(2/16)


その日は、なんの変哲もない1日だった。朝起きて学校に行ってバイトを終えて家に帰る、なんの面白味もない1日のはずだった。

何が起きたのか理解する間も無く、冷たいコンクリートの感覚を頬に感じてようやく地面に倒れているのだと気がついた。徐々に遠のいていく意識の中で、ズキズキと鈍く痛む腹部を押さえる。どろりとした感触に自分の運命を悟った。

ああ......私このまま死ぬんだ。こんなところで。こんな奴に刺されて。

霞んだ目で見上げるとそこには眩しいくらいに輝く丸い月と、それに照らされ赤く光る刃物を掲げた、見覚えのある男が立っていた。バイト先の常連でしつこいくらい私に声をかけてきた男で、最終的に店長判断で出入り禁止にされた男。

半年以上前のことだったから......諦めたと思ってたのに、甘かったなあ。


「ユリさん......ユリさん、あの男に俺たちの仲引き裂かれて寂しかったよね苦しかったよね.....これからはずっと一緒だよユリさん......」


男はそう言って刃物を自分の首に突き付けている。ああやだなあ、こんな意味の分からない虚言野郎と心中なんて。死ぬなら一人で死んでよ本当に迷惑。なんで私がこんな目に遭わないといけないんだろう。

21年間生きてきて、たしかに誰かに褒め称えられるようなことをしてきたわけではないが、かと言って誰かに恨まれるようなことをしてきた覚えもない。とにかくこんな目に遭わなきゃいけない理由は無いはずなのに。


「......来世では一緒に幸せになろうねユリさん」



来世なんてものがあるのならば......そして運良く同じ世界に産まれたとしたならば

絶対にこの男だけは許さない。







そう心に決めた。



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