quiet⇒cheerfull



「ナマエ! ナマエ、平気か?!」

ナマエがうっすら瞼を開けると、視界に広がったのは心配そうに顔を歪めて名前を呼ぶマキナだった。あまりの至近距離に、ナマエは目をぱちくりとさせる。

「……あれ、私」
「ご……ごめん、こんなことになるなんて思わなくて、その」
「んー、何のこと? っていうかこの格好、社交ダンスみたいだね!」

確かにマキナの腕は倒れかけたナマエの腰を支え、反対の手はナマエの腕を咄嗟に引いていたのだが。まさかそれをそんな風に言われるとは思ってもみなかったマキナは口をぱくぱくと開閉させた。

「いっいや、これはナマエが倒れそうになったから思わず」
「そうだったの?! わっごめん!」

軽やかにマキナの腕から離れるナマエ。
しかしマキナは不自然な格好のまま呆然と固まっていた。目の前の女の子はマキナの知っているナマエではない。

「……ナマエ、どうしたんだ?」
「どうしたの、って何が?」

疑問に疑問で返し、ナマエはにこりと笑ってみせた。明るい無邪気な笑顔だった。
マキナが余計目を丸くするものだから、ナマエは言葉を続ける。

「うーん……よく分かんないけど、とにかくありがとう。マキナくんが助けてくれなかったら、頭打って死ぬとこだったんだね。優しいなあマキナくんは!」
「さすがに死にはしないと思うけど……まあ、どういたしまして」

マキナはやっと曖昧に笑い返した。ナマエはそれを見て更に満足そうな笑みになる。ただの明るい笑顔にも、種類があるようだ。

「そんな優しいマキナくんに、何かお礼をしなくちゃ。何がいい?」
「い、いや別に何もいらな……」

むしろその突然変異の訳を教えてくれないか、と言いたかったのだが。

「遠慮しなくていいんだよ? そういうところも優しくてほんと好きだけど」

マキナにとっては見慣れない爽やかな笑顔を浮かべたまま、ナマエはさらりと言ってのけた。マキナはぴくっと反応するが、ナマエは笑顔でそれの意味を濁す。
しかし、マキナは正直な人間だった。気になったことは聞きたくなってしまう、意欲旺盛な時期というやつだ。

「……あの、今のは」

本音?
違うとしたら、先程あれだけ顔を赤らめて告白してきたナマエは、なんだったというんだ。

「……っ! あっあれ? あんなのジョークに決まってるよー! あ、や、やばい忘れてたこれから実戦演習だったー! ごめんマキナくんじゃあね!」

ナマエはそう早口に捲くし立て、ターンしてはもの凄い勢いでテラスから立ち去ってしまう。振り返る寸前、耳が赤いのが見て取れた。
残されたのは、またも呆然とするマキナ。
何なんだ、一体。オレは夢でも見てたのか?
首を捻りながらも、ぽつりと溢す。


「今日、0組は実戦演習なんてないんだけどな……」
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