「……」
「……」
………………。
……………………。
わたしと八田くんの間に、静寂が流れていた。これでもかってくらいに。
これは珍しい事態だ。鎌本さんあたりが聞いたらびっくりして痩せちゃうんじゃないだろうか。
相思相愛だったと知り、八田くんと付き合いはじめて半年――そう、半年だ――が過ぎ、多々良さんは「どこまでいったの?」と聞くのに飽き(趣味の一環だったらしい)、草薙さんにはわたしたちの相変わらずのけんかに「お前らほんまに付き合うてんのか」と白い目をされながらも。ついに、ついに今日まできた。
なのに。
「……痛かったか」
「うん」
「まあ、そうだよな」
「……まあ、ね」
「悪ぃ」
「いや、仕方ないよ」
短い言葉をやりとりした。
両肩に添えられた八田くんの手は未だ小刻みに震えていて、口調もしどろもどろ。それに吊られたのかなんなのか、わたしの方もどことなく目の焦点を合わせられなかった。
だって、ショックだったのだ。
「だ、誰でも最初はそうなんだって。少女マンガがおかしいんだよきっと」
「ホント悪かった、いろは」
「謝らないでいいから! 八田くんだって痛かったでしょ、ほ、ほら、お互いさまだよ」
「痛かった。痛かったけど、そういうもんか……?」
「そういうことにしておこ! 予想出来ないじゃん。あんな、」
初キスが、歯に当たるなんて。
「……考えれば考えるほど恥ずかしくなってきやがる……!」
「まあ、ここに来るまで大変だったしねえ」
「なんだそれ。年食った婆さんみてえ」
「ひどい! 必死にフォローしてあげたのに!」
「そのフォローがフォローになってねーんだ! 更に抉ろうとしてんだろ!」
「きい! 美咲ちゃんのばか! すっとこどっこい! へたれ!」
「……っ、的確に突くじゃねえか」
「あっ、ご、ごめん、今これは禁句だったよね」
「おい、わざとか? わざとなのか?」
「違うよ違う! わ、わたしだって……は、恥ずかしいよ…………ファーストキスが痛いとか」
「……」
「……」
………………。
……………………。
二人で俯いて、顔をあげて。ぱちぱちと、お互いのなんとも言えない表情に瞬きをした。
なんだか呼吸までシンクロしているみたい。
わたしは、ゆっくりと口を開く。
「もっかい、しようか」
「……おう」
「八田くん、今度は恥ずかしいからって目、閉じないでね」
「で、お前が閉じんのかよ」
「無理。恥ずかしいんだもん」
「ああ?!」
これ以上文句は認めるものかとわたしは先に目を瞑って少し上を向いてやった。何やら八田くんが深呼吸をする音。静寂。それから。
second kiss
やっと訪れた微かな感触にうっすら目を開けたら、彼とばっちり目が合ってしまう。
二人して赤くなって、同時に目を閉じた。