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正直言って油断していた。能力で拘束したその男に逃れる術など無いと無意識のうちに思い込んでしまっていた。ガチャリ、と金属がぶつかる音がしたと同時に全身の力が抜けていくのを感じたときには手遅れで海賊達の拘束は解かれた後だ。

最悪の事態になる、そう思ったのとほぼ同時。

ブワリと強い風が吹いた次の瞬間、おれの足元には頬を大きく腫らし気を失った海賊……ジョゴラが倒れていた。


「え……これでごせんまん?」


ほんの一瞬の間に起きたそれを目で追うのがやっとですぐには状況が理解できなかったが、ようやく事を理解できたのは、目の前の女が両手をパンパンと叩き埃を払っている様子を見たときだった。にわかには信じがたいが、先程まで人質にされおれに助けを求めていたこの女がやったのだ。しかも一撃で。


「……お前一体何モンだ」


よいしょ、なんて色気のない掛け声で腰を屈め気を失った海賊の身体を漁り始めている女に声をかける。女は少しだけ視線をこちらに向けるとすぐに作業を再開した。


「多分、同業者だと思う」
「……海兵か?」
「うん、つい何日か前に入隊したばかりの新兵ですけど」
「はァ?」


海楼石で力の抜けた身体ではそう声をあげるので精一杯だったが正直かなり驚いている。入隊したばかりの新兵があれ程までに精度の高い剃を使えるのか。己より二回りほどもデカい男を一撃で沈めることができるのか。出来ないだろう。つまりこの女は只者じゃないと言うこと。


「あ!あった」


唖然、と女を見つめているとゴソゴソと漁っていた海賊のポケットから沢山の鍵がついたチェーンを見つけ取り出したらしく、その中から手錠の鍵らしきものを外しおれにはめられた海楼石の手錠に刺した。

ガチャリ。


「お、ビンゴビンゴ。外れましたよ手錠」


はい、と笑顔で外れた手錠をおれに向かって掲げてくる。自由を確かめるように身体を動かすと当然だが何も問題なく動かすことが出来た。


「すまねェ……油断しすぎだなおれァ」


能力を過信しすぎるのはおれの悪い癖だ。自分のことを新兵だと言うこの女が居なかったらどうなっていたか。軽く頭を下げてそう言うと女は少し驚いたように瞬きを数回繰り返していたがすぐにニコリと笑った。


「いやいや、海楼石の錠持ってるなんて思いませんもん。それより、恐らくこの洞窟の奥に囚われているだろう人質を解放してきますので、お兄さんはこの海賊たちの確保をよろしくお願いします!」
「何で奥にいるってわかんだよ」
「んー……………………………………感で」
「何だそれ」


ヘラヘラと笑いながらそう言う女に意味がわからねェと思いながらも気を失った海賊達を能力で拘束していく。女はジャラジャラと鍵のついたチェーンをぶら下げながら洞窟の方へ足を向けていた。そこでおれは大事なことを思い出し「おい」と背中に呼びかけると女は不思議そうな顔でこちらを振り返った。


「お前、名は何だ。おれァスモーカーだ」
「……………………リリアン、です」


リリアンと言ったそいつは元々デカい目を飛び出るんじゃないかというくらい見開いて驚いている。どうせおれの名前がピッタリだとかどうとかだろう。だとしたら失礼なやつだ。


「てめェ今失礼な事考えてんだろ」
「そんな、馬鹿な、あははははは」



どうやら図星らしい。



島盗りと白猟
(スモーカーって……ええええ。そんな産まれたときからヘビースモーカーになる運命だったみたいな名前。えええええええええ)
「顔に出てんぞ……分かりやしィなてめェ」
「そんなこと無いですよス、スモーカーさんっ」
「笑ってんじゃねェよ、さっさと人質解放しに行け」
「分かりました、スモーカー さん!」
「一々名前を呼ぶんじゃねェ!」


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