「アナタたちこーほせーでしょう? ならこのくらい出来てトーゼンだわ!」
「なっ」

思わず動揺の声をあげてしまった。
随分とマセた女の子だ。
ロコルで各自休息をとっていた中、私はこの子に会った。

「なぁに? できないの? こーほせーって名前ばっかりね」
「ななななな……! いいわよやったげるわよ! 年上バカにするな!」
「なまえ、どこ行ったかと思ったらこんなところで小さい子と喧嘩してたのか。みんなが待ってる」
「なによ、わたしはれっきとしたレディよ!」
「なーにがレディだ! そんな口聞くような奴、淑女の風上にも置けないわ!」
「じゃああなたは、それをわきまえてえてるっていうの!?」
「……落ち着いたらどうだ?」
「エースは黙ってて!」「おにーさんは黙ってて!」

私たちを止めに入ろうとしたエースがぴたりと動きを止めた。

「ならコイツらを倒してみせてよ!」
「ああ受けて立つわよ! 見てなさい!」
「……なまえ」
「エースはみんなと待ってて、すぐ終わらせてくるから!」

それだけ言って、私はちびっ子が差し出した紙をひったくってロコルの街を飛び出す。
背後でエースの盛大な溜め息が聞こえたが、私は振り返らずに走った。





「……っ、はー……ったくもう、めちゃくちゃな数押し付けてくんじゃないわよ」

じんわりと浮かんだ汗を手の甲で拭いつつ、依頼書の完遂を確認した。
依頼(というか挑戦状)にあったモンスターはきっちり退治してやったが、いつの間にもう夕方。これはまずい。今日は授業はお休みといえど、半日もみんなを待たせてしまったことになる。
私は急いでCOMMを繋ごうとした。が。

「もしもーし……あれ、おーい!」

繋がらない。
そういえばこないだの実戦演習のとき、落として皇国兵に踏まれたんだった。あれから使ってないし……というか、あれから使えてないのだ、きっと。

「う、うわあ……まずいことになった」

とりあえず急いでロコルに、と思い辺りを見回した。
しかし、さっきモンスターとそれはもう壮絶な大立ち回りをしてしまったため、自分がどっちから来たか分からない。

「………………まずいことになった」

再度呟く羽目になった。
COMMも繋がらない、そして迷子。日はどんどん暮れるし、狙ったかのようにどこかからクァールの遠吠えなんか聞こえて、正直怖い。
しかしあれだけ啖呵を切ってきたのだ。今更怖がっているのを表に出すわけにもいかなかった。
女の子に叩きつけられた依頼書をポケットにしまって、私は決意する。

「とりあえず移動しよう」

一応片手に武器を握り締めて、茂みで視界も遮られる中、出来るだけ辺りに注意を払いつつ歩いた。

「ああもう……帰ったらみんなに怒られるんだろうなあ」

独り言を言っていないと膝が震えて転びそうだ。

「特にクイーンあたりに…………っ!!」

しかし、次の瞬間に茂みから聞こえたがさりという音に身を竦ませる。
その音は段々とこちらへ近付いてきている。皇国兵だろうか。モンスターを幾匹も倒したため、私の身体は絶好調とはお世辞にも言えなかった。こんなときに複数で攻められたらたまったもんじゃない。
さっきまで堂々と独り言を言っていた手前あまり意味はないかもしれないが、私は出来るだけ気配を消そうと後退りをした。しかし背にぶつかった樹の感覚に背筋がひやりとした。
それでも近付く音。完全にバレている。私はぎゅっと目を瞑って現実から逃げようとした。

「見つけた」
「っ!!!!」
「怯えなくていい。僕だ、エース」
「エースのふりをしたって無駄よ! 私はそんな上手すぎる真似に誤魔化されな」
「なまえ、何を言ってる」

近付かれないようにと伸ばした両手を擦り抜けて、こつん、と額を小突かれた。
頑なに閉じていた瞼を開いたら、視界いっぱいに見えたのは紛れもなくエース。

「え、エース……!」
「心配したぞ、いくらCOMMに連絡しても返答がないんだから」
「探しに来てくれたの?」
「当然だろ。今から戻って飛空挺に乗ればまだ帰れる。一緒に帰ろう」

よかった。私は握り締めていた武器を手放して、エースに思いっきり抱きつく。「そんなに怖かったのか」と背中を撫でられた。うん、怖かった。一人でいるのは怖かったよ。言いたかった言葉は、嗚咽と涙でぐしゃぐしゃに丸めて喉の奥に押し込んでしまった。

「ひぐっ、うぅ、エースぅ」
「ああ、ここにいる。だからもう泣くな、なまえ」

身体を離されたかと思えば、額に小さくキスを落とされた。
それから、唇に。
慰めみたいなそのキスは、私を子ども扱いしているみたいでちょっぴり悔しかったけれど。


迷子日和


「どうよ、任務完遂したわ!」
「……おねーちゃんごめんなさい、わたしのワガママで迷子になったってきいたの」
「あーそれ聞いちゃったか。ううんいいよ、候補生も迷子になるってことで」
「いいの?」
「うん。……それよりあっちのいかにも不穏な空気に行くのが辛くて」
「おねーちゃんこーほせーでしょう!」
「候補生にだって嫌なものは嫌なのよおお」
「……ま、またきてね!」
「魔導院に生きて帰れたらね……」

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