何よりも愛しくて


耳元にかかる吐息、首筋に触れる髪、腹部で交差する両腕。そして何より背中に感じる温もり。抱き締められてる、と理解するのに時間はかからなかった。DVDを見たり、たわいもない話をしたり、ごく普通の休日を過ごしていた。いきなり黙ったかと思うと思い掛けない行動を取った若。

すぐには頭が追いつかなかった。


「……名前さん」


後ろからがっちりホールドされ身動きが取れない状況。それを分かっていて、若はわざとらしく耳元で囁くように言葉を紡ぐものだから思わず身動いでしまう。


「っ、」
「耳、真っ赤ですよ」


誰のせいだ、と反論しようにもあまりの恥ずかさに声が出なかった。悔しいので若の手の甲を軽くつねる。と、同時に耳に生暖かい舌の感触がして、何をされたのかはすぐに分かった。


「ひゃっ……ちょ、わか、!」
「……お仕置きです」


と言って耳を甘噛みする若。思わず自分でも驚くほどマヌケな声が出てしまった。吐息と共に漏れる自分の声もダイレクトに脳内に響く。


「恥ずかし、んだけど、」


どうにか逃れようとするが、やはり身動きは取れず。


「可愛いですよ」


その言葉とともに私の頬に口付けた若。そしてそのまま私の首筋に顔を埋めた。さらに抱き締める力が強まる。


「名前さん……好きです」


そう言って若は首筋に顔を擦り寄せてくる。ぎゅっと、私を抱きしめて動かない若の両手に自分の手のひらを重ねた。


「私もだよ」
「……それじゃ分かりませんよ、?」


どうやら甘えたらしい若は拗ねたような声でそう言って、さらに顔を擦り寄せてきた。可愛い。思わず漏れそうになる笑みを堪え、両手は重ねたまま少しだけ、体をずらした。

それと同時に顔を上げる若と視線が交わる。若の瞳は少し潤んでいて、込み上げてくる愛しさを吐き出すように唇にキスをした。


「これで分かったでしょ?」
「えっ、と」


若は驚いたようにぱちぱちと瞬きをしている。


「好きだよ。若の事が大好き」


普段はこんなことあまり口にしないけど。


「……愛してますよ、俺は」


消え入りそうな声でそう言う若。顔を見ると恥ずかしいらしく、真っ赤になっている。そんな顔も素敵だと思う私はもう末期。どうしようもないくらい、若のことが好きなんだ。


end.



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