練習試合も全力で
(2/4)


「あれ、なんでいるの?」


ドリンクの準備だけを終え買い出しの支度をするため部室に戻ると、何故か先程着替えてコートに向かったはずの仁王くんが制服姿に戻っていた。仁王くんは私の顔を見てへらと笑うと自分のラケットを掲げて見せてきて。あ、ガット切れてる。


「切れるほど真面目に練習してないんじゃがのう」
「うん、ちゃんと練習しようね?替えのラケットは?」
「まー、あるんじゃがどうせならお前さんと一緒に行って張り直してもらおうと思ってな」
「サボりだ!!」
「人聞き悪い事言いなさんな。さっさと行くぜよ」


そう言ってラケットバックを抱えた仁王くんは私の頭を軽く小突いて扉へと向かって行った。軽くだけど普通に痛いからね。





そんなこんなで二人で買い出し行くことになったのだけど、私が行く予定だったショップでは即日張り替え出来ないから結局電車に乗って隣町の大型店舗まで来ていた。張り替えを頼んでいる間に買い物を済ませて、それでも待ち時間があるということで併設のカフェで時間を潰すことになったのだけど。


「あっれ、もしかしてお姉さん一人?寂しくない?」
「俺らが一緒に座ってあげよっか、てかうわ、めちゃくちゃ可愛いね?」


仁王くんがラケットを受け取りに行って一人になった隙にめちゃくちゃ絡まれてます。

見たことのある制服は近隣でもあまり評判の良くない高校のもので、声をかけてきた二人は申し訳ないけどめちゃくちゃ柄が悪い。今の今まで仁王くんが座ってたのは見てなかったのか。てゆうかどう見ても二人分の飲み物が置いてあることに気がついて欲しいしその前になんでスポーツショップ併設のカフェに貴方達みたいな方がいらっしゃるんですかとそんな疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡っているうちに是、ととられたのか隣と向かい側に座ってこようとしていた。

ちょっと待って、すごい嫌だ。


「あの、別に一人じゃ」
「あれ?お兄さん達この子の知り合いっすか?」
「は?お前だ」
「あ、もしかして暇つぶし付き合ってくれてました?いやぁすみません、でももう用事終わったんで大丈夫っすよ!」


そう突然現れた青年がキラキラした笑顔で言い、男達を軽く押しのけて私の向かい側に座った。その様子に男たちは何だよ連れが居んのかよとぶつぶつと言いながら退散する。一瞬の出来事に唖然とするが目の前の青年は何事も無かったかのようにニコニコと笑っていた。


「まったく、今時ナンパなんてダセーすっね〜。大丈夫でした?」
「あ、うん、助かったありがとう……桃城くん」


目の前の青年、こと青学の桃城武くんは名前を呼ばれたことに不思議そうな顔をしている。それもそっか、対戦校のマネージャーの顔なんて覚えてないだろうしましてや全国大会のときは正式なマネージャーですら無かったからね。「どっかで会ったことありますっけ?」と言う桃城くんに軽く自己紹介をして立海のマネージャーをしていることを伝えるとなるほど、と頷いていた。


「桃城くんはどうしてこんなところに?」
「あ、桃でいいっすよ!それが聞いてくださいよ〜、練習中にガットが切れちまって、張り替えるのにここの店舗まで走って行ってこいなんて言うんすようちの先輩」
「えー、じゃあ桃くん?でいいかな。……ちょっとまって嘘でしょ走ってきたの!?」
「いや流石に時間内に帰りつけないんでチャリ飛ばしてきました!!」


そう言って桃城くん改め桃くんはハハハと軽く笑い飛ばしているが、往復でフルマラソン以上の距離を自転車漕いでくるのもなかなかしんどいと思う。凄いな。

桃城くんも張り替え待ちらしく、お茶を飲みながら暫くたわいもない話をしていた。不意にぽん、と頭に軽い衝撃を感じ振り返ると仁王くんが眉をひそめて立っていて。


「あ、仁王くんおかえり」
「うちのマネージャーをナンパするとは言い度胸じゃのう、桃城」
「いやいや違いますよ!?ねえ鈴さん!?」
「そうだよー、桃くんはナンパから助けてくれたんだよー」
「まじでナンパされてたんか……てか仲良くなりすぎじゃろ」


そう言ってため息を吐いた仁王くん。確かに、桃城くんのコミュケーション能力が高すぎて短時間とは思えないくらい仲良くなったかも。連絡先も交換したしね。「じゃあ仁王さんも帰って来た事だしそろそろ行きますね。また会いましょう!」インターハイで、と言って桃城くんは爽やかな笑顔で去っていった。その背中に軽く手を振る。助けてもらったし今度ちゃんとお礼しないと、と思いながら連絡先を登録しているとまたぽんと頭に手が乗せられて今度はぐしゃぐしゃと撫でられた。


「わっ、ちょっと何するの!」
「一人にして悪かったの」
「え……………………………え?体調悪い?」
「お前さんちょいちょい失礼じゃよな」


だって。仁王くんが優しいとびっくりしちゃうんだもの。


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