I like your singing voice


「おまえさん友達おらんのか」
「…………んぐ、……」


昼休み、いつもの屋上の端っこでお弁当を食べていると何故か仁王先輩がやってきた。いつもテニス部は別の棟の屋上に集まってるはずなのになんで。

もぐもぐと口いっぱいに詰めたご飯を咀嚼しながら仁王先輩を見上げると、先輩は「なんじゃその顔」と笑いながら隣に座った。


「んぐ、っ、なん、してるん、ですか」
「こら、ちゃんと飲み込んでから喋りんしゃい」
「…………………………何してるんですか」
「もしかしたらと思って来てみたんじゃけど、本当におるとは思わんかった」


そう言いながら仁王先輩はゼリー状の飲料とパックのジュースを袋から取り出していた。もしかしてそれがお昼ご飯なのかな。というかやっぱりここに居座るつもりなのかな。なんで。


「おまえさんいつも一人で飯食ってんの?」
「う……見ての通りですけど……」
「可哀想じゃのう」
「からかいに来たなら帰ってくださいよ……」
「別にそういうつもりじゃなかよ」
「じゃあなんでわざわざ」
「昨日も言ったじゃろ、俺のことは置物だと思ってって」
「言ってましたけどそんなの無理ですよ」
「ああ、じゃから俺のことは空気だと思えるくらいに俺の存在に慣らさせようと思っての」
「は?」


この人実は頭悪いんじゃ、なんて失礼な考えが頭をよぎる。どうしてそこまでする必要があるんだろう。仁王先輩の貴重な時間を割いてまで聴く価値が私の歌にあるんだろうか。

いや、そんな価値無いだろう。私の歌は誰にも求められていなかった。オーディションで勝ち取った役も、中学生だから、最年少だから贔屓されてただけ。カラオケ大会だってそう。女優の癖にカラオケが上手いだけ、人に聴かせる歌じゃ無いと界隈では言われ続けていた。今思うと、嫉妬や妬みだったのかもしれない。けど当時の私には抱えきれなかった。

観客だって純粋に私の歌を聴きたがっている人はいなかった、みんな肩書きに相応しいかと品定めするような視線を私に向けていた。

私の歌は誰からも必要とされていなかった。


「っ………………」
「名字?どうした」
「あ………仁王先輩」


気がつくと仁王先輩が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。


「仁王先輩は……どうしてそこまでするんですか。私の歌を聴いてどうなるんですか……?」
「ん?んー純粋におまえさんの歌が聴きたいんじゃけど」
「私の歌にそんな価値ないですよ。仁王先輩の昼休みとか、放課後とか潰す価値ないです……」
「それはおまえさんが決める事じゃ無いじゃろ?聴きたいかどうかは俺が決める事で……俺はおまえさんの歌に惚れたんじゃよ」
「……………………は?」


本日二度目のは?である。


prev next

back
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -