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「一度は死んだはずなのに目が覚めたらリトルガーデンにいて、猿に貰った果物が不味くて気を失ってたところをゾロが見つけたってことねぇ」
「うん、自分でもまだ信じられないんだけどね」


怪物に食べられそうな船でジャングルに次いで二度目の目覚めを経験した私は今、船内のラウンジらしき所で尋問(?)を受けていた。テーブルを挟んだ向かい側にオレンジ髪の女の子ことナミちゃんが座っていて、真横では麦わら帽子の船長が至近距離で私を見ている。後の長鼻くん、水色頭の可愛い子ちゃん黄色頭のコックさんは少し離れたところで様子を伺っていた。私を助けてくれたらしい緑頭のゾロくんは見当たらない。

自分の名前と置かれている状況を理解できている範囲で嘘偽りなく話すと、ナミちゃんはこの船が"海賊船"で自分たちが"東の海"からきた事、私が目を覚ましたのが"偉大なる航路"のリトルガーデンという島だという事を教えてくれた。

聞き慣れない単語、聞き慣れない地名、そして実際に自分が目にした…怪物。流石に自分が置かれている状況を察した。

ずずずと黄色頭のコックさんが作ってくれたスープを頂く。空腹に染みる温かさだ。


「うわっ、このスープめちゃくちゃ美味しい。コックさん天才?」
「ぅはっ君は天使か?こんなもので喜んでくれるならいくらでも作るさ!」
「いや呑気か」


長鼻くんがそのやりとりに突っ込みを入れる。呑気、というか……状況を理解すると逆に冷静になれた。

ここは私が生きていた世界とは別の世界なのだ。前の世界で死んで、どういう事かこの世界に転生した。

小さくため息を吐いて、改めて目の前のナミちゃん、そして室内の面々に目線を向けた。


「信じられないと思うんだけど……ここは私が前に生きていた世界とは違うみたいなの」
「違う世界、ってどういう事よ?」
「私が生きていた世界では海賊って言う言葉を聞く機会も無かったし、東の海とか偉大なる航路なんて存在しなかった。それに、あんな怪物も居ない」
「うーん、信じ難い話だけど……でも事実なのよね?嘘にしてはやけにリアルだしぃ」


ナミちゃんはテーブルに突っ伏して頭を抱えている。うん、自分でも信じられないんだからすぐに信じてもらえるとは思ってない。むしろあの何もない島から連れ出してもらっただけでありがたいと思ってる。


「なんか、こんな怪しい奴拾ってもらってごめんね。すぐに降りるから、近くの島まで乗せてもらってもいいかな?」
「でもユリちゃん行くとこねェんじゃ」


コックさんの言う通り行くあてなんて無いけれど、これ以上お世話になるわけにはいかない。


「大丈夫、何とかなるよ」


はは、と乾いた笑みを浮かべたその時。

バンッ、と隣で激しい音がしてそちらを見ると、麦わら帽子の少年が仁王立ちして私を睨みつけていた。

なんでか分からないがとても怒っている。


「え、なん」
「難しい話しはおれには分からねえけどなユリ!!行くところねェならずっとここに居ればいいじゃねェか!!おれたちはもう仲間だろ!!」


ドドン、という効果音がつきそうなくらいの勢いでそう言う麦わら帽子の少年に、私は驚いて開いた口が塞がらなかった。


「あの、私が言うのも何だけど……そんな簡単に仲間って決めちゃっていいの?」


恐る恐る尋ねると、彼は更に眉間の皺を深くしてこう言った。


「おれがいいって言ってんだからいいんだ!」
「でも他のみなさんの同意とか」
「……諦めなさいユリ。ルフィは一度決めたことは絶対譲らないから」


やれやれといった様子でため息を吐くナミちゃん。室内を見渡すと他の面々も同じ様子で苦笑いしている。なるほど、いつもこうやって船長さんに振り回されている感じなのか。


そっか……私、ここに居て良いんだ。


私は椅子から立ち上がり改めて麦わらの船長ことルフィくんに向き直り、勢いよく頭を下げた。


「じゃあお言葉に甘えて。よろしくお願いしますルフィくん」
「おう、よろしくなユリ!!」


そう言ってニカっ、と笑うルフィくんの笑顔がとても眩しい。彼は太陽みたいな人だなと思った。



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