リバスピリット
ここは東京、とある地区に佇むマンション。
栃木にあるガチンコの走り屋集団、猛者揃いの東堂塾を経て、プロになるために上京してここに住む「伝説の男」、プロレーサー舘智幸の部屋である。
昨夜は恋人の大輝が珍しく東京にやってきて、久しぶりの逢瀬を楽しんで一日、濃厚な愛を交わした後であった。
そして後に智幸の部屋に、東京に用のあった京一と涼介が来ることになっている。
乱れ、皺くちゃになったベッドシーツや、飲み散らかした缶ビールの数々を片付ける。
二人でゆっくりと昼食を食べたあと、何やら性的な話に及んだ。
大輝は一度、智幸から聞いてみたかった質問をした。
「京一とのアレか……良かったぜ……そりゃあな……」
苦笑いしながら、尋ねる大輝の頬を撫でる。
大輝は少し複雑な顔をして、黙って聞いていた。
「妬いてんのか――――? 大輝……」
智幸は黙り込んだ大輝を覗き込み、その目を見つめた。
「いえ――――須藤さんとの事は、俺も人の事言えないっすから」
その言葉に智幸の眉が跳ね上がる。
「ちょ……トモさん、違いますよ、前の……」
言い澱んで大輝の話しの意味を悟った智幸が、ハッと溜息を吐いた。
「ケツはヤらしてねえんだから良いものの……京一にお前は抱かせねえし……ヤラせねえ」
嫉妬よりも、何よりも。
あからさまな台詞は、智幸が京一の事をよくよく知っているからで。
「大丈夫っすよ、あ、でも、俺、須藤さんに惚れてますよ」
大輝の嬉しそうながらも、悪戯っぽい表情に眉を顰めながら。
「――――ったく、大輝……」
「はい?」
須藤さんも涼介さんも好きですから〜と、嬉しそうに微笑む大輝に可愛いと感じる自分が情けなくなる。
「まあ……いいが、俺も涼介は抱かねえからな……」
大輝が呆けたように智幸を見つめる。
「涼介さんは、須藤さんにしか無理っすよ」
その大輝の言葉に智幸は尚更眉を顰めて。
「あんの野郎……京一が入れ食いじゃねえか……」
その言葉に大輝が爆笑して、智幸は気まずそうにしている。
「須藤さんも涼介さんしか抱きませんって、入れ食いって……トモさん、うらやま……」
まで、言って大輝はハッと我に帰った。
「ちょっと! トモさん、それって入れ食いしたいって事じゃ無いっすか!!」
大輝の剣幕にヤバイと感じた智幸がいそいそと立ち上がる。
「いや、……ええと煙草煙草……」
「トモさん! じゃあ、俺と涼介さんと須藤さん、全員とヤレるって言ったら?」
ヘラ……と一瞬、普段は精悍な智幸の顔が緩んだのを大輝は見逃さなかった。
「トモさん!!」
飛び掛ろうとした大輝を器用に受け止めて智幸は笑う。
「いや、っていうか、涼介は好みじゃねえな」
あまりの言葉に大輝の口がパクパクする。
「まあ……あの京一が"極 上"呼ばわりする具合も気になるから、ヤレって言われたらできるけどな、俺が涼介にヤラレるのはちょっとなあ……絵面も良くねえだろ?」
当たり前だろう、というか。それは絶対無いからと突っ込む前に気づいたのは。
智幸はナチュラルに受けと攻め、両方を自身が堪能する前提で話しをしていた。
眩暈がするような内容に大輝は今更ながら後悔した。
―――――何でこんな人好きなんだろう……
三人編
「だったら、やっぱり俺がトモさんをヤッて須藤さんに俺のケツを……アレ?」
考え込んだ大輝が自問自答して自爆した。
「ちょっと待て、お前のケツは京一にはヤラセねえんだ、俺がお前のケツをヤッてだな……」
そして二人の間に奇妙な間が流れた。
「俺が……須藤さんをヤる? ? ? 無理っすよ!! 絶対無理ですう!!」
悲壮な想像の挙句、涙目で頭を抱える大輝を前に冷静な智幸は言った。
「まあな、京一のケツは進入禁止だからな……やはり三人は無理か……」
そして大輝がハッと気がついたが。
智幸にそれを知らせるかどうか、戸惑ったときに挙動を智幸が見抜いてしまった。
「――――……なるほど、そうだな……ケツに拘り過ぎたか……」
間接的に大輝はリアルに経験したことがある故に、顔が真っ赤になってしまった。
「俺が大輝のケツをヤッて、大輝が京一をフェラでイかすと……ふん、なるほどな」
感心したような智幸がさらに続けた。
「その大輝の位置に俺もイケルな……俺がお前にヤラレながら、京一をフェラする……」
普段はシニカルな面を崩さない智幸が、新たなる思いつきに嬉々としてテンションが跳ね上がる。
「ああ……、お前のをフェラしながら京一にヤラレるのもイケるぜ!」
その時点で大輝は静かに智幸の首に腕をかけ、チョークスリーパーをする形を取った。
四人編
「だからなあ……涼介をそこに混ぜても、アイツは京一にしかヤらせねえんだから、ややこしくなるだけだろう?」
欠伸を噛み殺して飽きてきた智幸が憮然と話す。
「なんかパズルみたいっすね、ええと……」
開き直った大輝が紙に描いて、シミュレーションを練る。
「まずは……須藤さんが涼介さんをヤッて……」
○と棒人間の片方にはバンダナが巻いてある。
「須藤さんのケツは無理だから……、涼介さんのを俺かトモさんがフェラして……」
「おお……イイじゃねぇか!」
気の無いそぶりから打って変わって、前のめりに乗り出す智幸。
「あ、涼介さんが俺とトモさん、どっちかヤラレてる方のフェラもイケますよ!!」
何故か大輝も嬉々としている。
激しく不埒で決して上品では無い話だが、こういうくだらないモノほど真剣に考えるのも男の性か。
「おおお! そりゃ良いな……つか、京一が怒り狂うな……」
・・・が二人のリバに流れて。ラオウ京一となり、漆黒の鉄馬エボVから蹴りを繰り出すのを想像しただけで、渇いた笑いが浮かぶ。
と言うか、本当にやりそうで笑いが引き攣る。
「……っすね……涼介さんの負担がすげえすね……」
「まあ……でも良いな……それは……」←ニヤニヤ
プロレーサーらしく最後まで希望は捨てない智幸である。
大輝がそんな智幸を睨みつけていると、ピンポーンとインターフォンが鳴り、件の二人が到着した模様である。
「あ、二人来たみたいっす、は〜い」
新妻のようにウキウキイソイソと、玄関に向かって小走りに駆けていく大輝の背中を見ながら。
邪ま&淫らな想像に口端を嫌らしく歪めた智幸が呟く。
「……まあ……いつかな……ククク……」
そして大輝が描いたシミュレーションの絵を見て京一は卒倒、涼介は顔を赤くし、目を潤ませて鼻息が荒くなるのには、そう時間はかからなかった。
涼介の頭脳でシミュレーション編
リビングにて、しゃがみ込んで身を寄せ合い、円陣を組んでコソコソと話す三人。(受け一人と設定上のリバ二人)
一人の攻めはフローリングの床の上で倒れている。
「……京一は……」
「卒倒してるから寝かせとけ」
「……須藤さんが起きたら、こんな話できないっすよ……」
「じゃあ始めるぞ、お前らはいまいちわかってないな」
サラリと前髪を掻き上げて、不敵に上段がまえで二人のリバを見下げる涼介。
「―――――……ほう……どういう事だ、そりゃ」
「俺だって男だ……」
「……わかってるが(ますけど)」と、無言の時間が流れる。
「俺のこの"極 上"の(ここで景気良くパアンッ! と自身の極上を叩く)ケツは京一専用であり! 京一チューンであり、京一カスタムであり、(言ってる内から鼻息が荒くなってくる)京一スペシャルな代物だ!! ハアハア……(鼻息MAX)、……そしてだな、お前達は受けるも攻めるも自由自在のリバだ」
冷静沈着そうに見えて大げさな態度を取る涼介は、既に二人のリバには見慣れた光景だ。
「――――――……だから……?」
「ふふふ……見て驚くがいい、この頭脳を持ってして出た結果はこれだ!」
二人のリバが興味深げに差し出された一枚のチラシを見る。
落書き様に、チラシの裏の白い面に描かれているのは連なる四人の棒人間。
端の一人には頭にバンダナが巻いてある(ように描かれているらしい)。
「――――――……はああああ?」
一際大きな声の主は智幸である。
ポッと頬を赤らめながら。
涼介は夢見るように、某劇団○季か某塚歌劇団の花形スターのように一人滔々と悦に入って語り出した。
「俺を京一が……(鼻息が荒くなる)ヤッて、大輝が智幸をヤッて、俺が大輝を……ふふふ……」
そして赤くなる大輝に、やはり舞台上の某×塚の男性役のように、背中に大きな孔雀のような羽飾りまで付けたように妖しく微笑んで。
顔を近づける涼介に大輝もうっとりと「涼介さん……」と、まんざらでも無さそうな、クドイくらいの乙女な光景。
「涼介―――――――ッ!! ×2(覚醒した京一と智幸)」
「それじゃ大輝のケツがヤラレちまうじゃねえかッ!! お前でも駄目だ駄目だ駄目だ!!」
地団駄を踏みながら、珍しい真剣に慌てた智幸の焦りの発露に、驚きながらも大輝が更に赤くなる。
「涼介ッ?! 攻めがしたいのか!? 受けは飽きたのか!? それともまさかリバに転向する気なのかあああ――――ッ!!」
パニくり混乱する京一は、難攻不落だった自身のケツも辞さないと、悲壮な覚悟で涼介に詰め寄る。
「大輝!! 涼介のは俺より細いぞ!!(ちゃんとチェックは入れてる)それでいいのか!?」
智幸も混乱しまくり、本来なら京一が怒りそうな台詞を言ってしまった事実にも気づかず、当の京一も「見えたと思った涼介の背中が、また霞んでいく」と、コンプレックスが刺激され頭が混乱して気づかない。
「……俺だって大輝は可愛いと思うしな……」
「……や、照れるっすよ……でも、嬉しいっす……」
見つめ合う二人の受け達(一人はリバもOK)は、さらにさらに妖しい色気を振り撒いていく。
厳つい&精悍な攻め達(一人はリバもOK)の表情に、峠&サーキットをこれ以上ないバトル&レースで攻め抜くような決死の表情が浮かび、覚悟を決めて叫んだ。
「何ならせめて俺のケツでどうだあああッ!! ×2(京一と智幸)」
「――――……」
涼介と大輝は、二人の剣幕に最初は呆けに取られたような顔していたが、今では頬を上気させて目を潤ませて。
ほう……と甘い溜息を同時に吐いて。二人ゆっくりと顔を見合わせた。
「ふふふ……クスクス……」
嬉しそうに肩を震わせる二人に、京一と智幸が心底怪訝な顔をする。
「嬉しい……な、大輝」
「はい、すげえ嬉しいっす」
まだクスクス笑いあう二人に、物の見事に普段の尊大とも言えるクールさを崩して焦りまくった京一と智幸が、お互い顔を見合わせて。
気まずそうに鼻を掻いたり、口元を抑えたり。
「―――――……お前らなあ……」
呆れたような声を出しながらも、幸せそうに微笑む二人に仕方ないなと溜息を吐く。
「クスクス……おかしい……京一も智幸もわかったか? 何かあったら俺達デキてしまうからな」
ふふふ……と二人は妖しい笑みを向けて。
受け二人の間には共通した様々なモノがあるから。
涼介は京一に愛されてから、倍増しした浮世離れした艶で微笑み、大輝は悪戯っぽくも無垢な色気を漂わせ。
互いが王者の如く、両雄と呼ばれる攻め(一人はリバもOK)に、これ以上無いほど溺愛され、その悦楽の味を身も心も深く深く知っている。
意味深に微笑み合う、訳知り顔がまた何とも色っぽく。
うッ……と、二人の攻め(一人はリバもOK)詰まりながらも。しぶしぶ
「わかったわかった、大事にするさ」と。
涼介の頭脳でのシミュレーションに、見事に嵌ってしまった愛情あからさまな姿を見て。
嬉しそうに微笑むお互いの相手を抱き締めに。
その腕を伸ばした。
2008,3/10 やっぱりラブでした。