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お腹空いた……!
渋沢さんのお手製カレーが食べたいなぁ
愛情過多な恋人たち 2
「せんせぇー!持病のアル中が悪化したので帰りますぅ」
100%嘘だと分かるバカな言い訳を叫んで、机の横に掛かっている鞄をひっ掴んで席を立つ。
周りのクラスメートたちは全員が「おー、神宮お大事にー!」と慣れたように私を見送ってくれる。
(持つべきものは友達よね!)
「ちょ、待ちなさい!神宮!」
先生だけは1人慌ててるけど。
ごめんね☆先生!
私の中じゃ、玲さん>先生の関係式が成立してるんだ!
そして「ア、アルコール…!」と意味不明なアル中の演技をしながら教室を出ようとした時だった。
「せんせー!オレもニコチン中毒が悪化したんで帰りますぅ」
「わ、若菜!?」
「せんせ…オレも持病の寝不足が悪化したんで……」
「横山!?つかお前、さっきまで寝てただろ!?」
「先生!持病の恋患いが悪化したけん、帰るったい!」
「高山!?つか恋患いは病気じゃねぇ!」
「ニ、ニコチン…!」
「睡眠……」
「む、胸が…!」
と、私と同様に意味不明な演技をして教室を出てくる結人、平馬、昭栄。
結人と目が合うと、バチンとウィンクをされた。
なるほど、みんな玲さんから私にメールが来たのに気付いたわけね。
「じゃ、さよならっすー!」
と私たち4人が出ていった後の教室では、先生が、
「……転職しよう、オレ」
と呟いていたという。
「で、西園寺の御上は何だって?仕事?」
教室を抜け出して堂々と靴を履き替えていた時、平馬に尋ねられた。
てゆーかアンタ、寝てたのによく気付いたわね。
「まだ何も。ただ、『今すぐ帰ってきて』ってそれだけよ。」
受信メールを見せて言うと、結人が「相変わらず淡白なメールだな」と呟いた。
まあ、確かに結人のデコメに比べればね。(結人のメール、女子高生みたいだし)
「あーあ、折角気持ち良く寝てたのに。西園寺の御上も人使い荒いよな。」
ふわ…と欠伸をしながら平馬が言う。
「下手すりゃ親父より怖いったい……」
それに同意するかのようにビビりながら言う昭栄。
「高山の院より怖えーとか、お前ら神宮に修行に来たの、失敗じゃねぇの?」
結人はけらけらと笑い飛ばしてるけど、平馬と昭栄は、全くその通りだと言わんばかりの顔をしていた。
それに私も苦笑いをするしかない。
実際に玲さんは、高山の院よりも横山の院よりも人使いが荒いのだ。
東海の横山家と九州の高山家。
二家とも、うちに並ぶ調伏師の名門家なんだけど、代々のしきたりとして、地方の調伏師の家系の次期頭主は名門・神宮の家に修行に来なきゃならない。
そんな訳で、横山と高山の頭主の息子、つまり院の息子であり、次期頭主である平馬と昭栄はうちで目下修行中なのである。
「ま、さっさと行こう。西園寺の御上が怒り狂う前にね」
平馬が言った言葉に結人と昭栄が頷いて、歩を進めた時に、はっと思い出した。
あのうさぎのことだ。
「ちょっと待ってて!」
三人にそう言い残して、走って校舎の裏手へ回る。
後ろから「早く帰ってこいよー」という結人の緩い声が聞こえた。
校舎の裏手からふと上を見上げると、やっぱりまだうさぎはそこに居た。
未だ教室の田中くんを悲壮な目で見ている。
スカートのポケットから札を出して、ス…と構えた。
「うさぎさーん!今から祓ったげるからね!」
あの子に聞こえはしないだろうけど、一言断ってから、札を飛ばした。
ぺし、とそれがうさちゃんの額にへばりつく。
「急々如律令!」
唱えると、やがて私の五行・水に包まれて―
最後には、綺麗に消えてしまった。
未練も苦しみも、何もかもを断ち切って。
その様子にほっとし、またすぐに走って三人の元へ戻った。
三人には遅いだのなんだのと文句を言われたけど、別段深い意味も込めずにテキトーにごめんごめんと謝っておいた。
あの子も成仏できたし、早く玲さんのとこに帰んなきゃね!
「あなた達を呼び出したのは他でもないわ」
なんやかんやで家にたどり着いた私たちを待っていたのは、驚いたことに玲さんだけではなかった。
すごく綺麗な女の人。
黒いセミロングの髪を風に遊ばせて、辺りに良い匂いを拡散させている。
「こちら、志藤弓子さん。貴方たちの依頼者よ。」
玲さんが紹介すると、彼女―志藤さんはゆっくりとお辞儀をした。
その所作までもが優雅で綺麗。
今回の依頼者って……未練がましい霊にでもとり憑かれてるのかな?(あんなに美人なんだし)
「志藤さん、右から高山昭栄、若菜結人、横山平馬、神宮梨子です。」
「彼らが……」
「えぇ、うちの調伏師です。」
「すごい、まだ4人とも高校生なのに…!」
(ん……?)
玲さんと話している志藤さんの肩あたりに……なんか、妙な黒い影が一瞬ちらついたような…。
そんな気がしてもう一度目を(霊力を)凝らして見てみるが、何も見えない。
もしかして私の勘違いかな、
そう判断して気にしないようにしようとしたのだが。
「梨子……!」
「平馬、結人、昭栄…」
残りの三人にもきっちり見えていたようだった。
しかし、当の本人に異常はなく、未だ楽しそうに玲さんと話し続けている。
「ねぇ……さっきの、」
「見たのがあの一瞬じゃ何もわかんねぇ。屋敷に入ってさっきの奴を引きずり出すしかねーよ。」
「そうやね、ここじゃできることは何もないけん、」
「でもー…何か、ヤバそうな気がする」
「貴方たち!早く入ってらっしゃい!」
玲さんたちはいつの間にか屋敷の中へ入ってしまっていた。
玄関の奥からは、志藤がこちらを見ている。
彼女の肩にまた黒い影がよぎった気がして、4人、顔を見合わせて屋敷へ向かった。
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