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「お嬢ちゃん!葉巻の兄ちゃんも!」


海賊の収容が終わりいざ出航をしようという時だった。声がして外を覗くと、軍艦が停められた港にはおそらく、島中の住人が集まっていた。その中には食堂の店主のおじさんと、その横にはさっき助けた奥さんと娘さんが。みんな笑顔で手を振っている。


「スモーカーさんスモーカーさん」
「あ?何だよ」
「ちょっとこっちに」


ちょいちょいと手招きをするとスモーカーさんはめんどくさそうな顔をしながらこちらに来てくれた。そして港を見下ろして、納得したように頷く。


「あァ、島の奴らか」
「お見送りをしてくれるみたいですね」


スモーカーさんに海賊の拘束をお願いしている間にわたしが向かった洞窟には厳重な牢屋とも言える鉄格子の檻があり、そこには食堂店主の家族をはじめ、宿屋や八百屋の家族など十数人の島民が囚われていた。どれくらいの期間だったのかはまだ分からないが幼い子供達は痩せ細っておりろくな生活をさせてあげていない事だけは分かった。一撃入れただけじゃ足りなかったな……と思ったのはここだけの話しだ。


わたしは島のみんなに笑顔で手を振り返した。


「さっきは本当にすまなかった!海賊に売るような真似しちまって!!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!」


思わず苦笑いをする。

もう既に港に来るまでに謝罪の言葉も、感謝もたくさん貰っている。ありがとうありがとうと島の住民みんなが言っているのが聞こえ、わたしはただ全力で手を振り返した。チラ、と隣を見るとスモーカーさんも小さく手を振っていて。この人本当見かけによらず良い人だよなあ……。とまた失礼な事を考えた。







そうこうしているうちに出航の時間だ。ゆっくりと船が動き出し、出航の数分後には島の影もほとんど見えなくなっていた。わたしはその様子を見届けて、甲板のあの人の元に歩み寄った。


「わたしまだ聞きたいことがいっぱいあるんですよクザンさん」


サマーベッドに寝転ぶその人のアイマスクを取って顔を覗き込むとさすがにクザンさんは少し驚いたらしい。ぱちぱちと瞬きをしたがすぐににや、と笑って。


「え、何、好みの女のタイプ?」
「それはボインでしょ知ってます」
「リリアンちゃんだけは特別だけどね」
「誰が貧乳じゃいゴルァ」


反射的にゲンコツをしそううになった。いかん、流石に大将にゲンコツしたらいかん。なんとか思い留まり拳を上げたままフルフルと首を振っていると、ぽん、と肩に手が置かれて。


「おれァ殴っても良いと思うぞ」


と、煙を吐き出しながらスモーカーさんが言った。


「え、じゃあ」
「ちょっ、おれ一応きみ達の上司ね、大将ね」


スモーカーさんの言葉通りやっちゃおうかな、と一瞬思ったが、慌てて起き上がったクザンさんがわたしの拳を止めるように腕を掴んだからそれは叶わなかった。まあさすがに止められなくてもしないけど。多分。


「ってそんな事はどうでも良いんですよ!」


いけない完全にクザンさんのペースに飲まれてた。わたしは掴まれていた腕を解いて、そのまま両手を己の腰に当てた。そして座っているのに目線があまり変わらないクザンさんを睨みつける。わたしは怒ってますよ、アピールだ。


「百歩譲ってわたしの為にスモーカーさんを応援に呼んでくださったことは理解しましたありがとうございます。でも何でその事を教えてくれなかったんですか?」


そう、百歩譲って、だ。じゃないとわたしが心配だったからなんて理由でこき使われたスモーカーさんが不憫でならない。本当すみません。


わたしの問いにクザンさんはいやァ、とかうーん、とか言葉を濁している。


「クザンさん」


ジッと、クザンさんの目を見つめると、クザンさんはやれやれと肩をすくめ大きめのため息をついた。


「……スモーカーに言わなかったのは、リリアンちゃんのことが心配だから何て言ったら行ってくれねェだろうと思って」
「当たり前ェだバカか」
「で、リリアンちゃんに言うのは普通に忘れてた、ゴメンネ」


そう言ってクザンさんはてへ、という効果音が付きそうなほどふざけた様子で両手を合わせて謝った。


何というか……この人が今日から上司になるのかと思うと凄く頭が痛かった。




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