練習試合も全力で
(3/4)


「で、あんたはこんなところで何をやってるんだ?」


目の前で腕を組んで仁王立ちしている鬼、もとい日吉若が文字通り鬼の形相で此方を睨んでいる。

練習試合当日、今回は氷帝で行うと言う事でレギュラーのみを連れて東京までやってきた私たちは、まず初めに整列をして挨拶をしたわけだけれど。ダラダラと汗をかきながら目を逸らしていた事は全く意味をなさず、直ぐに腕を掴まれてこの状態になってしまった。ごめんね別に黙ってるつもりは無くて言うタイミングが無かっただけなの。なんて言い訳が通用すれば良いのに。


「何をって言うか……マネージャーする事になったって言うか……」
「は?」
「黙っててすみませんでした!」


一言の圧力に思わず頭を下げると若は呆れた様子でため息をついて「……別に、そんな気はしていたから良い」と言って近くにいた赤也くんのお尻を蹴って氷帝ベンチへの戻っていった。「俺だって鈴先輩がマネになったの知らなかったっつうの!!!!」と叫ぶ赤也くん。うん、本当にごめん。そう思いを込めて赤也くんに向かって手を合わせ頭を下げた。驚いていたみたいだけど満面の笑みで両手の親指を立ててグーサインを送ってくれている。





そんな可愛い赤也くんを見届けて私はドリンク類の準備をするべくテニスコートを離れて、氷帝のマネージャーに案内と設備の説明なんかをして貰いながら急いでドリンクを作ってるんだけど……


「植原さんて日吉と従兄弟なんですよね?近くで見ると結構似てますねー。今日会えるの楽しみにしてたんですよ、たまーに話聞きますけどあれは間違いなくシスコンです、あ、兄弟じゃないからシスコンとは言わないか」


氷帝のマネージャーが凄い喋る。

彼女の名前は櫻木愛乃といって、若と同じ一年生で中等部からマネージャーをやっているらしい。お嬢様のくせにガサツだし大雑把だしメンタル強くて仕事はできるしなんて褒めてるのか貶してるのか分からないようなこと言ってたけど何となくその意味がわかった。物凄く喋ってるのにそれ以上に仕事が早い。自分の分は早めに来て終わらせていたらしくてなんと立海の分まで手伝ってくれている。


「ごめんね手伝ってもらって。てか櫻木ちゃんめちゃくちゃ仕事早いね」
「そうですかね?まあ〜中等部からやってると流石に早くなっちゃいますね部員数が部員数だし。って植原さんもかなり早いですよマネージャー始めたの今年からなのに、凄い」
「参謀に仕込まれたからね。凄い厳しかった。全員分やってるわけじゃ無いよね?」
「まさか、個別でドリンクとかタオル用意するのは正、準レギュラーだけですよ。あとはキーパーに大量に作って使い捨てのコップ置いてって感じで」
「流石にそうだよねえ。でもなんか櫻木ちゃんなら出来そうだと思っちゃったわ」
「跡部さんにやれって言われたらやりますね」


キッパリとそう答えた櫻木ちゃんは、その後は作業が終わるまでずっと跡部さんのここが凄いここがかっこいいという話をしてくれていた。作業を終えてコートに戻るとまだアップの途中だったらしくて安心する。私も早めに来てやっておけばよかったんだけどそこまでしなくて良いって部長の言葉に甘えたのだ。


「遅くなってごめんなさい、ドリンク用意できたので持ってってくださーい」
「ありがとう鈴。ねえ、ちょっとあれを見てごらん」
「なに幸村くん」


ドリンクを詰めたカゴをそのままドン、とベンチに置くとアップを終えたみんなかそれぞれ感謝の言葉を口にしながら持っていく。幸村くんがあれ、と言った方は氷帝ベンチで不思議に思いながら見ると櫻木ちゃんがキラキラした笑顔でドリンクを配っていた。

なるほど。私にも手渡ししろよって言ってるのね?でもよく見て欲しい、あの笑顔が向けられてるの跡部さんだけだから跡部さん以外にはかなり雑だから。ある意味尊敬するなと思いながら幸村くんに視線を戻すと、彼は「良いなあ跡部愛されてるなあ跡部」なんて言いながらにこにこと爽やかな笑みを浮かべていた。

仕方なくカゴに残った幸村くんのドリンクを手に取って幸村くんに手渡した。満面の笑みで。


「幸村くんお疲れ様!練習試合頑張ってね応援してる!」
「何それ可愛いずるい」
「幸村くんがやれって言ったんでしょ」
「あー!!!!鈴先輩俺にもそれやってくださいっス!!」
「やだよ赤也くんは自分で持ってったじゃん……あれ?増えてる」


カゴを覗くと何故か最後に見たときよりボトルが増えていた。何でだと思いながら名前を確認していると横からサッ、と手が伸びてきてカゴにボトルが戻される。書かれた名前は"切原"。赤也くんは何事も無かったような顔をしていた。


「ちょっと」
「植原ー、俺も喉が渇いたぜよードリンクまだかー」
「俺も俺も、カラカラで死にそうだぜぃ」
「……」


ちゃっかり戻していたの仁王くんと丸井くんだったらしい。分かりましたよやりますよ何が嬉しいのか分かんないけど。


そして結局、悪ノリしたレギュラー陣全員に無駄にキラキラした笑顔を振りまいてドリンクを配る事になって真田くんあたりに止めて欲しかったけど何故か彼も悪い気はしないな何て言ってノリノリで乗っかって来ていた。これから試合だっていうのに呑気すぎる気がするけど、昔の殺伐とした空気よりは私は好きだった。

こんな事させたんだから勝たないと許さないけどね。



prev next

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -