知らなかった、昭栄って意外にも頭がキレるんだ



愛情過多な恋人たち 3







「じゃあ……話してもらえますか?」


応接間へ志藤さんを通して、座ってもらう。
座敷には、私と志藤さんの二人だけ。


結人、平馬、昭栄はそれぞれ座敷の外に控えている。



志藤さんも聞き手が同姓1人の方が話しやすいだろう、という配慮もあるのだが、一番の理由はあの黒い影。


さっきからチラチラと現れては消え、消えては現れている。
その矛盾点に気付いたのは、昭栄だった。



「おかしいと思わんか」

屋敷の玄関で靴を脱いでいた時、突然真面目な顔をした昭栄に問いかけられた。

「昭栄?何が?」

「さっきからあの影、出てきたり消えたりしとうよ」

「それくらい見りゃわかんじゃねーか?何が変なんだよ?」


私の横で同様に靴を脱いでいた結人が頭上に?を浮かべながら言った。

すると昭栄は、そんな私たちにさらに神妙な面持ちで言い放つ。


「…人間にとり憑いて、とり殺そうとしとう霊が、あげん面倒なことしよるか?」


「!……そうか…!」


「ちょ、待てよ高山、横山。オレと梨子が話しについていけてねぇ!」

はっとしたように目を(珍しく)見開いて呟いた平馬に対し、私と結人は未だに何の事だか解せずに?を浮かべていると、そんな私たちを見ていられなかったのか、平馬が噛み砕いて説明してくれた。
「だからな、人間を殺すつもりでとり憑いてる霊がわざわざその人間から離れたりするかってこと。」


それを聞いて、やっと私たちの弱い頭も一回転した。


「!そっか……霊からすればできるだけ早く殺したいんだから、その人間から離れるメリットがないよね。」


すると結人が、何か―黒い影―に聞かせまいとするかのように声を潜めて呟く。


「ってことはあの霊、まさか……!!」


「あぁ、明らかにオレ達調伏師の霊力を感じ取ってる。」


あの不思議くん、平馬までもが眉を寄せ、苦々しい表情で静かに頷いた。

そこでやっと気がついたのだ。

私たちの相手は―…やりにくい相手なのだと。


「あれはただの霊やない、生霊や」


依然、神妙な顔で息と共に吐き出した昭栄の言葉は、ただでさえ不気味さを醸し出している、西日の当たらない屋敷の廊下をさらに黒洞々とした闇へと突き落としていく。

一瞬、何かに後ろから見られているような気がして背筋が凍った。











「実は、わたし結婚するんです。」


数分前までの回想に耽っていた私を、志藤さんの声が現実に引き戻す。

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