小説 | ナノ


▼ 寂しいと口に出すと終わってしまう関係なので

私と大吾さんは、世間で言われるセフレの関係だ。
大吾から電話があった時にだけ会って、肌を重ね合うだけの関係。
初めの頃は、恋愛感情は無かった。
無かったはずなのに、今は凄く大吾さんが好きで好きでたまらない。

もっと会いたいと伝えたい。
でもそんな事伝えられない。
凄く、寂しい。
でも寂しいなんて言ったらもう家に来てくれなくなるかもしれない。
そんなのは嫌だ。
大吾さんに言い出せない日々は続き、苦しさも募る。
会う日が増えれば増える程、その苦しさは日に日に増えていった。
その次の日、大吾さんからお誘いの電話が入る。

「なまえ、今日は空いているか?」
「…ごめんなさい、今日は忙しくて…」
「……そうか、ならまた今度」

大吾さんはそう言って電話を切った。
忙しくはない。
ただ大吾さんに会いたくなくて…断ってしまった。
それなのに少し罪悪感があるのはどうして…?
大吾さんから折角誘ってくれたから…?
違うと首を横に振ってその日は無理矢理眠りにつくようにベッドへと横になって目を閉じる。
そのまま私はいつの間にか眠りに落ちた。





それから一週間程たつが大吾さんから連絡はない。
仕事中、無意識にスマホの画面を眺めている私はまるで大吾さんからの連絡を待っているようで。
これじゃいけないとスマホから気を反らして、仕事に取り組んだ。
それでも何処か私の心は上の空。
何度も頬を叩いたり首を横に振ったり。そんな事をしても、意味は無いと分かっているのに。
少しでも大吾さんの事を忘れたくて仕事に没頭するようにパソコンの画面を見つめた。

仕事を終わらせて帰宅後、お腹が空いたし何を食べようと考えていた時の事。
電話の着信を知らせる音楽が部屋に鳴り響く。
その音に思わずビクリと体を跳ねさせるもそっとスマホへと手を伸ばしてディスプレイへと視線を向けた。
こんな時間に掛かってくるのは一人しかいないのだけれど。
そこには大吾さんの名前が表示されていて、私は胸が締め付けられる思いにかられた。
名前を見ただけなのに、何故こんなに苦しいの?
いつまでも鳴り響く音色を終わらせる為にスマホを手にして電話に出ると耳へと押し付ける。

「こんばんは、大吾さん」
「こんばんは。今日は、その。会えるか?」
「…大吾さん」
「?なんだ」

大吾さんの言葉を遮った私。
大吾さんの声は何処か不思議そう。
こんなに苦しい思いをしているのは私だけなの?
貴方は、私をどう思ってるの?
なんて、言葉に出来る訳はない。

「……ごめんなさい、会いたく、ないです」
「っ…!?」

私の言葉に、大吾さんが息を飲むのが分かる。
「ごめんなさい」そう言って私は電話を切る。
それから、着信音がなる事は無かった。
何もしたくなくて、ベッドへと横になり目を閉じたところで疲れが溜まっていたからか、私はそのまま眠ってしまう。

───ピンポーン

いつの間に寝てしまったのか、インターフォンの音で気づいた。
誰だろうと目を擦りながら玄関へと向かった私は大吾さんの声が聞こえた瞬間に足が止まる。

「開けてくれないか」
「っ…」

大吾さんの優しい声。
会いたくて胸が締め付けられる。
ドアの前まで行くとドアの向こう側に居るであろう大吾さんの温もりを求めるようにドアに手をついた。
それでも強がるように首を横に振って。
溢れてくる涙を堪えるように涙をはらう。

「会いたく、ないです…」

電話と同じように返したはずなのに声が震えて伝えられたかどうか合間いたけど。
聞こえたのか大吾さんは少し黙った後口を開く。

「…なまえの顔が、見たいんだ。見るだけでも…」
「……ごめんなさい」
「っ…そう、か」

聞こえた大吾の声は少し弱々しい気がする。
その声に心が揺れるが、気のせいだと自分に言い聞かせて「帰ってください」と大吾に伝えて返らせた。
去っていく足音を聞きながら私は玄関で泣き崩れ、座り込む。
どの位そうしていたのだろう。
気付いたら壁に寄りかかって眠っていた。

「…寝よ、う」

怠い体を無理矢理起こして部屋へと私は戻った。





次の日。
夜、仕事から帰ると家の前に人影。
誰だろう?と目を細めて見つめていたが
、近づくとそこに居たのは大吾さん。
スーツ姿の彼は壁に寄りかかり空を見上げている。
近くまで行くと大吾さんと目があった。

「…疲れてるので」

そう断ったのに。
私は大吾さんによって抱き締められていた。 
どうして?よくわからない。

「なまえ」

名前を呼ばれて口づけられる。
大吾さんとキスしたのはこれが初めてだ。
驚きと嬉しさが絡み合って良く分からない感情。
私は驚きのあまり大吾さんを見つめる。

「なまえが好きなんだ…だから、会わないなんて、言わないでくれ…!」
「っ…」

好き?
今、大吾さんは私を好きと言ったの?
大吾さんのその言葉を理解するのに時間がかかる。
理解した後、私は泣いた。
これまでの寂しさ、苦しさ、全てが何処かへ流れ落ちていく気がして。
それからは止められなかった。

「私も、好きだったの…大吾さんが…!」
「悪かった…」
「っ…大吾さんっ…」
「なまえ…好きだ、愛してる」

言葉を聞きつつ、私の事を強く抱き締めて謝る大吾さんの体は震えていた。
私が落ち着いた頃、お互いに見つめあって笑い合う。
これまでの溝を埋めるようにどちらともなく口づけあった。

「もう、辛い思いはさせない。絶対に」
「絶対、ですよ?」

私をそっと離して見つめながら言う彼の瞳は真っ直ぐで本気を伺わせる。
私はそれを信じてみようと小さく頷いて抱きついた。



end


この心臓は君の形をしている様よりお題お借り致しました。

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