半ケツバトル [1]
高橋涼介―――この稀代の美形であり、優秀な頭脳を持つ若きプロジェクトDの指揮官は、自宅の自身の部屋に姿見を持ち込み、ブツブツと憤っていた。
「京一の半ケツの方が色っぽいだと? Dのプライドに賭けて粉砕してやる!」
姿見に向かっておもむろにベルトを外し、綿パンツ&下着を引き下ろす。
写し出される艶姿――白く滑らかな陶器のような肌に、美しいラインが腰骨から続く。
「どうだ? 啓介?」
後ろで鼻血をボタボタ落としながら、弟啓介は兄の最近富に露呈してきた「天才と何やらは紙一重」を心の底から実感する。
「……いいんじゃないかな、アニキ」
―――須藤と付き合ってからアニキ拍車かかってるし……
「……ふ、そうだろう。色気では俺の方が上だ」
満足気にシャツを僅かに捲り上げ、涼介は微笑む。
「そうだよ! 須藤の半ケツなんか良くねぇって!」
鼻の穴にティッシュを詰め込んだ、啓介の台詞に涼介の視線がチラリと移った。
「いや、京一のケツはあれはあれで良いんだ……」
ポッと頬を赤らめる赤城の白い彗星
「……半ケツどころか全ケツ然り、俺はいろんな部分を知っているが……」
トロリと潤んだ目でブツブツと語る兄に、啓介は呆れた目で見つめた。
「……さあ始めるぞ、史浩、オンラインチェックは済んだな」
「―――ッ! 離せェッ! 清次ッ!」
栃木のとあるマンションの一室では、部屋の主である須藤京一が、岩城清次に後ろから羽交い締めにされている。
京一は鼻にティッシュを詰めた小柏カイに、ワークパンツのボタンを外されようとしていた。
「すぐに終わりますからッ! やらないと高橋涼介が怒りますよッ! 岩城さん、カメラの方へ!」
「――クソォッ! 涼―――介―――ッ!」
「―――またこんなバトルを誰が考えたんだ?」
栃木のとあるホテルの一室。
舘智幸は二宮大輝の腰を引き寄せる。
「あのプロジェクトDのリーダーですよ、須藤さんの……」
組敷かれて陶然と色っぽい表情で大輝は語る。智幸はニヤリと笑った。
「ふん、あの別嬪さんか……まあいい、京一も苦労するな」
智幸の低い声が大輝の耳に囁かれる。
大輝は小さく熱い吐息を漏らした。
「……カメラとPCは……」
「……ん? ちゃんとセットしてるぜ……」
そして吐息と衣ずれの音が続いた。
埼玉のとある場所、秋山延彦の自宅一室で秋山渉は延彦にパソコン操作とカメラのセッティングを教わっていた。
「まあ渉が色々勉強するのは良い事だけど、その走り屋達のオンラインチャットてのはいつから始まるんだ?」
渉はセッティングがキチンとできているのを確認すると、ニヤリと笑った。
「…………もうすぐだよ、延彦……」
プロジェクトDのHPから密かにリンクされた、本日数時間だけ開催される、実況のチャット。
隠しや暗号やをかいくぐり、辿りついた先は――――北関東走り屋に告ぐ! 半ケツバトルここに開催!
サイト管理は血を吐きそうな史浩らしい。投票式のそれは、画面にアップされる半ケツの優劣を決めると言う単純なものである。
そして――――定刻、北関東の走り屋達は峠からも姿が見えなくなった。
ROM走り屋いろは地区
「――――……繋がったぞおおおッ!」
「マジか!? 京一さんはッ? きょっきょっ京一さんの半ケ……」
ドブォッと鼻血を出す普段は屈強な筈の面々。
「落ち着けお前ら、まだ始まってないぞ! こんなじゃ、いざ京一さんの半ケツが出た……」
ドブォッとまた一人倒れ込んだ。
ROM走り屋赤城地区
「俺だって半ケツにゃ自信ありますよ! 啓介さんと二人で半ケ……」
ボタボタボタと鼻血を垂れる。
「啓介さんの半ケツが見たいからって、そんなじゃいざとなったら出血多量でヤバいですよ」
語るメガネの彼も鼻にはティッシュで、もう一人の作業服の男も鼻にティッシュを詰めていながらもギラギラと目を光らせ、ノートパソコンを見つめる。
ROM走り屋埼玉地区
「……何で俺また、見てるのかわかんねー 」
鼻血を拭き取るプロラリースト。
「俺らもだぜ。まあエボ乗りだが、埼玉だしなあ」
土坂コンビもノートパソコンを見つめる。
「……お前の半ケツなんか見せられないよ……」
ガタイのいい男が、色白の金髪の男の肩に手を置き、こっそり囁く。少し顔を赤らめた金髪が、うるせぇよと言いながら、ソッとガタイのいい男の手を握った。
ROM走り屋東堂塾
「……とまあ、トモが負けない理由もそこにある」
鼻血を豪快に手鼻で吹き飛ばす、ここ東堂塾の塾長。
「……経験とやり込みですか……まあ大輝がいるなら大丈夫でしょう」
片やニヤニヤ笑いながら、垂れる鼻血をそのままのスプラッタである。
「離せぇッ! おいッ! カッ……ウグ……」
いろはチームは清次とカイの見事な連携で、京一を後ろ手に縛り口には猿轡を填め、ベッドにうつ伏せに転がされ、後はケツを出すだけとなった。
カメラもバッチリだが、セッティングしているカイは前屈みだ。
「よぉ、小柏、大丈夫かよぉ?」
気遣う清次に、
「……大丈夫ですよ……しかし堪りませんね、京一さんのこの姿は……」
前屈み&鼻に詰めたティッシュを吹き飛ばす勢いの鼻血を吹くカイである。
「……あれ? ……何か視界が暗く……」
そしてカイは貧血で倒れた。
時はやってきた。合図がわりの音楽が流れ、出演者とROM達が一斉に注目した。
「始まるぞ!」
―――はあい、走り屋の皆、元気かい?
カタカタと写し出される字面は、やはり司会に向いていると思われる群馬のとあるガソリンスタンドの店長が、必死になって文字を打ち込む池谷という青年に台詞を出す。
唯一パソコン操作ができる池谷宅には、藤原拓海他がやる気なく画面を見ていた。
―――男の魅力は腰だよね! 腰と言えばケツだよね〜。だけどチラリズムって知ってるかい?
意気揚々とMCを飛ばすガソリンスタンドの店長に、北関東一帯のROM達が一斉に叫んだ。
「おっさん! キャラ変えてんじゃねぇぞッ! いいからケツ! ケツ出せえええッ!」
ある意味魂の叫びであろうか。
様子を静かに伺う涼介の紹介が始まった。
――――君達を惑わしちゃうよ? そりゃあ、噂に名高い、赤城の白い彗星の白い白い……
池谷の指が攣った。
カメラの映像がオンラインに乗せられた。
――――ゴクリ……
画面に写し出されたのは――――
「…………病院? ……診察室ッ!」
どよめくROM達。
清潔な診察室が写し出され、椅子に腰掛ける白衣の人物。
赤城の白い彗星は蠱惑的に微笑んだ。
―――どうしました……どこか具合でも……?
ROM達はわかっていた、わかっていた筈だ。その筈だった。
高橋涼介は医者の息子、医学生であり。
何ら不思議では無い光景なのに……なのに……先生、貴方白衣の下は生足ですかああッ!
マニアには堪らない。男達の永遠の憧れ、白衣である。
「……えっとこの間のレントゲンの検査の結果ですが……」
高橋医師は椅子から少し身を乗り出してレントゲン写真を張り付けた射光器に腕を伸ばす。
「ああ……凄く逞しい……太くて……長くて……とても立派な……」
溜め息を吐きながら、妖しく潤んだ瞳で語る涼介にROM走り屋達の股間がスタンバイOKなのは言うまでもないが。
その様子を見て、縛られながらも暴れる男が一人いた。
「モガガ――――ッ……! モガ―――ッ」←涼介、コノヤロー
「固そうな――――……あッ……」
ゴクリとするROM達。
「……こんな所も……なんて……」
机に乗り上げた涼介の白衣が、ツ……と上に上がり。
白く滑らかな太股から柔らかそうなラインのケツが、チラリと露になった。
「ア……見るのは此所じゃ無いですよ……このうっとりするような逞しい……貴方の……骨……」
身をよじる高橋医師の白い臀部は、チラチラと晒されて。
むうふうううう〜〜ッウオオオオッ! 先生――――ッ! 俺を診てくれえええ―――――ッ!
怪我しようと殴りあう武力派ROM達の叫びに、北関東は揺れた。
――――凄いぞぉッ! 流石高橋先生ッ! 投票数がゲージを振りきってるぞおッ!
血まみれ&血眼でF5を連打しまくる頭脳派ROM達。
特に赤城チーム松本の殺気は凄まじく、ボソリとケンタがメガネに囁いた。
「松本さん、白衣マニアなんです」
赤城地区は、普段は真面目で堅い松本の、もう一つの顔を見た。
――――さあて、次は筋肉萌えには堪らないぞお〜。
殴り合っていたROM達が、一斉にパソコンに向かう。
――――孤高のケツ、それは誰にも触れられないストイックなケツ。
「きょッきょッ京一さんッ?」
――――稀少価値もスパルタ並!それはあああああッ、あのッいろはの皇帝の半ケツだあああ――――ッ!
「――――……離せッ! こらぁッ! 清次ィッ―――ッ!」
ウオオオ―――ッと雄叫びが巻き起こる中、画面には暴れ捲る三人の男が映しだされた。
縛られた状態から脱け出そうとした京一を清次がまた抑え込み、カイはフラフラながら京一のカーゴパンツをずらしている。
晒け出された逞しい体―――――それは現代に還り咲いたスパルタ王 ―――男の理想そのものの威厳さえ感じさせて……This is SPARTA……
「きょッきょッ―――――……あああッ京一さんの半ケツッ!京一さんの半ケツがあああッ! アア……」
北関東一帯のROM達、特にいろは地区はあまりに筋肉が美しい均整の取れた京一の体―――特に引き締まった半ケツを見て、膝から崩れ落ちた。
ビクビクと全員が股間を抑えて、うずくまる。
「……エンペラーに入って苦節×年……もう、思い残す事は……無い……」
いろは地区は全員笑顔で昇天した。
「ああ―――……京一……流石俺の男……」
ハアハアしながら、PC画面に全裸に白衣で張り付く、兄のあられもない姿に啓介は呆れる。
――――筋肉萌えには堪らないケツだったぜ……ハアハア
さあて、次はあああッ! 野生の狼のケツは、バックが好き―――ッ!
は? となったROM達が目にした光景は
「――――……はあッああッ……渉ッ! 止めッてッ……くれッ! ああッはあ―――ッ」
ヤッてるし
つか、色白ツンデレメガネっ子のウサギちゃん、ヤられてるし―――ッ!
スゲエエエッと絶叫が轟き渡る北関東一帯。
画面にはバックからガンガンに、とある行為が行われるケツ二つだがモザイクは無しの無修正ライブ。
モロ出しだあああッ! スゲエエエッとまだまだ声が轟く中、白衣の涼介が呟く。
「縦横無尽に堀り尽す、素晴らしい腰使いだ――――……やるな秋山、流石啓介のケツをヤッた男」
背後では啓介が赤い顔で、気まずそうに頭を掻いている。
――――ヤバいヤバい、埼玉は凄いね〜、アレ見て抜いた奴いるんじゃない? 次は栃木の漢塾の伝説の漢ッ! KING OF 変態の半ケツだああああッ!
塾――――あの東堂塾かあああッ!
ROM達は戦慄し、そのどよめきは北関東一帯に地響きを起こした。
東堂塾は一筋縄ではいかない変態達の巣窟で。
その塾でKINGと言われて君臨し続け、伝説となり、尚語り継がれるプロレーサーは……ただ一人……その野性のフェロモンは、全ての性器を濡らし震わせ、潮を吹かせると言う……
「ククク―――……ケツなら塾しかねぇだろ……」
低いセクシーな男の声、画面には白いシーツのアップ。
スルスルとそれは下ろされていく。
そして筋骨逞しい、精悍な背中が現れる。
――――神が与えたかのような、美しくもイヤらしい雄の背中から、辿るラインは荒々しく隆起して。
引き締まった双丘、狭間が露になっていく――――
凄げえ―――――……全員が溜め息と感嘆の声―――――その妖しいケツは悪魔さえ魅了するだろう。
シーツを纏う舘智幸の腕の中には、甘い顔のダウンヒラーがトロけるような顔でいた。
―――――……ゴクリ
ROM達が見つめる中、ダウンヒラー二宮大輝は智幸に唇を親指で撫でられ、頷いてゆっくりと跪いた。
響く淫靡な水っぽい音。
致してます
こちらはイタリアの高級車の名前に、含まれる行為を致しております。
それは男であれば、大好物な行為でございます。
奉仕される智幸が羨ましいのか、はたまた奉仕する大輝が羨ましいのか、混乱と錯乱の挙げ句に意味不明の叫びを上げて、頭を何故か抱えるROM達の鼻血は既に出尽した。
「凄いな、流石東堂塾……」
何故か腕組してPC画面を、真剣な目で見つめる高橋涼介であるが。
「――――……ん? 待て!」
厳しい口調での発言にみなが驚く。
「……何だよ? 別嬪さん……」
大輝に奉仕させながら、妖しいケツを晒す智幸がニヤニヤと振り向き笑った。
「――――質問がある!」
to be continue 2007,11,05