(1/3)

「動くなよ!動けばこの女の首が飛ぶことになるぜ」


ギャハハとわたしの耳元から聞こえる下品な笑い声。身動きが取れないように両手を縛り付けられ、首筋にはナイフが突きつけられている。あの作戦で行くぞォなんて丸聞こえな作戦会議をしていたから何が起こるかは予想していたけど。

目の前では葉巻の男がギロリとわたしを人質にとった海賊を睨んでいる。その後ろで店主のおじさんが青ざめた顔をしているのだが、あんたが呼んだんじゃないのかこの海賊、と呑気なことを考える余裕がわたしにはあった。


「ちょ、ちょっと、そのお嬢ちゃんは関係ないってさっきも言ったはずじゃ」
「うるせえ!誰に口きいてんだてメェ!女房と娘がどうなってもいいのかアン!?」
「そ!それだけはご勘弁を!」


店主は声を震わせながらそう言ってその場にへたり込んでしまった。それを見て鼻を鳴らす海賊。


「それでいい。大事な家族を死なせたくなきゃてメェはこれからも俺たちに従ってれば良いんだよ」


1人の海賊のその言葉に、その場にいた海賊達全員がギャハハと下品な笑い声を上げ始めた。

ああ、吐き気がする。

つまり店主の家族を人質にして情報を集めさせてたってわけだ。


「……外道が」


男もその事に気がついたらしい。短い舌打ちとともにその言葉を吐き捨てた。まあ勿論、腐れ外道海賊がその言葉を聞き逃すわけもなく、わたしの首に突き付けられたナイフが皮膚を押し上げてくる。

血が出るんじゃかないかな、これ、なんて呑気に考える。


「あぁ?おい兄ちゃん、言葉には気をつけろよ?この女がどうなってもいいなら話は別だがな」


またしても下品な笑い声をあげる海賊たちに、わたしはため息をつきたい気持ちでいっぱいだった。

正直言って、こんな雑魚やろうと思えばいつでもやれる。

しかしこの場にアイツ、こいつらのボスであろう賞金首の姿が無い以上そうする訳にはいかない。こいつらをやったところで問題の解決にはならない訳で、どうにかしてこいつらにはボスの所まで連れて行って貰わなければならないのだ。


「……てめェらの要求はなんだ」


ナイフを突きつけられたままどうしたものか、と頭を悩ませていると目の前で男がそう言っていて、直球だなぁ……なんて感心する。


「言葉には気をつけろと言ったはずだが……まあいい、用があるのはてメェだ、男。ボスが呼んでる。大人しく付いて来い、さもねえと女は殺す」


ナイフで首筋撫でるのやめて欲しい。気持ち悪い。思わず吐きそうになるのを耐える。ダメダメ。此処はいたいけな少女を演じないと。泣き真似でもしておこうか。


「や……助けて……」


わたしは渾身の演技、泣き真似で男を見つめてみた。すると男は小さく舌打ちをしてギロリと海賊どもを睨む。


(え、失敗した?)

「ギャハハハ助けてだとよォ!!どうする兄ちゃん!大人しく俺たちに捕まるか、この女を見殺しにするかァ!?」


なおも下品な笑い声を上げる海賊達。まじで何が面白いんだこいつら。


「……クソが」


男はそう言って、続けて小さな声で言ったのだ。


“てめェらのボスに会ってやるよ”


わたしは心の中で小さくガッツポーズをするのだった。

prev next


back
 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -