メーデーメーデー、応答願ウ



初雪が天から落ちてきた。
半分とけたそれはみぞれであったが、すぐにふわりとした牡丹雪に変わった。
無数に揺れ落ちる雪はその柔らかな見目とは裏腹に、真剣のように鋭く張り詰めた寒さを連れて来る。
大阪の城でそれを立ちすくむように眺めていたのは大谷吉継だった。
降り出して間もなくだというのに、一の丸の角には白いものが溜まっている。
これは明日には積もるかもしれない。大谷は困った困ったと布で覆われた頭に手をやる。余りにも冷え込むと体が固まり動かなくなるのだ。
天が雪でまっ白に覆われる今もまた、足元からじわじわと虚ろが上ってくる。
かろうじて歩ける足はすぐに儡へと成り下がるだろう。
政務はこのまま切り上げるしかない。部屋へ戻り暖を取らねば。
大谷がじわりと動こうとしたとき、豪快に駆ける足音が近付いてきた。
「おぉ!これはすごい雪だ!刑部もこれから雪遊びか」
眩しいくらい精悍な笑顔でやって来たのは徳川家康だった。
「…徳川、驚かすな、それに遊びとは何事よ」
「大阪では初雪と聞いてな、西ではこうも早く降るのは珍しいとのことだから、存分に遊び倒すんだ」
「…雪でか」
「雪でだ!」
「…酔狂よ」
家康は大谷の曇った顔と呆れ気味の声に目を丸くする。
「刑部は雪が嫌いか、ふわりと舞う雪は美しくて、わしは好きだが」
大谷は息をついた。
「われの体はあまり冷めると指先から腐るのよ、今もじわじわと体が冷たくなっていく、故に、熱をさらう雪になど触れられぬ、雪の纏う寒さも敵よ」
「そうなのか、ならば」
家康は、にかっと笑う。
大谷は眩し気に目を細めた。
家康は光を持っている。全てを包み込むまばゆい光を。
しかし、その光はあまりに強すぎる。危うい光は下手をすれば脅威とも成りうる。
こうも間の抜けたことを言いつつ、腹に一計案じているともわからぬ。警戒すべきか。
大谷は瞬時に様々な思考を巡らせる。
そのため、回された腕を回避する反応が遅れた。
ぎゅうっと厚く逞しい胸に抱かれる。
力強い腕に背を包まれ、頬に合わせから漏れた肌が当たる。
じわりと伝わってきた家康の日のような熱、そして、鼻孔に溢れる家康の匂いに大谷の頭は沸いた。
「わしの体は温かい、だから刑部も温まるといい」
耳元で響く健全な声。
いや、しかし。他意がないとは思えぬ所作に大谷は目を回した。
「と、徳川、離せ、離さぬか」
動揺で舌が縺れる大谷は、力で家康を離そうとするが、大岩を押すように無意味だった。
「しかし本当に冷たいな刑部は、まるで雪と同じだ」
「よいから、離せ!」
「それは出来ない、冷えたら体に障ってしまうらしいからな」
「よし、雪遊びは中止だ」
ふわっと大谷の体が浮き上がる。
地から足が離れ、逞しい腕に体が委ねられた。
「は、徳川、何を…」
「ここの寒さは刑部には辛いだろう、だからわしの部屋へいく、先程まで暖めていたから火鉢をかき回せばすぐに暖がとれるぞ」
家康は急ぐように大股で歩き始める。大谷の部屋がある方向とは真逆な所へ。
「われにも部屋くらいある、そこへ帰せ、いらぬ世話を焼くな」
「いいじゃないか、一人で暖まるより、二人で暖まる方がずっといい」
「ぬしの言葉は恐ろしい!われに何をしようとしている!」
荒げる声は全て雪に吸い込まれてしまう。
大谷は四肢を振り回すが、やはり家康は少しも怯むことなく、足どりも変わらない。
それでも、すでに灯りはじめた体の熱の心地よさを認めたくなくて、大谷は家康の部屋で火鉢と家康の板挟みにされる直前まで抵抗を続けるのだった。

尻切れ終わり。


thanks
title.曠世
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