プレス=コード!

「あれはあんまりにも酷いと思うよ!」

「まあ確かに的を射すぎてて酷いというか秀逸というか……ぶふっ、」

「カルマくん慰める気ないでしょ!?」








そもそも事の発端は、木村くんのキラキラネームであった。
今までみんな彼を「マサヨシ」と呼んできたしそれが本名だと思っていたのだが、実は戸籍上は「正義=ジャスティス」と読むのだそうで。1年、2年と彼とは別クラスで面識はなかった私やカエデの驚きようといったら、とても口では表しきれる代物ではなかった。だって、だってジャスティスって!確かに正義感あふれる木村くんにぴったりな名ではあるが、何も英語にしなくても。せめて「正義=セイギ」とかさ……。
彼の名前に対する不満を聞きつつ、子が生まれた瞬間の親のテンションとキラキラネームの関係には恐るべきものがある、としみじみしていたが、なんと木村くん以外に他の人からも名前に対する不満が出るわ出るわ。
そしてそうこうしているうちに、矢田ちゃんの一言から着想を得た殺せんせーがまた変な提案をしたやがったのだ。




「じゃあこうしましょう。今日1日、名前で呼ぶの禁止!!」


名前で呼ぶの禁止……つまり、1日はクラス全員をコードネーム呼ぶ、ということである。
これが、事件の始まりであった。



















一時間目の体育にて、私は「貧乏委員」(磯貝のことである)と「女たらしクソ野郎」(言うまでもなく前原)と共に陽動作戦として「堅物」(予想に違わず烏間先生)を引きつけ、そこを「ツンデレスナイパー」(こちらも秀逸だが、速水のこと)が狙撃するという手はずだったわけだが、まあ、その、陽動作戦どころかわたしも貧乏委員も女たらしクソ野郎もアッサリと堅物に抜かれてしまい……。





「3人とも!包囲の間を抜かれてどうする!」

「特に『女たらしクソ野郎!』銃は常に撃てる高さに持っておけ!」



堅物の檄が飛ぶ。
女たらしクソ野郎と大音量で叫ばれた前原などは微妙な顔をしていたが、ぼやぼやしてここで堅物を逃すわけにはいかない。
作戦はできる限り温存しておきたかったということもあるが、1番にはせっかくのツンデレスナイパーを不発にさせたくなかったというのが大きい。
そう簡単に貴重な戦力である速水を封じられてたまるか。
銃を持ち直し、すぐに堅物の後を追う。
このパターンも予想済みだ。





「貧乏委員!女たらしクソ野郎!作戦通りに!」

「任せたぞ!」

「頼んだ!」





裏山の険しい環境とはいえ、陸上部で鍛えた脚力が物を言ってか、堅物との距離が縮まる。私が貧乏委員チームに配置された理由……それは、私の圧倒的脚力。
元陸上部エースの私はE組で唯一、堅物と100メートルのタイムで競り勝つことができる。そしてツンデレスナイパーと『ギャルゲーの主人公』(聞いた時は吹き出してしまったが、千葉くんである)ほどではないが、私の狙撃力はE組の上位だ。
特に、強靭な脚力を生かした追い討ち射撃は随一だと謳われている。
……殺れる!











「ってところで叫ばれたコードネームが『脳筋』だもんなあ。」

「あれは酷いよ……仮にも女の子に向かって脳筋って…」





脳筋!と貧乏委員、前原から叫ばれたと同時に私は一発撃ったわけだが、私の追い討ち射撃もう読まれていたのか、それもあえなく堅物に止められてしまった。
しかもその後、トドメを刺すかのように「脳筋!弾道が単調すぎるぞ!君は脚力だけか!」などと叱咤されてしまったものだから、心が抉れるかと思った。ほんとにわたしどんだけ筋力馬鹿だと思われてんの……。
っていうか、そもそも誰だこのコードネーム考えた奴。









「俺は好きだけどね、脳筋ってコードネーム。」

「わたしも好きだよ、中二半ってコードネーム。」








恨めしげにカルマくんを見やると、彼は尚も掴み所のない笑顔で(しかし目に涙まで浮かべて)けらけらと笑っている。
くそう、他人事だと思って。
いや、まあ実際カルマくんにしたら他人事なんだけど……。
というか、さっきからカルマくん笑いすぎじゃない?
確かにみんな私のコードネームを聞いたときは笑ったけど、放課後になっても未だにウケてるのカルマくんだけだよ?






「カルマくん、いくらなんでも笑いすぎでしょ……今日一日ずっと笑ってるじゃん。」

「ん?ああ……そりゃこんな面白いことあったら一日でも二日でも笑ってられるって……くっ、あはははは!!」

「はぁ……そんな面白かったっスか…私の不名誉なコードネームは…」






しまいには、机に突っ伏してふるふると震えだしたカルマくん。
あれ?そういや、カルマくんがこんなにバカウケしてるのってかなり珍しい?
いつも楽しげに人の追撃を躱す彼だけれど、こうしてキャラ崩壊寸前まで笑っているのはなかなかレアだ。
笑いのツボが浅い……いや、普段の生活を見てるとそうでもない、よね……。








「あっはは……名前さ、もう放課後だし時効だから言っちゃうけど。」

「?」

「『脳筋』ってコードネームつけたの、俺なんだよね。くっ……ふふ……!」



えっ、ちょっと待って、いま何て?








「なん……だと……!?」

「ぶふっ……その顔!その間抜けな顔がいかにも脳筋っぽくて…くふっ…」

「カルマくん!!!!」

「ごめんって、ほんと、いやでもマジで名前脳筋だから……ぶふっ、」

「も、もう!!カルマくんの馬鹿!!!」








だからごめんって、と笑い過ぎてか息も絶え絶えなカルマくんの声が聞こえるが、その声の震え具合から見るに未だに笑いの発作は止まっていないらしい。
本気で謝る気がないのは分かったが、せめてフリくらいは欲しかった。
じとっと腹を抱えて発作を収めようとしているカルマくんを睨んでやる。
ちくしょう、涙浮かべながらバカウケしてても顔の整ってる奴はどことなく綺麗に見えるからずるい。






「あ〜、悪かったって。ごめんごめん…帰りにいちご煮オレ奢ってあげるから勘弁。」

「!!、ほ、ほんと……?」

「くふっ、…あははははは!!!そういうとこだって!!やっぱり脳筋だよ名前!いちご煮オレで……っ、いちご煮オレで機嫌直すかな普通ッ……あはははは!!!」














「からかわないでよ馬鹿ァ!!!!!」





プレス=コード!









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