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月の灯りが照らす甲板。水面に映る月がゆらゆらと揺れているのを見ながら、わたしはクザンさんの言葉を思い出していた。
オラジラを出航して間も無く、ちょっといいかい、と海賊たちの事情聴取に向かおうとしていたわたしを呼び止めたクザンさんは、バツが悪そうな顔で話を始めたのだ。
『おれァさ……アイツのこと結構心配してんのよね』
『アイツって、スモーカーさん?ですよね』
『あァ。リリアンちゃんとスモーカーはさ、おれァ結構いいコンビになると思うのよ』
『コンビ?』
『あァー、パートナーの方がしっくりくるかなァ』
ま、アイツのこと頼むよ、とクザンさんはハテナマークが浮かぶわたしの頭をぽんぽんと叩いた。
思い出すと自然とため息が漏れた。全く意図が分からなかったから。クザンさんはやはり不思議な人だと思う。というか、変だ。わたしなんかが自然系能力者で超強いスモーカーさんのパートナーになったら足手まといでしかないのに。
「こんなところで何やってんだお前」
「あ、スモーカーさん」
はっ、と我に返り声がした方を振り返るとスモーカーさんが煙を吹かせながらこちらに歩いてきていた。ちょうど今貴方のことを考えていたんです、とは言えない。わたしは首を傾げる。
「スモーカーさんこそどうしたんです?」
「おれァ別に……………………風に当たりに来ただけだ」
「はあ、?そうですか。あ、そう言えばクザンさんは先に帰ったんですね」
「あァ、お前が事情聴取してる間にな」
そう言いながらスモーカーさんはわたしの隣に立って、船の手摺に肘をついた。ジャケットごしでも分かる逞しい腕がすぐそばに置かれてドキリとする。
さっきまでは色々と忙しくて考える暇も無かったが……スモーカーさんの肉体は美しすぎると思う。何を隠そうわたしは重度の筋肉フェチなのだ。腹筋触らせてくれないだろうか。なんてそんな事言おうものならたちまち変態のレッテルを貼られることになるから言わないけども。
悟られないよう小さく咳払いをした。
「クザンさんって、変わってますよね」
「あァ……そういやお前青キジとどんな関係なんだ?奴の女、じゃねェよな」
「断じて違います!本部の雑用をしていた時にお世話になって、まあ、わたしから見たクザンさんは頻繁にお菓子をくれる親切なオジさんって感じです」
わたしがそう言うと、スモーカーさんは少し驚いたように目を見開いた。そして小さな声でそれだけか?と言うからわたしははい、と頷いた。クザンさんからもわたしは親戚の子供ぐらいに思われてるだろうしね。いや、ありがたいんだけど。
「いや、それにしてもお前に肩入れし過ぎじゃねェか?何か特別な理由があるんじゃ」
「あー……それなんですけどね、別にわたしに肩入れしてるわけじゃないみたいなんですよ」
特別な理由、と言われて思い浮かぶのはさっきのクザンさんのこと。
「クザンさん曰くわたしとスモーカーさんは良いコンビになるそうです」
クザンさんには、おれがスモーカーのこと心配してるなんて言うなよ気持ち悪いから、と言われたのでその部分は伏せる。案の定スモーカーさんは意味がわからねえと言った顔をして眉をひそめていた。さっぱり意味が分かりませんよね〜、とわたし言うと、バツが悪そうな顔でスモーカーさんは
「まァ…………何となく奴の言いてェ事は分かる」
と言ったのだが、同時にわたしの頭にはたくさんのハテナが浮かんで。どういうことですか、とハテナを浮かべたまま隣を見上げると彼は深く息をはいた。
それとともにもくもくとした煙がわたしの視界を覆う。
「スモーカーさん?」
「……まァ、青キジがそう言うんならそうなんだろうよ」
そう言ってわたしの肩を軽く叩いたスモーカーさんは、わたしが言葉を発するよりも先に船内へと足を向けていた。
「え、ちょ…………………………え?」
説明は無しですか?
未だたくさんのハテナを浮かべたまま、船内へと向かうスモーカーさんの大きな背中を唖然として見つめていると、突然その背中がピタリと動きを止めた。
立ち止まったスモーカーさんは一瞬、首だけをわたしの方へ向けて
「言い忘れてたが……さっきはありがとよ」
そう言うとすぐに船内へと姿を消したのだった。
残されたわたしはただ呆然とすることしか出来ない。誰か、わたしの足りない頭でも理解できるような説明をください。
猫可愛がりも程々に
「触りたい、ちょっとでいいから」
「あ?何言ってんだ」
「え、もしかして声に出、てた?」
「あァ。何を触りてェんだ」
「スモーカーさんの…………………………………やっぱり何でもないです!!さようなら!!」
「は?」
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