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「島があったぞーっ!!」
甲板からウソップが叫ぶ声が聞こえた。ナミに付き添っていた私は隣にいるルフィくんと顔を見合わせる。
「島かァ!?」
「うん、島だって!!」
「おいナミ!良かったな!島だってよ!病気治るぞ!」
カタカタと震えながら寝ているナミに向かって言うルフィくんはどうも興奮が抑えきれないようで完全に冒険したいなーって顔をしている。
かく言う私も初めての島(リトルガーデンは例外とさせてください)にわくわくしてしまってるんだけど。勿論、ナミを診て貰えるかもしれない安堵の方が強いけどね。
「……みて来いよいいから」
様子を見かねたのか、ゾロがそう言ってくれたのでありがたくルフィくんと二人外に出させてもらうことにした。そして甲板に出て目に写ったのはまだ遠くはあるが白い、おそらく雪が降り積もっているのであろう島だった。
「凄い凄いっ……本当に島が見える!」
「ユリはなんだかんだ上陸すんのは初めてだもんなァ」
「はしゃいでるユリちゃんも可愛いなァ天使みてェだ」
思わず身を乗り出して叫ぶとウソップとサンジくんが後ろでそう言っているのが聞こえた。自分でもまさかここまで心躍るとは思ってなかった。うん、天使では無いけどね。
「白いな!雪か、雪島か!」
「絶対そうだよルフィくん」
「あー、ユリちゃんは天使だから良いんだが……ルフィ!!今回は冒険してるヒマはねェんだぞ。医者を探しに寄るんだ、ナミさんを診てもらったらすぐにでるぞ」
ぎくり。ルフィくんに向けられた言葉だと分かっていても凄く耳が痛い。はしゃいでてすみません、勿論目的は分かってます。
そうこう言っているうちに島はどんどん近くなり、上陸の準備をするようにとビビが声をかけていた。私はルフィくんが雪を見て感動していた声を聞きながら、ナミを連れて行く準備をするために船内に戻った。
準備を終えて再び甲板に出ると、真っ先に目に入ってきたものはずらりと岸に並び銃を構えている大勢の人の姿だった。残念ながら銃口は私たちに向けられていて歓迎されていないことは一目瞭然だった。
島民達が叫んでいるのを聞きながらそっと一番近くにいたゾロの横に立つ。
「ここは我々の国だ!!海賊など上陸させてたまるか!!」
「さァすぐに錨を上げて出てゆけ!!!さもなくばその船ごと吹き飛ばすぞ!!」
その言葉に私はぎゅ、と口を噤んだ。
実際に明確な敵意を向けられて海賊というものの立場を初めて思い知らされた。この世界の住民からしたら海賊は悪でしか無いんだと実感した。
でも、この島で必ずナミを診てもらわないといけない事に変わりはない。そう、必ず、絶対にだ。
「おーおー…酷く嫌われてんなァ…初対面だってのに」
何気なく呟いたこのサンジくんの言葉を聞き取ったのか聞き取れなかったのか。
銃声が鳴り響きサンジくんの足元に銃弾が掠る。
「やりやがったな………てめェ!!!」
「待ってサンジさん!!」
「サンジくんダメ!!」
反撃しようとするサンジくんを止めようとした。しかし私よりも早く止めに入ったビビに抑えられているのを目にした次の瞬間。再び銃声がして、それとほぼ同時にビビが目の前で倒れた。一瞬何が起こったのか分からなかった。
慌てて駆け寄り撃たれた箇所を確認すると、どうやら腕に掠ったらしい。かなり痛いだろうに、大丈夫と目配せしたビビは怒号を放ち今にも暴れ出そうとしているルフィくんにしがみついた。
その様子に我にかえり、近くで武器を構えているゾロとウソップの腕を掴んでグッ、と力ずくで二人を抑え込む。
「何すんだよユリっ!!」
「止めんな、あいつらが撃ってきたんだぞ」
「分かってる、分かってるけど戦ったら駄目なの!」
「ユリさんの言う通りよ戦えば良いってもんじゃないわ。傷なら平気腕をかすっただけだから」
そう、ここで戦ってしまえばナミは診てもらえなくなってしまう。診てもらえなければ……死んでしまうかもしれない。
私はぐっと唇を噛んで二人の腕を再度掴み直した。
「……お願いすればわかってくれるはずだよ」
「お前……」
怖くないわけじゃない。生まれてこの方銃を見たこともましてや向けられたことなんてさらさら無いのだから。多分二人を掴む自分の手は震えていたと思う。
それでも私は一歩を踏み出して、ルフィくんとビビの側に立ち、そして膝をついて頭を下げた。
「……仲間が数日前から原因不明の高熱を出しています。不甲斐ない私の力ではどうすることもできず……このままだと数日もせずに仲間は命を落としてしまいます。お願いします」
私が頭を下げたのとほぼ同時にすぐ側で何かがぶつかる音がして、青い髪が床に流れているのが横目に映った。ビビだ。
「だったら上陸はしませんから……医師を呼んで頂けませんか!!仲間が病気で苦しんでます助けてください!!……あなたは船長失格よルフィ。無茶をすれば全てが片づくとは限らない…この喧嘩を買ったらナミさんはどうなるの…?」
「…………ルフィくん、おねがい」
「ビビ、ユリ…………うん、ごめん俺間違ってた」
そんなルフィくんの声が聞こえた直後、ゴツンという激しい音が辺りに響き渡った。横目ではビビ越しでよく見えないがルフィくんが床に頭をぶつけたんだと思う。
「医者を呼んでください。仲間を助けてください」
ルフィくんが懇願ししばしの沈黙が流れ、
「村へ案内しよう。ついてきたまえ」
そう答える声が頭上から聞こえた。安心して力が抜け、頭をつけたまま腕を前に投げ出した。
「よかった…………怖かった………」
「ね、分かってくれた。ユリさんのおかげね」
「うん、お前らすげェな」
「私は何も、ビビが………あ、腕!」
ガバッと起き上がりビビの腕にそっと触れると当たり前といえばそうだが掠った箇所から出血していた。
村に向かう前に手当てしなきゃ。
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