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わたしは現在、例のオラジラという海軍支部もないような小さな小さな島の食堂にいる。
『海軍が来たことがバレると島民を盾にするような姑息な連中じゃからな。小舟で行ってちゃちゃっと取っ捕まえてこい。近くの島に護送用の軍艦を用意しとくから終わったら連絡せい』
とだけ言われて一人でこの島に送り込まれた。本部から船で3日ほどでこの島に着いたのだが、驚いたことに島の様子は海賊に支配されてるとは思えないようなものだった。
いたって普通の、のどかな島。
ここが本当に目的の島なのか不安に思ったわたしは旅人を装って「ここはどこですか〜?」と聞いてみたが、町人は「ここはオラジラ島、何もない平和でのどかな島さ」と笑顔で答えたのだ。
おかしな話だ。海賊に支配されているはずの島の町人がそんな答えを言うはずがない。
「しっかしお嬢さん、どうしてこんな何もない島に一人で ?」
パスタをずるずると頬張りながらそんな事を考えていたわたしに、食堂の店主であるおじさんが不思議そうな顔で尋ねてきた。このおじさんも、客人は珍しいと笑顔でわたしを迎えてくれたのだ。
どうしてこんな所に、と聞かれた時の答えは用意している。
「じつはわたし旅をしているものなのですが、この島の近海で食料が底をついてしまいまして……運良くこの島に上陸する事が出来たので良かったんですけどね。あはは、情けない話です」
「そうかそうか、それは大変だったな!どうだ、パスタのお代わりはいるか?」
「はい、頂きます!」
店主はガハハハと大口を開けて笑いながらわたしの皿にパスタを盛り付けてくれた。わあ!と両手を上げて喜ぶわたし。あくまでも、普通のいたいけな少女らしく振舞う。
何も仕事をサボって呑気にパスタを食べているわけでは無い。島唯一というこの食堂なら何か情報が掴めるかもしれないと思ったからだ。だから決してサボっているわけでは無いのだ。
現に目の前のニコニコとしていた店主はそんな呑気なわたしの様子を見てほんの少しだけ表情を曇らせている。
「ステキな島ですねここは、のどかで島の人たちもいい人ばかり。食糧を調達したら直ぐに旅たつつもりだったけど……少し滞在していこうかな」
探りを入れるようにそう言いながら笑いかけると店主はピクリ、と眉をうごかした。
きた。
「ああそうかいそれは良かった!しかしまあお嬢さん、あまり長居はオススメしないぜ」
「どうして?」
「んー、そうだなあ……まあ上辺だけ見てちゃいけねえってことさ」
店主はそれ以上は何も言わなかった。何も言わず、ガハハハとまた最初の笑顔でわたしのグラスに水を注ぐ。
今の店主の反応でこの島に“裏の顔”がある事は確かになったと言えるだろう。しかしそれだけじゃ動くことができない。もっと確実な情報が欲しいところだ。
「おじさん、それどういう意味?」
ニコリ、と笑ってわたしは店主を見つめる。店主は一瞬驚いたように目を丸めたがすぐにいやぁ、と困ったように眉をかいた。
その時だった。
-カランコロン
店の入り口、カウンターに座るわたしの背後から来客を知らせる鐘が鳴り、おお、またお客さんかと小さく声を上げて店主がそちらに視線を向けた。わたしも振り向いておじさんの視線を追う、と。
わたしは眼を疑った。
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