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そういや、明日は生物の追試があった気がするなぁ
女子高生調伏師の日常 4
どたどたどた、喧しい音を立てて階段へと猛ダッシュする。
これでも足は速い方だ。(もしかしたら将より速いかも)(人は私を奇跡の運動神経と呼ぶ)
ちなみに、今、私を動かしている原動力は4割のポ○モンしたさと6割の玲さんへの恐怖。
一馬の帰りを待ってたのと、霊がちょこまかと動き回っていたせいで結構時間を取られてしまった。
夕食までに調伏できなかったことが玲さんに知られたら……
……いや、今は考えないことにしよう。
フローリング、なんてお洒落な響きのものじゃない、いかにも「武家屋敷」らしい木の床は私が走るごとにギシギシと嫌な音を鳴らす。
ギシギシ
ギシギシ
どたどた
どたどた
前方から微かに聞こえてくる同じ音。
それは私が進むごとに大きく、はっきり聞こえてくる。
それに比例して、一馬ほどに鋭い霊感を持たない私にも、うっすら寒いような、冷たいような気配を感じられるようになってきた。
霊が近い証拠だ。脚にぐっと力を込めて、スピードを落とさずに勢い良く廊下の突き当たり、角を曲がる。
また、きゅっと音が鳴る。
そして視界に飛び込んでくるのは、二階へ続く階段、向こう側から同じタイミングで飛び出してきた一馬、
そして、ふわふわと漂う白い霊魂。
「!」
廊下の反対側にいる一馬が制服のズボンのポケットから札を抜き取るのが見えて、私も急いで札を構えた。
そして霊へ狙いを定め、二人同時に空間を切り裂くように札を飛ばす。
「「急々如律令!!」」
私と一馬の声が重なって、それと同様に、白い札―私が握っていたのは少し皺になっている―が霊を挟み撃ちにするかのように前後から飛んでいく。
前の札からはぶくぶくと気泡を上げながら水が、後ろの札からはごうごうと猛々しい音を立てながら焔が、
二方向から霊を包んだ。
そして数秒もたたないうちに、カシャンッという硝子の割れたような音と共に、霊も、水も、焔も一瞬で消えた。
その余韻すらも、残さずに。
さっきまで霊が漂っていた辺りには、薄い霊跡だけがゆらゆらと蜃気楼のように揺らめいている。
それもだんだんと天井へ昇っていって、
遂には消えた。
霊が完全に成仏したのだ。
「終わった、な」
向こうから一馬が私に歩みよってきた。
「ありがとね、一馬」手伝ってくれたお礼を言うと、ほんのり色づく一馬の頬。
少しお礼を言っただけで照れてしまうのだから、多少は成長したとはいえやっぱり一馬は一馬よね。
「ほーんと、一馬ってば照れ屋さん!」
「…うっせ」
「なんで一馬の五行は火なのかしらね」
「……オレからすればお前の五行が水なのも不思議だけどな」
陰陽道における五行。
木、水、金、火、土の5つの「気」のことで、私たち陰陽師の霊力はこのいずれかに属する。
私は水で一馬は火だ。
ちなみに血液型占いのようなもので信憑性はないけれど、火の五行を持つ者は勇猛で目立ちたがり屋、水の五行を持つ者はおとなしくて純粋だとされる。
私たち二人とも正反対じゃん(自分で言ってて悲しいけどさ)
「……」
「……」
数秒間、一馬と無言の攻防を繰り広げていたが(ツリ目相手にここまで頑張った私、すごい!)、霊も無事に祓えて万事上手くいったのに睨み合う私たちが何だか可笑しくなってきちゃって、一馬の表情がふっと緩んだ瞬間に、私も堪えきれずに笑ってしまった。
「ま、とりあえずお祓い終了ってことで」
にっと笑って言いながらポケットをごそごそと漁って100%アップルのキャンディを発掘し、差し出す。
「おう、」
すると彼も笑って応えて、キャンディを受け取った。
(「あー疲れたー…」)
(「は!明日、生物の追試だ!どうしよう一馬!」)
(「勉強すれば」)
(「え、英士!英士を呼んで!教えてもらわなきゃ!」)
(「今日は英士、直帰するからこっちには来ねーぞ」)
(「いやぁぁあ!」)
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