(12/16)
船は南へ、医者を探して約1日。未だにナミの熱は下がらない。
「ユリちゃん……ナミさん大丈夫かなし、死んだりしねえよな!?」
おろおろとナミが寝ているベッドの周りを徘徊しているサンジくんがそう言っているが、私はその問いに答えることが出来ず唇を噛んだ。体温で直ぐに蒸発してしまうタオルを濡らして再び額に乗せる。
「…………とにかく、早く医者に診せないと」
「私が代わるからユリさんは少し休んで?ユリさんまで倒れたら大変よ」
「ビビ……そうだね、ちょっと外の風にでも当たってくる」
「外は雪だぜユリちゃん。暖かいココアを淹れるよ」
「ありがとうサンジくん」
確かにあれからずっと付きっきりで看病していたから、塞ぎ込んでしまっていた部分があったかもしれない。ビビの言葉に甘えて少し休ませてもらうことにした。
立ち上がり甲板に出ようとしたその時。
ドオオオオオオオオオオオオン!!
激しい音とともにグラグラと立っていられないほどの揺れが船を襲い、とっさに目の前にあったドアノブにしがみつく。叫びが聞こえ後ろを振り返ると、ナミが寝ているベットまでもが宙に浮いていてサンジくんがそれを押さえていた。
しばらくすると揺れは収まり、室内はシーンと静まり返った。
「ちょっと私様子見てくる」
「いや、俺が行くよ。ユリちゃんとビビちゃんはここ頼む」
そう言って階段を登って甲板に向かったサンジくん。自然とビビと目が合った。
「……座礁、とかじゃないよね?」
「…………有り得なくもないわ」
そんなまさか、とゴクリと唾を飲んだ次の瞬間。ドドドド、と弾けるような音が立て続けに鳴り始めた。冷や汗がたらりとこめかみを伝う。
いやいや、そんなまさか。
「銃声!?ユリさん私様子見てくるからここお願い!カルー、2人のことよろしくね!!」
「ちょっ、ビビ!?」
そう言ってビビは慌てて階段を登って行ってしまった。
え、銃声ってことは敵襲とかそんな感じじゃないのだろうか。ビビは流石に肝が据わりすぎじゃないのか……とは思うが、私もこの船の一員になったんだからびびってる場合じゃない。
「やっぱり私も行ってくるよ」
「グェッ!?」
ブンブンと首を横に振るカルー。ちょっと前まで一般人だったからね、心配してくれてるんだよね。
「大丈夫、邪魔になりそうだなと思ったらすぐ戻ってくるから。リリー、ナミのことちゃんとみててね」
ナミの枕元にちょこんと座った小猿は小さく鳴いて一丁前に腕を組んでいる。任せとけ、と言うことらしい。再度お願いねと言ってビビの後を追った。
* * *
「おいマズいぞ!ワポル様がごぶっ飛びあそばされた!!」
「なーーーんということだワポル様はおカナヅチであらせられるというのに!!」
「こうなってはワポル様がお沈みあそばされる前にご救出してさしあげなければお死にたてまつっちまうぜ!!」
甲板に出ると王冠を被ったカバ?らしきものが付いた船が目前にどーんと大きくかまえていた。その船に乗っているめちゃくちゃ奇妙な二人組が何か叫んでいる。
「貴様ら覚えていろ!!必ず報復してやる!!」
「リメンバー・アス!!」
「覚えていろーーーーーーー!!」
などど騒がしく遠ざかっていく船を唖然と見つめた。
「……なにあれ?」
「ただのバカだ」
「そっか、ただのバカか」
近くにいたゾロが刀を収めながらそう言うものだから私も納得して頷いてしまった。いやいや、なんか船ボロボロなんですけど。只事ではない何かが起きた形跡なんですけど。
辺りを見渡すと、船の状態の割には皆元気そうで銃声が聞こえたはずなのに怪我すらしていないみたいだ。
「ユリちゃん!!」
くるくると回りながら私の元にやってきたサンジくん。
「あのアホどものせいでココア後回しになっちまったぜ……すぐに淹れてくるから待っててねマイスイートエンジェル!!」
私の手を取り、手の甲に口付けをするフリをした。そしてまたくるくると回りながら船内に消えて行った。
「なにあれ」
「アホだろ」
「ゾロ酷い」
……実は私もちょっとだけアホだなーと思ったのは内緒にしておこう。サンジくん、優しいんだけどちょっと女に弱すぎだよね。
「で、結局何があったの?船ボロボロだし」
「食われたんだよ悪魔の実能力者に!!ったく誰が直すと思ってんだよ」
仁王立ちして明らかに怒っているウソップが言う。え、能力者って船も食べれるの?
「ユリさんごめんなさい、慌てて飛び出してきちゃった」
頭にはてなを浮かべていると、いつのまにかビビが隣にいて申し訳なさそうにそう言ってきた。全然謝らないで良いのに、私なんか二匹に任せてきちゃったからね。
「ううん、私もカルーとリリーに任せて来たし……慌てて来ちゃったけどなんかみんな怪我すらしてないんだけど」
「本当、無事で良かった。じゃあ私はナミさんのところに戻るから、ユリさんは休んでてね」
そう言ってビビは船内に戻った。気のせいかもしれないが、どこか浮かない顔をしていた気がした。
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