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ナミが熱を出した。


「ユリさん、ナミさんの容体は……やっぱり気候のせいかしら」
「んー……」


冷水で冷やしたタオルを絞ってナミの額に乗せる。浅く息を吐くナミはかなり苦しそうで、手元の体温計は40度を指していた。

ビビの言う通り気候の変化による発病だとしても、ここまで急激に熱が上がるとは考えにくい。もちろんただの風邪だとは思えない。あんまり考えたくないけど、毒性の何かが原因だった場合下手に薬を服用してしまうわけにもいかない。


「ごめん、私は医者ではないから診断はできないんだけど……この様子からしてただの病気じゃないんだと思う。もしかしたら、毒性の何かかもしれないから下手な治療は出来ないし……」
「毒!?」


今の段階で、私に出来ることは何もなかった。不甲斐ない。こんな時に何もできなくて何のために医療の勉強してたんだろう。


「でも肉食えば治るよ病気は!!なァサンジ!!」
「そりゃ基本的な病人食は作るつもりだが……あくまで看護の領域だよ。それで治るとは限らねェ」
「アラバスタへ着けば当然医者はいるだろ?あとどれくらいかかるんだビビ」
「…………わからないけど一週間では無理……!!」


膝をついて項垂れるビビ。私はジッとナミの顔を見つめた。直感だけど……多分、一週間は持たない。


「病気ってそんなにつらいのか?」
「「いやそれはかかったことねェし」」
「あなた達一体何者なの!?」


全くビビの言う通りである。きみたち本当に人間?


「つらいに決まってるじゃない……40度の高熱なんてそうそう出るもんじゃないわ」
「うん…………もし、このまま熱が下がらなかったら命が危ない」


そう言うと悲鳴をあげてバタバタと騒ぎ始めた男性陣3名+1匹(カルー)。


「ナミは死ぬのかァ!?」
「ダビダンジラバイベー!!(ナミさん死なないで)」
「ああああああ!!ユリ何とかしてくれよオオオオ!!」
「ちょっと、うろたえないで静かにして病体にひびく。もちろん私だって何とかしてあげたいけど!!」
「よし、医者を探すぞナミを助けてもらおう!」


何とかしてあげたい、もちろん今すぐ医者を探して助けてあげたい。でも、ナミがそれを望まない事を私は知っていた。


「……だめよ」


小さな声で呟いて、起きあがろうとするナミを咄嗟に支える。


「っ、ナミ、寝てないと」
「ユリ……あの新聞をビビに」
「…………………………………わかった」


渋々頷いて、ナミのデスクから新聞を取り出した。その新聞は3日前のものだったが、ビビにとってはショックの大きいものだからとナミは隠していたのだ。


「そんなバカな……国王軍の兵士30万人が反乱軍に寝返った……!?元々は国王軍60万反乱軍40万の鎮圧戦だったのに、これじゃ一気に形勢が……」
「これでアラバスタの暴動はいよいよ本格化するわ……ごめんね、あんたに見せても船の速度は変わらないから不安にさせるよりと思って隠しといたの……わかった?ルフィ」
「………大変そうな印象をうけた!」
「思った以上に伝わっててよかったわ」


ナミはこのままアラバスタに向かうつもりでいる。でもそうしたら本当に命に関わるかもしれない。けどビビの気持ちも分かる。一刻も早くアラバスタに向かいたいはず。


「でもお前医者に診て貰わねェと」
「平気。その体温計壊れてんのね……きっと日射病か何かよ。医者になんかかかんなくても勝手に治るわ」


そう言ってナミはベッドから降りようとしている。そんなナミの手を私はぎゅ、と握った。


「……ナミ、自分の身体のことは自分自身が1番分かってるはずだよ」
「……とにかく今は予定通り…真っ直ぐアラバスタを目指しましょ…………心配してくれてありがとう」
「おう。なんだ治ったのか」
「……バカ強がりだ」


そう、強がりだ。握ったナミの手は火傷しそうなほど熱かった。



* * *



「みんなにお願いがあるの」


ふらふらになりながら指示をだすナミの言う通りに船を動かしていた私たちに、そう声をかけたビビ。みんな一斉にそちらを見上げた。


「船にのせておいてもらってこんなこと言うのも何だけど、今私の国は大変な事態に陥っていてとにかく先を急ぎたい。一刻の猶予も許されない。だから、これからこの船を"最高速度"でアラバスタ王国へ進めて欲しいの!!」


息を呑む。ああ、それじゃあ。


「……当然よ、約束したじゃない」


ナミは。


「……だったらすぐに医者のいる島を探しましょう。一刻も早くナミさんの病気を治して、そしてアラバスタへ!!それがこの船の"最高速度"でしょう!?」


その言葉を聞いて、私は気がついたときには駆け出していて、思い切りビビに抱きついていた。


「ビビありがとう……あなためちゃくちゃかっこいいよっ」
「ユリさんっ」
「……ああ、そうさ、それ以上スピードは出ねェ!!」
「いいのか?お前は王女として国民100万人の心配をすべきだろ」
「そうよ!だからはやくナミさんの病気を治さなきゃ」


本当に何てかっこいい王女なんだこの子は。


「……ごめんなさい気を遣わせて、無理しないでナミさん」
「……悪い……ビビ……ユリ、やっぱ私……ちょっとやばいみたい……」
「ナミッ!」

ふらつくナミを慌てて支えた。その時。


「な、なんだありゃああああああああああああ!!」


突如船の後方に大きな大きな竜巻、サイクロンが現れた。それもその方角はさっきまでこの船が向かっていた方角で、真っ直ぐ進んでいたら、……ナミの指示が無かったら間違いなく直撃だった。


ゴクリと唾を飲む。

やっぱり、ナミの病気を治すことがこの船の"最高速度"だと確信した。



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