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「申し遅れたが……私の名はドルトンこの島の護衛をしている。我々の手荒な歓迎を許してくれ」


島の代表さんらしき人、もといドルトンさんに連れられてビッグホーンという村のドルトンさんのお家にお邪魔していた私たち。借りたベッドにナミを寝かせるが相変わらず辛そうに汗を滲ませている。「これ以上上がると死んでしまうぞ」と体温計を見たドルトンさんの言う通りどんどんと熱は上がる一方だった。


「ええ、だけど病気の原因も対処法も私達にはわからなくて」
「何でもいいから医者が要るんだその"魔女"ってのはどこにいんだよ」
「"魔女"か……窓の外に山が見えるだろう?」
「ああ、船からも見えてました。あのやけに高い……ん?」


ドルトンさんが言っている山を見ようと窓に視線を移すと、山の代わりに窓枠いっぱいに不気味な顔が映った。外でルフィくんとウソップが雪遊びをしているらしい。何してんの、私も雪だるま作りたいんだけど。なんて思っていたのが口に出てたらしくサンジくんが聞き間違いかな?なんて言うから気のせいだよと返しておいた。


ドルトンさん曰く、あの山々はドラムロッキーといって真ん中の一番高い山の頂上にある城に"魔女"は住んでいるらしい。人々が"魔女"と呼ぶその人こそが国唯一の医者、"Dr.くれは"だとか。

すぐに呼んでくれとサンジくんが言ったけどどうやら連絡手段が無いらしく、病気やケガの人はその魔女の気まぐれで処置されるらしい。

次に山を降りてくる日をここで待つしか無い、とドルトンさんは言った。

けど正直、いつ降りてくるか分からないのに待ってる時間は無い。それだったら……と自分がドクターを呼んで来る事を提案しようとしたちょうどその時、ぺちぺちと頬を叩いてナミを起こしたルフィくんが「あのな山登んねェと医者いねェんだ。山登るぞ」と言い始めた。


「無茶言うなお前ナミさんに何さす気だァ!!」
「いいよおぶってくから」
「それでも悪化するに決まってるわ!」
「そうだよ負担が大きすぎる……私が登ってドクターを呼んで来るから!」
「ユリまで変なこと言い出すんじゃねェよ!!」
「何だよはやく診せた方がいいだろ」


ルフィくんの言うことは正しいというか的を得ていて、ドクターを呼んで来るより連れて行った方がはやいのは確かで。落ちたらどうするんだ、大丈夫だという言い争いがしばらく続いたのだが、結局ナミは山を登る事を選んだ。

絶対気を使ってる。けど笑顔でルフィくんとハイタッチしているナミを見るとそれ以上は何も言えなかった。




「ユリちゃんは本気で登るつもりなのか?」
「うん、私がナミ抱えた方が良いでしょ、フサフサだし」


結局、ルフィくんサンジくんと私でナミを連れてドクターの居る山に登ることになった。誰が行くのかという話しの段階でドルトンさんには凄く心配されたけど「ゴリラだから」と言うと疑問の残ったような顔で頷いていた。

私がナミをおぶって落ちないようにしっかりと括ってもらって、流石に上陸時に警戒されていた手前、村を出て暫くしてから獣型になって二人の後を走っていた。


「ちょっと寒くなってきたな……風が出てきた。その毛皮くれよユリ」
「やだよ私だって寒い生息地ジャングルなんだからね」
「つーか何で素足なんだよ見てるこっちが痛ェだろ」
「これはおれのポリスーだ」
「ポリスーってなんだよポリシーだろ」


雪に足を取られながらも話をしながら走る余裕はあるらしい二人はさっきからピョンピョンと飛んでくるウサギを軽く避けている。痺れを切らしたサンジくんがウサギを蹴飛ばしたりしていたけど、二人が前にいるお陰で私の所には飛んでこないから安心だと思ってた。

突然ピタリと姿を消したウサギを不思議に思っていると、暫く走った前方に大きいウサギ……いや熊?が何頭もズラリと並んで立っていて。


「もしかしてあれがドルトンさんが言ってたウサギちゃんかな」
「ユリちゃん、あれはウサギちゃんなんて可愛いもんじゃねェよ」
「白くてデケェから白熊だよ間違いねェ!!」


襲ってくるウサギたちを撒くために、それを蹴散らしながら森に入る二人。

私はナミに振動を与えないようについて行く事に必死で、気がつくと何故かウサギ達は私たちより上の方でぴょんぴょんと跳ね地面を揺らしていた。

まさか、嘘でしょ。慌てて何やってんだと首を傾げる二人の肩を叩く。


「ちょ、ちょちょちょ逃げよ!今すぐ逃げよ!」
「おいユリどうしたんだよ」
「あいつらとんでもないことしてる……雪崩が来る!!」


そう、一見意味不明な行動に思えるかもしれないが、知能も高いらしいウサギ達は雪崩を起こして私達を纏めて押し退けるつもりらしかった。ゴゴゴゴゴと言う激しい轟音と地響きが島中を包み込む。

雪崩に逆らうとしたら折角ここまで来た苦労が台無しになってしまう。咄嗟に見つけた崖に登るが、高さが足りず投げ出されてしまった。どうしよう、と思っているとルフィくんに捕まれ折れた木に乗せられさながらソリのごとくスルスルと山を下っていった。


「って、下ったらダメじゃん!せっかくここまで来たのに!」
「やべェッルフィ前みろ前!!!!」
「うわっ岩!!ぶつかる!!ユリ、おれに捕まれ!!」
「ちょっ、ルフィくん危ない!折れた木がッ」
「ったく、レディはソフトに扱うもんだぜ」
「え、」


次の瞬間、何をされたのか理解するよりも先にナミを背負った私を抱えたルフィくんごと宙に放り出されていた。目下には今まで乗っていた木と共に雪崩に飲み込まれて行く黄色い髪が見えた。

飛び出た岩に着地した私たちはほぼ同時に彼の名を叫んだ。しかしサンジくんは雪に沈んでいく一方で、ルフィくんが腕を掴むが掴んだそれはサンジくんの手袋だけだった。


「っ、どうしようルフィくんサンジくんが、助けないと」
「ナミ……寒いか!?もうちょっと我慢しろよ。ユリ、これ持ってここでちょっと待ってろ」


そう言ってルフィくんはトレードマークの麦わら帽子を預けて、まだ流れの止まない雪崩の中に飛び込んでいった。



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