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「小僧よくもこのおれに無礼の数々をはたらいてくれたな!!!!隣のゴリ……ゴリラ!?なんでこんなところにゴリラが居やがるんだ」
「あんたらには関係ないし急いでるんだけど……邪魔だし」
「ゴリラじゃねェユリだ。どけよ」


私は今とても虫の居所が悪い。それは多分、ボロボロになったサンジくんを抱えたルフィくんも同じだと思う。ルフィくんが雪に埋もれたサンジくんを見つけたときには既に彼は全身ボロボロになって気を失っていた。

来た道を戻ってしまった分急いで山を登らないといけない、そう思っていた矢先にこれだ。あの偉そうな喋り口の口でかオッさんは知らない顔だけど多分ルフィくんが吹っ飛ばしたってやつだろう。後の二人は見覚えのある、船にいた変なやつらだ。

本当に急いでいるから退いて欲しい。「……行こうルフィくん」と無視して先に進もうとするが変な3人組は後ろでギャアギャアと何かを言っていて、病人とケガ人から殺すなんて言っているのが聞こえてきたかと思うと、すぐに奴らは攻撃を仕掛けてきた。


「このッ……おいユリ、サンジのこと頼めるか」
「、うん、ルフィくんは」
「先に行ってろ。こいつらブッ飛ばしたら追いかける」
「……分かった。気をつけて」


ユリもな、と言うルフィくんからサンジくんを預かり腕に抱える。もう一度ルフィくんに目配せして私はあの一番大きな山に向かって走った。獣型とはいえ、激しい吹雪の中二人を抱えて走るのはなかなか厳しいものがあった。それでも二人の方が辛いんだからと自分に言い聞かせて一歩一歩進んでいく。

そうして暫く進んだ頃に吹雪に紛れて名前を呼ぶ声が聞こえて。


「ユリーーー!!」
「ルフィくん!!早かったね、ケガは無い?」
「ああ、ウサギが助けてくれた」


見たところ外傷もなく帰ってきたルフィくんはそう言って私からサンジくんを受け取り背負った。どうやらデカうさぎは雪に埋まっていたのを助けたお礼にルフィくんを庇ったらしい。理性も知性も無さそうなのに、と思ったのはここだけの話だ。


一層激しくなる吹雪の中を進んでいくとようやく山の麓が見えてきて、目的地が近づいてきた安堵感に張り詰めていた気持ちが少しだけ和らいだ。とは言ったものの、実際はここからが本番と言っても過言ではない。


「…………うえ……みえないね……」
「ああ……」


山頂を見上げてもそこはただ白く覆われているだけで城を確認することは出来なかった。どれだけ高いのかも分からない。本当に登れるんだろうか。いや、登らないといけないんだ。


「ナミ……ごめんね、もうちょっと我慢してね」
「……大丈夫か、ユリ?」
「うん……大丈夫。やるしかないもん……」


寒さで殆ど感覚のない両手をグッ、と握りしめる。私は"大猩々"だ。こんな山登れないでどうする。何のための能力だ。「いくぞ」と言って山に手をかけたルフィくんの横に並んで私も手をかけた。殆ど突起もない山の側面がこれから先の過酷さを物語っている。

大丈夫、行ける。そう自分に言い聞かせて見えない頂上を目指して山を登り始めた。




ひたすら無心で山を登り続けてどれくらいの時間が経っただろう。完全に感覚の無くなった両手には血が滲んでいて、力が入っているのかすらもう分からない。医者、医者とうわごとのように口にしながら登るルフィくんもそれは同じだろう。

限界だった。少しでも気を抜くと意識が飛びそうだった。だけど私だけの命ではないということが意識を引き留めていた。ナミの、そして船のみんなの命がかかってるんだ、と何度も自分に言い聞かせて登り続けた。

そうしてついに山頂へと辿り着いた。目前に佇む大きな城に目を奪われる。


「ついた…………」
「きれいな城だな……」
「うん……とっても……」


このお城にドクター、医者がいる。ようやくナミを診てもらえる。良かった。安心したら力が抜けたのか私は意志に反してぱたりと雪に倒れ込んでいた。ぐん、と体が縮み獣型が解けていく。

早く中に連れて行かないと。そう頭では考えているのに全く体が動かなくなっていた。


「、……ナミを………」


ぐらり、と体が揺れた感覚にいよいよまずいなと思いながら城に向かって手を伸ばす。薄れていく意識の片隅でその手が暖かい何かに包まれたのを感じた。



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