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さっさと用意してこい!と有無を言わさずじいちゃんの部屋(ガープ中将の執務室)をつまみ出された後、わたしはとぼとぼと本部の廊下を歩いていた。これから一度家に戻って着替えや必要なものを用意しないといけない。


「本当信じらんない……」


孫が可愛く無いのか。いや……あの人は昔からそうだ。自分で言うのもなんだが普段はわたしの事を溺愛してるくせに戦いのことになるとめちゃくちゃ厳しい。5歳の時に猛獣ばっかりの森に置いてけぼりにされたし海獣の巣に投げ捨てられたこともある。

ああ……思い出すだけで寒気が。



トラウマを思い出して身震いしていると、前から見知った顔の男がひらひらと手を振ってこちらに向かってきていた。


「リリアンちゃん」
「クザンさ、あ、いや青キジ大将」


海軍本部の最高戦力と言われる大将の青キジ、クザンさんだ。クザンさんはわたしが雑用として働き始めた頃から色々とお世話になっている方だ。しかし流石に正式に海兵になった訳だしクザンさん呼びはまずいだろうと思い呼び直す。

するとクザンさんは少し残念そうに肩をすくめた。


「あららそんなかしこまらなくたっていいのに。今まで通りクザンでいいよ」
「いやでも、しかしわたしも一端の海兵になった訳ですし」
「リリアンちゃん飴玉食べる?」
「食べる、あ」



しまった。

わたしは反射的にその手に置かれた飴玉に手を伸ばしていた。飴玉を差し出したままくっく、と肩を震わせて笑うクザンさん。

もうこればっかりは癖だ。癖になっているのだ。


「えー、なんだったっけ、一端の海兵?おれからすればリリアンちゃんは今も昔もお菓子好きの可愛い女の子のままなんだよねえ」


そう言って飴玉を手のひらに乗せるクザンさん。それをありがたく頂いてポケットにしまった。


「……からかわないでくださいよ」
「からかってるつもりは無いんだけどね。リリアンちゃん元気なさそうだったからオジさん心配なのよ。なんかあった?」
「え、何で分かったんですか」
「ん〜、愛、かな?」


やっぱりからかってる。






「ん〜、なるほどねえ。ガープさんも相変わらず無茶を言う人だ」
「ですよね……まあもう慣れっこなんですけど」


じいちゃんに言われた海賊の討伐任務についてクザンさんに話すと、クザンさんはハハ、と小さく苦笑いをしてわたしの頭をポンポンと数回叩いた。

あ、ちょっとさっきできたタンコブが痛いです。


「まあでもおれもリリアンちゃんなら大丈夫だと思うよ、強いし」
「いや……嬉しいですけどわたしを過信しすぎですよ」


流石に修行はしていたと言っても5500万の賞金首を一人でやれると自惚れるほど強くはない。


「ま、オラジラつったらここからそう遠くはねェし、なんかあったらおれが助けに行くさ」


そう言ってクザンさんは自分の電伝虫の連絡先を教えてくれた。ありがたい、とてもありがたいことだが、クザンさんを呼んだ事が知れたらそれこそじいちゃんにころされる。

しかし心強すぎる味方を得たことによって不安はだいぶ和らいでいた。


「ありがとうクザンさん、わたし行ってくるよ」
「ああ、気をつけてな」


そう言ってクザンさんまたわたしの頭をポンポンと叩いた。


 
始まりの日

「ん、リリアンちゃんなんか背デカくなった?」
「いつまでも子供じゃ無いですからね」
「それにしては色気が無いよねェ」
「セクハラですよ」


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