「これが、私とあなたが付き合えない理由です!」

0組のナインという男に告白された。
闘技場からの帰り、朱雀のモニュメント前でのことだった。並んで歩いていたはずの彼に突然手を引かれたかと思いきや、「なまえ、お前のことが好きだ」なんて、唐突に告げられたのだ。
「初めて会ったときからずっと思ってた」んだそうだ。
彼と初めて顔を合わせたのは、少し前の作戦で同じ班に配属されたとき。それがきっかけか、闘技場やエントランスで顔を合わせては挨拶(「なまえ!」と突然大声をあげるのがそうなのだとすればの話だが)やちょっとしたおしゃべり(いちいち凄むナインとびくつく私ははたから見れば恐喝真っ最中に見えただろうが)をするようになった。
仮にもナインは0組で、顔もそれなりによく、荒事に強いし、粗暴なところも一種の女子の心を擽るチャームポイントとなっている。
しかも噴水前で不意打ちの告白。こんな王道、ベタ、ありがち、わかりやすい、女子なら誰もがときめくであろうシチュエーションはめったにないんじゃなかろうか。


なのに私は、まるっと5分、ナインをフる理由について語ったのだ。
以下、冒頭に戻る。


「……俺のこと、そこまで嫌いか」
「いや、嫌いだとは一言も言ってません。でもまだ私たち知り合って間もないんだよ? 気の迷いなんじゃないかな、どうせすぐに幻滅しちゃうに決まってるって」

……っていうのを今の今まで力説していたのだが。

「ゲンミツ?」
「幻滅です」
「イミが分からねえ!」

これだ。
5分間何も反論せずに突っ立っていたのは、私が並べ立てた御託の意味をほとんど取れなかったからだろう。かなり確信に近い推測だ。
だって、わざとそういう風に言ったんだもの。

なのに。

「とにかく、俺のこと嫌いじゃねえならいいな」
「今までの流れ! 流れ!」
「だああもうめんどくせぇぞコラ! せっかくちったぁ真面目に言ってやったのに長ったらしい説教かましやがって!」

私だって大真面目に御託を……と言い掛けたが、勢いよくまた片腕を引っ張られたことにより言葉は飲み込まれる。代わりに「うぶっ」という声が漏れたのは、勢いだけの動作により彼の胸板に思いっきり頭突きをかましたからだった。
私は反射で両手を突き出した。肩あたりを思いっきり押し返して、なんとか距離をとろうとする。

「私のこと好きなら少しは私の意志を尊重してください!!」
「んなん知るか! 嫌いじゃねえイコールこれから好きになるに決まってんだよ」

なんだその等式! もの凄い自慢気に言ってるけどそれおかしいでしょ!

「だから俺と付き合え、なまえ」

そんなに真っ直ぐ見つめないでよ。まだ私たちは互いを知らない。好きか嫌いかを判断出来るほど、彼を知らない。
なのに、彼の無茶苦茶な言葉を聞いていると、まるで暗示みたいに目の前がくらくらしてしまう。
ほんとに私は、彼の言うとおり、ナインという男を好きになってしまう気がして。
御託を並べるのも、突き飛ばしてしまうのも、全部全部、君を好きになるための布石だったら。

でも今は考え事から逃避。
ナインの瞳をしっかりと見据えられないまま、言い放っては逃げるのだ。


お友達でいましょう


まずはそこから。
彼の瞳に飲み込まれてしまうのは、そう遠くない話だろうけど。
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