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あれから何時間経っただろう。ようやく筋肉痛らしきものが収まって少しだが歩ける様になっていたのだが、その間に何度か火山が噴火した様な音と地鳴りがして、さらに何かがぶつかる様な激しい音が鳴り響いていたため私は完全にビビっていた。

それプラス極度の空腹で動けずはじめに倒れていた泉のそばを離れられないでいる状態だ。


「……ここでじっとしててもダメなのは分かってるんだよ?でもさあ怖いじゃん、普通に。何あの音、絶対人じゃ無いよね?何なのここ」


泉のそばで膝を三角に折り曲げて座り込む。誰に話すでもなくそう口にだすのはせめてもの紛らわしだ。


「…………はあ、お腹すいた。どっかに果物とか転がってないかな……バナナとか」


そんな都合のいい話あるわけないのは勿論分かってる。けど願わずにはいられなかった。だってめちゃくちゃお腹空いたんだもん。この状態で一番に空腹を感じている自分の神経の図太さにちょっと感心する。


「私このまま死ぬのかなあ。え、そんな人生で何回も死ぬ経験出来ないよね?全然嬉しく無いわ………ん?」


地面にのの字を書いていじけていたその時だった。直ぐ近くの茂みがガサガサと音を立てて揺れている。私は驚いてその場を飛び退き、何が出て来るのだろうかと身構えた。出てきた物によっては身構える意味なんて無いんだけどねーなんて頭の何処かで呑気な私が言っている。

野獣か人か、はたまた人では無いものか。ゴクリと唾を飲んだ私の目の前に飛び出してきたのは


「ウキッ!!」


両手の平で収まりそうな程小さなサルだった。何の種族かは分からないが間違いなくサルだ。しかし小さいと言ってもサルはサルだ。目が合ったら襲ってくると言う話を聞いたことがある。

…まあもう目はバッチリ合ってるんだけどね!


「……………こんにちは?」
「ウキッ」


恐る恐る声をかけてみると目の前の小猿は返事をする様に小さな声で鳴いた。何より全く襲って来る気配は無いしむしろ大人しくちょこんと座っている。なんなら何か言いたげな様子だ。いそいそと近づき、ちょこんと座る小猿に目線を合わせるように私もしゃがみ込む。


「キミ、1人なの?」
「ウキ」
「そっか、一緒だね。私に何か用?」
「ウキッウキウキッ!」


そう言って(鳴いて)尻尾を器用に使い背後から何かを取り出した小猿。

それは恐らく、果物だった。苺の様な形をした黄色い果物。恐らく、という理由としてはその見た目にある。通常苺にはないグルグルとした渦巻の様な模様があるのだ。


「……………………………くれるの?」
「ウキッ!」


スッと小猿は尻尾でその果物を渡して来る。怪しい、めちゃくちゃ怪しい。しかし私の空腹具合は既に限界を迎えそうになっていた。食べられそうなものを目の前にしてお腹の虫がグルグルと鳴り止まない。

どうせ死ぬなら一か八かかけてみる、か。くれると言ってるのだから有り難く頂戴する事にしよう。小猿からその果物を受け取り改めてまじまじと見ると、やはりめちゃくちゃ怪しい。禍々しいオーラすら感じる。

いや、もうウダウダ言ってられん。覚悟は決まった。


「じゃあ…………頂きます」


小猿にジッと見つめられながら、その果物を恐る恐る口に運ぶ。通常の苺よりかなり大きいが一口で食べれそうだ。パクリ、と口に含み咀嚼した途端、何とも言えない味が口中に広がった。


「ッッッ!!!!」


何これ、何これ、何これ。

マズいとかの話じゃない食べ物の味じゃないこの世の物とは思えないくらいマズい。吐き出したい欲に駆られるがせっかくくれた目の前の小猿に申し訳ない思いと、食べ物が勿体ない気持ちで必死で口を押さえる。噛まなきゃ。飲み込まなきゃ。ああ、涙が止まらない。段々目が霞んで身体の力も抜けていく。今の状態でこの味はあまりにも刺激が強かった。


「…………ウッキ」


薄れていく意識の中で、小猿が薄く笑った様な気がした。






ああ、もしかしてはめられた?



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