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そんなこんなで入隊式を無事に終えた新兵はこれから教官の元で訓練を受けることになる。当然わたしもそれに参加するものだと思っていたのだが。
気付いたときにはわたしは海軍本部のとある一室で両膝をついて……簡単に言うと土下座、と言うものをしていた。いやさせられていた。目に前には鬼のような顔をした鬼ことガープ中将が仁王立ちしている。
広場を出るより先に捕まって引きずられてこれだ。
終了のお知らせである。
「寝坊じゃとォ〜!?お前はそれでもわしの孫かァ!?」
「ずみまぜん」
結局、有無を言わさずゲンコツを喰らい、わたしの頭には大きなたんこぶが3段くらいに積み重なった。本当になっているかは分からないけど体感的に、だ。
こぶを押さえながら顔を見上げる、と、まだ怒りは収まってないらしくわなわなと拳を震わせていた。
「じいちゃんはなリリアンのそういう抜けたところが心配で上からの指示を断って正式な入隊を遅らせとったんじゃぞ!!」
「そんなことしてたのじいちゃん」
「じいちゃんじゃとォ!?中将と呼ばんかァ!!」
「理不尽すぎる」
ガツン、という衝撃と共に理不尽にたんこぶが追加された。
確かにわたしは15の時から昨日までの3年間、雑用としてじいちゃんの下で働きながら修行をさせてもらってた。正式に海兵として働かせてもらえないのはわたしの力がまだまだ足り無いからだと思っていたのだが。
(え、ドジだからなの?確かに抜けてる自覚はあるけどさあ!)
「じい、いや中将!確かに寝坊はしました、したけど式には間に合ったわけだし昔ほどドジでも無くなったと思うんだけど……」
またゲンコツされるだろうなと思いながら下を向いてそう言った。しかししばらく待ってもゲンコツどころか返事すら無い。
恐る恐る顔を上げる。
「中将……いやじじい」
「ぐがーーーーーーーー!!」
寝てやがった。
「ねえボガードさん」
じいちゃんの後ろで苦笑いしていたボガードさんに声をかけると、ボガードさんは何だ、というように少し首を傾けた。ボガードさんはじいちゃんの部下でわたしのもう1人の師匠だ。
「わたしがこんななのって、育ての親であるじいちゃんがこれだからその影響も少しはあるんじゃないかと思うんです」
「まあ………………………………そうだな。自由なところは凄く似ていると思う」
めちゃくちゃ濁してるよボガードさん。
はあ、と小さくため息を吐いた。それとほぼ同時に頭上からパチン、と何かが弾ける音が。顔をあげると、目を覚ましたらしいじいちゃんが目をパチパチと数回瞬きしていた。
「いかん寝とったわい」
がははと大きな口を開けて笑うじいちゃん。いや本当に自由すぎるでしょう。
「あ、そうじゃリリアン。ボガードに行かせるはずじゃった任務にお前さんを行かせることにしたから」
「はい?」
「偉大なる航路前半の海賊の討伐じゃしリリアンなら大丈夫じゃろ!」
「海賊の討伐!?」
一体何が大丈夫なんだろうか。今日入隊したばかりの新兵を任務に行かせるなんて話し聞いたこともないしそれも偉大なる航路の海賊の討伐だなんて。
これが寝坊した罰だというのか……?
ボガードさんに目線だけで助けを求めるとこれまた苦笑いをしていて。全く助けてくれる気配は無い。
「……因みにその海賊の規模は」
「大したこと無いわい。オラジラというまあ小さな島を制圧しとるらしい、そうじゃボガードアレをリリアンにやってくれ」
あれ、と言われたボガードさんが何かをわたし手渡す。それは海賊の顔を懸賞金が書かれた“手配書”だった。
《島盗りジョゴラ
懸賞金 55000000ベリー》
「ちょっと数字が読めないんですけごひゃくごじゅう?かなうん」
「ごせんごひゃくまん、じゃ」
そんな馬鹿な。
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