今日のためにお肌の手入れをして、新しい髪留めも買って、雑誌で入念に男の子が好きになる態度の下調べもして、女子のみんなに意見を聞いて回ったりもして。
「……ん、何か顔についてるか?」
かわいい女の子を演じたつもりなのに、彼、エースくんは全く動じてくれない。シンク直伝の上目遣いでじっと見つめたってこの調子。私はげんなりした。
「いや、もういいです……」
「何が」
「なんでもない!!」
そう言うしかないじゃないか。だって時刻は既に23:57。きっとこのエースくんは、クリスマスを知らないんだ。なんだか一人で空回りしちゃったな。
私は溜め息をつきたい気持ちを無理矢理飲み込んで、膝を抱え込んだ。
「エースくん」
「なんだ」
「あと3分なんだけど」
「……何が」
「今日」
「そうか」
いちいち短く応えるエースくんが、ちらりと時計を見て、だからなんだとでも言いたげな視線を送ってきた。私はショックで部屋の壁に背中を打ち付け、腹部を見つめるように縮こまる。気付け気付け気付け、今ならまだ許してあげる。あと2分。いや、もう1分?
「なまえ」
「何ですか」
少し離れていたエースくんが、目の前に膝をついているのが、たてた膝の隙間に見えた。
「なまえ、そんな顔するな」
「そんな顔ってどんな顔!」
「……そういう、拗ねた顔」
誰のせいだと思ってるんだあああ! 私は勢いよく俯いていた顔をあげると、
「むぎゃっ」
両手で頬を挟まれた。「はひふんの!」痛くないけど、情けない喋り方になってしまうではないか。そんなことを真顔でしやがるエースくんの肩越しに、時計が見える。もうすぐ全ての針が一方向を向いてしまう。クリスマスが……!
「お、終わっひゃう!」
私の言わんとすることに気付いたのか、エースくんは横目で私の焦点の先を見た。
「終わる?」
こくこく。頬を挟まれながらも首を縦に振れば、彼は再びこちらを、まじまじと見つめる。それから、彼はくすりと笑って力を緩めた。
「終わりじゃなくて、始まるんだ」
「へ?」
「クリスマス」
エースくんの言葉と、時計の12時を示す音が重なる。
ということは、私がずっとクリスマス当日だと思っていた今日……いや、昨日が、イヴ。
「……私、勘違いしてた?」
「そうらしいな」
恥ずかしい!
期待しすぎてクリスマスと早とちりし、浮かれて落ち込んでいたのだ。エースくんはちゃんとクリスマスって知ってたのに!
いっそ背後の壁に頭で穴を開けてやりたい気持ちだったが、エースくんが少し顔を傾けて、私の顔を固定したままキスを落としてくるものだから、そういうわけにもいかず。
「……っ、僕は」
「……ぅっ、ん?」
「なまえに一番に言いたかったんだ。だから、クリスマスを間違えるはずがない」
「な、何を……言おうと」
酸欠で揺れる頭でも分かる、珍しく嬉しそうなエースくん。髪をくしゃりと撫でられ、彼はおでこをくっつけてきて。
「好きだ、なまえ。それから、」