じゃあいろはのリーダーも塾長のお手付きかい? そりゃあ無いよ」

「城島よぉ、心配すんなあ、京一は堅いからなあ」

「良かったなあ、城ちゃん」

「ああ、とてもイイ夜になりそうだ、好ちゃん」

「……勝手にやってろ、俺は豆腐の配達があらぁ」


―――男達の其々の思惑が妖しく交差していく――――


end

いろは
赤城
埼玉
東堂塾


[MENU]

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -