みんなは全校集会が大嫌いらしいが、私は大好きだ。
むしろ365日全日開催してほしいくらい。







「あ、ああ…あああ……!!」

「名前…ほんとにあんたって子は…」

「中村ちゃあああん……!!!」






本校舎。
それは私にとっては憧れの庭。
E組の私はなかなか足を踏み入れられないけれど、焦がれずにはいられない秘密の花園のような場所。
今日だって、全校集会の為にE組の隔離校舎から本校舎へ足を踏み入れた瞬間には身体が震えた。
だって、ここは彼が毎日の大半を過ごす学び舎なのだから。










「相変わらず楽しそうだね……名前。」

「どうしよ、倉橋ちゃん……し、心臓がドキドキしてきた……!」

「ちょっと落ち着きな、名前。はい吸ってー、吐いてー、」

「すー、はー、すー、はー、」

「あはは、莉桜ってば名前のお母さんみたい〜。」







中村ちゃんに背中をさすられながら深呼吸を繰り返しても、なかなかうるさい心臓は落ち着いてくれない。
ぴかぴかで綺麗な本校舎の体育館という条件も重なってか、心拍数は上がり続けるばかり。
どうしよう、このままじゃパンクして死んでしまう!冗談抜きで死んでしまう!
……いや、むしろ本校舎で死ねるなら本望か……?
彼が排出した(かもしれない)二酸化炭素に満ちた空間で人生を終えられるなら幸せか……?
渚くんと杉野くんがふるふると頭を振る私に向かって苦笑いをしているが、なんか腹が立つので見なかったことにする。






「おーい名前、生徒会の連中、来たよ」

「えっ、嘘っ、!」






渚くんと杉野くんの視線に対して華麗にスルーを決めたところで後ろから倉橋ちゃんにこそっと耳打ちをされ、振り返る。
私の動作と同時に、開いた扉から全校集会の準備のために一般生徒よりも早くにやってきた生徒会のメンバーがズラズラズラと入場してきた。そしてあれよあれよと言う間にテキパキと会場の設営を始める。
大半はA組のトップ……いわゆる五英傑や上位層だ。
しかし、私の興味はそちらには無い。
私の瞳が捉えるのは、その中で場を取り仕切るひときわ目立つ綺麗なすがたの、








「っ、浅野くん……!!!!」






ああ、もう何日ぶりかしら。
前回の全校集会以来その姿を見かけていないから、もう1ヶ月ほどは彼に会っていない、もとい眺めていない。
前に見た時よりも少し背が伸びて身体つきがしっかりした気がする、忙しくて切る暇もないのだろうか、髪もいくぶん伸びたような……ああ、でもそのキリリとした眼差しに、上手に育てられたチョコレートコスモスのような色の瞳はそのまま。
やっぱりカッコイイ。
胸が詰まるくらいに素敵。
ああ、もう……!!





「すき……!!」

「あんた、そんなに浅野が好きならE組に落ちないように勉強すれば良かったのに……。」


「うっ、うるさいなあ中村ちゃんは!もう過ぎちゃったことは気にしない気にしない……!」






私だって隔離校舎のE組に落ちたくなんて無かったし、むしろ浅野くんと同じA組狙いで死ぬ気の勉強を続けてきたつもりではあったけど、なんと言うか、まあ、その、努力も虚しくというか……。
結果的にエンドのE組に落ちて、ただでさえ高嶺の花だった浅野くんの姿は全校集会の時にしか見られなくなってしまった。
だからこそ、私にとってこの全校集会は月に一度の楽しみなのだ。
じっくりと、遠くからでも浅野くんを見つめていられる貴重な機会。




「おーい、そろそろ他のクラス来るから整列しとこうぜ。」





磯貝くんの指示が飛ぶ。
私たちE組は誰よりも早くに体育館に集合し、他のクラスが来る前に整列を終えていなければならない。
E組にいることは最高の不名誉。
それを深く理解しているみんなはバラバラと気重そうにみんなは整列を始めた。
わたしもその流れに従いつつ、チラリと会場の準備をしている浅野くんへ目をやる。






「名字、早く並べよー」

「あ、はーい!」






たとえ全校集会で周りから馬鹿にされようと、どんなに扱いを受けたとしても。
私は、浅野くんに会えるのなら耐えられる。
あのチョコレートコスモスみたいな瞳を垣間見ることができるのなら。









(運命がレモンをくれたら、それでレモネードを作る努力をしよう。)


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