雄英志望の二人


(ヒロアカ原作沿い。急にモチベが下がって更新ストップしてしまったものを供養させてください。主人公の名前固定)



事の始まりは中国軽慶市。
発光する赤子が生まれたというニュースだった。
以降各地で「超常」は発見され原因も判然としないまま時は流れる。

-いつしか「超常」は「日常」に「架空」は「現実」に。

世界総人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。
混乱渦巻く世の中でかつて誰もが空想した憧れた一つの職業が脚光を浴びていた。

「なあ聞いたか、C組の幽城夢子《ユウキユメコ》、雄英受けるらしいぜ」
「マジで!? 今年の偏差値79で毎度倍率もやべーんだろ!?」
「まあでも頭いいしな、学年首席だし……でもよ、あいつの個性ちょっとアレだよな」

超常に伴い爆発的に増加した犯罪件数、法の改正と共に公的職務に定められた“ヒーロー”という職業。彼らは活躍に応じて国から収入を、人々から名声を与えられる。

今の時代、志はどうであれヒーローになりたくない学生は殆ど居ないんじゃないかと思う。かくゆう私もそのヒーローになりたい学生の1人だ。


「あいつ自身もめちゃくちゃ不気味だしさ……お前アレ知ってる? 名部の悪夢」
「もちろん知ってる。正直、ヒーロー向きじゃねえよな、怖えし」
「雄英なんて無理だよなあ! 流石に夢見すぎじゃね?」

雄英高校《ユウエイコウコウ》ヒーロー科、そこはプロに必須の資格取得を目的とする養成校。全国同科中最も人気で最も難しくその倍率は例年300を超える。そんな雄英を受ける理由は、一番の近道になると思ったから。あと、私の憧れのヒーローが教師として在籍しているから。


「つーかこの会話も何処から聞かれてるか分かんねーぞ!」
「やば! 行こうぜ」

そう言いながらバタバタと早足で去っていく足音を背中に聞いて、私は小さく息を吐いた。


昼休みの終盤、中庭でお昼を食べていた私は教室に戻ろうと窓枠に足をかけた。丁度そのとき廊下からあの会話が聞こえてきて咄嗟にしゃがみ込んだ……というわけで。

個性使わなくたって全部聞こえてたし。軽くいじけモードに入りそうになっていたその時、

「何してんだ、そんなところで」

ふと頭上から声をかけられてそちらを見上げると、隣のクラスの心操が窓枠に肘を着いてこちらを見下ろしていた。よ、と言いながら手を振る心操とは去年まで同じクラスだった。

悲しいことに彼、心操人使《シンソウヒトシ》は私の唯一、友達と呼べる存在である。

「心操こそ何してんの?」
「幽城探してた。模試、A判定だったんだってな」
「……まあね」
「…………………………ふーん」
「興味あるのか無いのかどっちなのそれ」

自分から聞いてきたくせに興味ないですみたいな声で返事するのは何なのか。それに流石にほぼ直角に上を見上げたまま会話するのはしんどい。一旦前を向いてグリグリと首を回すと、心操は何故かその間に窓枠を越えて私の隣に腰を下ろしていた。

「え、もう授業始まるけど」
「授業受ける気分じゃない」

そう言う心操は膝を抱えながらどこか暗い顔をしていた。まあ元々暗い顔っちゃ暗い顔だけど、今はより一層。まあもしかしなくてもだけど思い当たる節がある。

「心操さ、さっきの聞いてた?」
「……ああ、聞こえた」

さっきの、というと廊下から聞こえた私の噂話のこと。やっぱり心操は聞いていたらしい。


「で、何で心操が落ち込んでんのさ?」
「いや、落ち込んでる訳じゃないよ。幽城が無理だったら俺なんかもっと無理だろってちょっとイラついた」
「あーそゆこと。でもちょっとなんだ」
「あんな奴らの言うこと気にしたら駄目だってあんたが言ってくれたんだろ?」
「確かに、そうだった」

入学してすぐだったと思う、自分の夢を話す授業があった。もちろんクラスの殆どがヒーローになりたいと話すので、自分の個性をどう活かしてヒーローになるか、まで話さないといけなくて。

今考えるとそんな授業ありえないなーと思うんだけど。


私の個性は『ゴースト』心操の個性は『洗脳』


どちらもクラスメイトからすれば気味の悪い個性だったらしい。私達はその日から距離を置かれるようになり挙句、ヒーロー向きじゃないとか悪さし放題とか言われる始末。その度にそんな奴らの言うこと気にしちゃダメだって言ってきた。

だって、心操の個性はめちゃくちゃ強いから。ヒーローになれるから。私はまあ根がネガティブだかああいうこと言われるといじけたりするけど、何言われたってヒーローになるという目標は変わらない。

だから、気にしちゃダメだって言い続けてきた。


「幽城のおかげだよ、俺が今こうやって前を向けてるのも」

 膝に埋めていた顔を上げてそういう心操は笑顔で。思わず胸が高鳴りそうになった。あぶねえ。

「あっ、てか心操も雄英受けるんだしサボリとかやばくない? 内心に響く」
「あ…………ああ……そうだよなあ」
「すんごいダルそう」
「いや、戻る、戻るよ」

そう言いながら渋々立ち上がった心操に続いて私も立ち上がった。窓枠を超えて降り立った廊下には生徒も先生も誰一人居なかった。……教室がある棟からは離れているが、めちゃくちゃ急げば間に合うと思う。うん。

「……競争する?」
「しない」
「ちぇ。あっ、待ってよー」

心操はそうキッパリ冷たく言い放つとスタスタと歩き始めた。切り替え早いなあ、と思いながら慌てて後を追うように教室に向かうのだった。



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