俺って人間は、死にたがりだった。
甘ったれんな、なんて言葉は、ヤノに言われたんだったか、ナデシコに言われたんだったか。多分両方。何度も誰かに言われた気がする。

「昔からこうだったわけじゃないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。戦争が始まってから、かな」

ひとのいのちは重い。それを奪うのが、嫌だ。敵は人間じゃない、倒せ、殺せ。そういうのが、嫌だ。殺さなきゃこっちが死ぬのは分かってる。でもそれくらいなら、こんなことを続けるくらいなら、死んだ方がましだ、なんて。
デュースは俺の弱音に、言及するわけでも、笑い飛ばすわけでもなく、静かに困ったような顔をした。たぶん、俺にかける言葉を探しているのだろう。

「……ああ、ごめん。こんな重い話」
「いいえっ、そんな!」

「わたしは、なまえさんの話聞くのが好きですから」。それが楽しい話であろうと、辛い話であろうと。デュースは大げさなジェスチャーと共にそう言った。
今みたいにベンチに並んで座って、ただ何を目的にするわけでもなく俺と会話するだけでも。それが好きなのだと。

「……確かに、俺も楽しい」
「ほんとですか? わたしと一緒だ、うれしいです」
「楽しくなかったら毎日毎日きみのことここで待ってないって」
「今日と一昨日はわたしが先でした」
「……あれ、そうだっけ」
「そうです」

うふふ、と笑うデュースは花のようだ。こんなにかわいい子がどうして俺なんかと話すのが楽しいのか全くもって理解不能だったが、彼女のこの笑顔が好きな臆病者の俺は、そんなこと聞けるはずもなく。
二人の間に、静寂が降りた。彼女と作る沈黙は、透き通っている。嫌いになれない静けさが、そこには流れていた。

しばらくすると、デュースがゆっくり口を開き、鈴を鳴らすような声で言う。

「……今」
「うん?」
「なまえさんにわたしが出来ることを探してみたんです」
「俺に?」
「そう。死にたがりのなまえさんに」
「はは、改めて言われるとなんかなあ」
「笑いごとじゃないんです! わたし、なまえさんのこと忘れたくないんですから。だから、なまえさん」

聴いて。
そう言って、デュースは笛の音色を奏で始めた。うつくしいひとが奏でる、うつくしい音色だった。俺は目を閉じてその旋律に浸る。それは、死にたがりの俺へ向けたマーチで、セレナーデのようだった。
……俺は君に、貰ってばかりだな。俺から何かを払えたこともないのに、君は平気な顔して、こうしてまた、俺に無償の愛をくれる。

「わたしが好きな人を、どうか、殺さないであげてください」

演奏を終えたデュースが、ふわりと微笑んだ。俺は拍手も忘れて、彼女の瞳に魅入る。
また、ひとつ。生きる理由を貰ってしまった。
ならば俺には、何が出来るだろう。

「生きてください。それだけで、充分」

微笑んだ君に、俺もつられてしまう。……でも。
うん。
君が幸せそうに笑う、そのためなら、俺は。


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