Swear [誓う] | ナノ
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Swear

 昨夜、未明まではあれほどに。

 二人は熱情に浮かされたままの姿を初めて、重ねあった。
 単純に誰かと寝るような、果ては誰かを翻弄するためだけのような。
 何かを紛らわす、晴らすものとは完全に違う。

 例え、行為が同じでも。




 食事を終えて片付けをし、帰宅時間が迫る涼介は心許なげにソファに座っていた。
 明日からは京一も涼介も、また忙しい日々がやってくる。
 互いの距離は気にはならないが、やはり。

 今―――――これだけ近くに居るというのが離れていく、それが切なさを生む。

 何度目かの小さな溜息を吐いて、苦笑した京一が涼介を宥めにかかる。

「――――……不安か……?」

 揺らぐ眼差しは、京一を眩しそうに見つめる。

「不安―――――なのか……これは……なんなんだ……」

 深く深く、今度の溜息は。
 膝を抱え込んで顔を伏せる、子供っぽいしぐさにやはり笑みが出る。

「お前は平気なのか……?」

 伏せられているから、くぐもる声に京一が距離を縮める。

「……じゃねぇな……お前と離れるのが寂しい……」

 衝かれたように顔を上げた涼介の、何のてらいもない素直な表情。
 こんな顔をできるようになったのか……と、京一は胸が締め付けられる。

「寂しい……そうか……この感情は……」

 そこにいるのはただ剥き出しで、産まれ立てのような涼介だった。

「俺は――――お前と離れるのが寂しいのか……」

 戸惑って、躊躇して。けれども以前のようには戻らない。
 京一の前でだけは。

 恋に身を焦がして全てを投げ出す―――――そんな事が理屈抜きに理解できてしまう自身。

 そこに怖れを抱かないと言えば嘘になる。
 それほどまでに、深く強い。

「大丈夫だ……安心してろ……」

――――――ずっと想っているからと

 言い聞かす声音は、抑揚さえも涼介を包んだ。
 しばし伏目がちで黙した涼介は、静かに立ち上がった。

 席を立った涼介が、玄関へ向かう歩を向けた時に見せた揺らぎ。
 その肩は酷く心細そうな風情。
 京一が自然にそれを包むように手を伸ばして、振り向いた顔に息を呑んだ。

 ぐッと。

 涼介の手が京一の襟元を掴んだ。
 初めて、あの桜の木の下に行った時のように、己に京一を引き寄せた。
 あの時とは違う、今は涼介の背後に桜の木は無くて。
 しかし幻惑されて、まるであの瞬間に戻ったような既視感があった。

 しかもあの時には無かった―――――いや夢では遭遇した、咲き乱れて舞い散る桜の花片が、目の前を霞んで包むようだった。

 ザワ……と風が吹き上げて、豊潤な香りと共に巻き上げたかのような幻

 誘われて攫われて、沈み込み溺れる。身の裡に湧き上がる熱が呼んでいる。
 掠れた声で京一を呼ぶ涼介も、応えるようにその身を腕にする京一の中も。
 グラ……と、涼介の身がベッドに傾いで、京一はその腕に反射的に力を込めて。
 ショックのないように、フワリとベッドへ倒れ込んだ。

「――――……少し……だけ……」

 洩らされる声音に。らしくない、いや、とてつもなくらしい甘え。

 こんな事を。

 目許を桜色に染めて、小さな声で振り絞るように洩らす存在をどうしてやろうか。



 吐き出す息は熱く、せわしない呼吸の間にくぐもるような声が忍ぶ。
 京一は涼介の耳に呻きを注ぎながら、優しく甘噛みしたり、舌で耳たぶや耳の中を淫らに弄った。

 唾液のぬめる音と、濡れた舌のたてる淫靡な音、猥雑に荒い獣の息に脳まで痺れさせられる。

 なのに―――――低く、とてつもないセクシーな囁きは涼介の心を解かして、ほどいて、甘く熱く蕩けさせる。

「――――――……あ……あ……きょう……――――あッ……あ……ッ……」

 その声が聞きたくて。その声をもっと上げさせたくて。
 京一の指が容赦無くそれでも酷く優しく繊細に、涼介の張詰めて濡れそぼる性器の先を親指の腹と人差し指で、攻め立てた。

「ああッ――――……あ……ア……」

 涼介のそれよりも大きい、自身の痛い程に滾るものも、共に握り込み。
 擦り付けて、絡み合わせて淫らに揺する。
 男同士で興奮しきった性器を擦り付けあうなど。
 ひくつきながら、ぐちゅぐちゅと濡れ光り、先走りにまみれて蠢きあう光景は、とてつもなく卑猥であるけれども。

 もっと――――――欲しくて、感じさせてやりたくて

 きつく眉根を寄せて、桜色に上気した顔をもっと快楽に浸りさせてやりたくて。

「――――――はッ……ああ……」

 涼介の肩に力が入る。
 肩をそびやかすように、引き上げて。
 鮮やかに鎖骨が浮き上がり白い喉が見事なラインを描く。

 そのさまに昨夜も見惚れた。

 それはまるで快楽に向かって、伸び上がるかのように。

 そして、俺の物だと―――――露にされた首筋に甘く歯を立て、貪り、刻印を刻みながら降りていく唇と舌は、プツリと小さく粟立った桜色の乳首をざらりと舐め回す。

「……ほし…………―――――い……ッ……」

 京一の欲情に細められて、熱くぎらついた双眸が、なおよりいっそう熱を帯びる。

「京一ッ……ああ……ッ……」

 煽られ、繰り返される快感に翻弄された涼介が、達する事に抵抗するように、京一の猛々しく雄を放つ体に爪を立て、しがみ付いた。
 腰が淫らに動き、しかもその動きはじょじょに摺り上がり。
 がくがくと股関節は軋んで、震える太腿を開いて京一の腰を深く引き込もうとしている。
 瞼をきつく閉じて、切なげに眉根を寄せて。
 涙を浮かべて、熱く疼く体をどうしようもないと。

 刻み込まれた昨夜のようにして欲しい、深く深く、もっと深く――――――灼熱の欲で貫いて欲しいと。

 京一に差し出して悶えるさまに。

「――――……クソッ……突っ込んで……やりてぇ――――ッ……」

 歯を食いしばった京一の声が苦しげに響き。

「――――次は……必ず…………抱い……」

「……ああ……ちゃんと……抱いて、やる……めちゃくちゃに……掻き回してやる……」

 そして安心させるように、左手に重ねていた涼介の右手を、またしっかりと握り込んだ。
 そっと外して、首に縋りつくように腕を回させる。
 後頭部を大きな手で包んで、鼻先で涼介の頬や首筋を撫でる。
 震える涼介に何度口にしても足りない、何度注ぎ込んでも足らない言葉を与える。

―――――……愛している……俺の……と。

 その言葉に安堵したように身を和らげ、しなり、唇から艶息と共に震えて洩れる。

 悦楽の極みに、ただ一つの名。

 応えるように深い口づけを交わし、舌を激しく絡み合わせ、唾液を混じり合わせながら。
 口づけさえも同調して律動する。

 それは互いの体内を互いの粘膜で嬲る、もう一つのセックス。

 下肢からも、脳髄からも交ざり合わせて掻き混ぜて、荒く貪る。
 重ねられた粘膜の、濡れて引き攣れる筋から筋張る幹も全て。
 全て擦りつけて。
 揺らぎはじょじょに小刻みに、駆け上がる快楽の一点を叩き込むように外さずに。

「ああ――――……達……くッ……アッ……あああ……」

 高められ、重ねられた唇の合間から、低く唸る京一の声と涼介の一際高い掠れた悦楽の声を聞きながら、二人で散らす。

 ドクリ……と。

 噴き上がり、崩れて落ちる。
 数度に渡り、飛んだ二人の精液は混じり合い絡み合いながら、跳ね上がる体の振動と共に、二人の男性器をトロトロと伝う。
 朦朧と快楽の波に漂いながら。

 涼介はまだまだ、細い体をビクビクと痙攣させている。
 弛緩と虚脱は緩やかに、指先から足先から鈍い重みを伴って這い上がる。
 荒い息を吐く涼介の胸と腹にも混じった白い精は、少しばかり飛んで。
 情欲にまみれて上気した肌に煌めきを残し、そのさまはあまりに艶めいていた。

 霞むように紗がかかりながら、朦朧と快楽を漂う姿は淫らで愛しくて。
 涼介を苦しげな視線で灼く、熱い溜息を深く吐き出した京一が低く呻いた。

「―――――たまん……ねぇ……お前……」

 狂おしいほど湧き上がり、体芯に荒れ狂う―――――引き際も弾けてしまいそうな欲

 はあ……はあ……と息を吐き。
 とろりとした白い粘液を塗り込むように、ひくつく性器を一掴みに、緩く上下に扱きあげながら。
 京一は、上体を倒して、荒い息を吐いて上下する涼介の胸や腹に迸り、交じり合った二人の精液を目を細め、味わうようにゆっくりと舌で舐めとった。

 ピチャリ……と掬い上げる。

 肌を辿る、その触りに瞼をゆっくりと持ち上げた。
 熱い息を浅く吐き出し、呆然と虚ろな瞳で、その光景を見つめる涼介の唇が震えている。
 京一の舌に乗って飲み込まれていく、二人の精。

 混じり合う二人の白い血。

 涙が浮かぶ、何故だかわからない。
 息が震えて瞼が熱く、鼻を鳴らすように声が抜ける。
 京一が唇についたぬめりを舐めながら。
 月明かりが斜めに入り込み、虹彩が透けて異形のような光を帯びて、涼介を闇に君臨した獣の余韻で見上げた。

 そして見つめる―――――黒く揺らめく夜空の煌きをたおやかに放つ瞳を

「―――――……京……――――ほし……」

 その意味を。

 京一の双眸が慈しむように、細められて受け止めて。
 まるで淫靡なのに神聖な儀式のように感じる、悦びに震える。

 その行為。

 混じり合って一つになって、分け合い与え合う、己れの全てを魂ごと。
 「誓」を立てるまま、そのものを。
 望み、渇望した果ての繋ぎに。

 蒼白くも仄暗い、ゆらゆらと幾重にも重なる加護の月明りと。

 幻想麗しく

 繚乱狂おしく

 舞い散る桜の祝福の花片に包まれて。
 
 一つ世界に重ねて漂う二人の姿は深遠なるまでに。

 縋るように細い顎を僅かに持ち上げ、両の目から涙を零しながら、濡れた瞳を伏せていく涼介に深く。

 深く―――――キスをした




Pict

2003.3.7 京涼愛は永遠です


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