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慌てて煙を剥ぎ取ろうともがくが、その煙は流動的で掴むことが出来なかった。掴もうと思えば掴めるが特に男から敵意は感じられなかった為抵抗をやめる。ただ静かにしろと言われているだけの様だった。

男は静かにわたしの方へ歩いてくると、隣の席に腰を下ろした。沈黙が訪れる。

初めは男の意図が分からなかった。

しかしそれは沈黙が続く事で分かることになる。この店にはわたしと男と店主一人しか居ないはずなのに厨房から声が聞こえるのだ。注意深く耳をすますと、どうやら誰かと電伝虫で連絡を取っているらしかった。


『はい、はい、この店に2人。1人は若い姉ちゃんでこっちはただの旅人で害は無いはずです。しかしもう1人の男がどうも怪しい。見てくれもかなり怪しいがその言動、“用があってこの島に来た”なんて言うんですもしかしたら海軍の……ええ、ええ、え?姉ちゃんの方もですかい?……ええ、分かりました……はい』


わたしはその内容に驚いて己の耳を疑った。まさしく密告、といった内容だったから。やはりあの店主、何かしらの形で島の裏側と繋がっていたのだ。

ごくり、と息を飲む。横を見ると男もわたしを見ていた。男は眉間にシワを寄せるとずい、と耳元に口を寄せた。


「おい、お前今すぐこの島を出ろ」


口は煙で塞がれたままのため返事をすることは出来ない。わたしはパチパチと数回瞬きをする。すると男は、でけェ声出すなよと言いながら煙を元に戻した。


「えっと……お兄さん海兵なんですか?」


そう、問題はここにもある。あの店主はこの男が海軍のなんちゃらと言っていたが、もしそうだとしたらわたしはなんなんだ。という話になる。だからその可能性は極めて低いと思うのだけど。


「さァな」


めちゃくちゃ怪しい。そんな想いを込めて男をジー、と睨むと、わたしの視線に気づいたらしい男と目が合った。


「……そんなこたァどうでもいい。厄介なことに巻き込まれねェうちにとっととこの店出た方がいいぞ」


煙を吹き出しながらそう言う男。まあこの男が海兵だろうが海兵じゃ無かろうが、この島について何か知っていることは確かだ。そしてその事で用があってこの島に来ているんだと思う。もしかしたら、目的はわたしと同じなのかもしれない。

わたしははあ、と小さくため息をついた。


「それは出来ません。わたしもこの島でやらなきゃいけない事があるので」
「やらなきゃいけねェ事だと」
「……お兄さんなら分かるんじゃ無いかな」


これは賭けだ。男がこの島の海賊では無いと見越してカマをかける。もし、目的が同じなのであれば協力するに越したことはないでしょう?男の目を見てニコ、と笑うと男は少し目を見開いて信じられないと言う様に頭をかいた。

その時。


「いやー、すみません、お待たせしました。あれ、お兄さんこっちに座ったのかい」


厨房からパスタの乗った皿を抱えた店主が出てきた。その顔には笑顔が張り付いているが、わたしと男をチラチラと交互に見て少し表情が曇っていた。


「それに、なんだか親しげに話してるみたいだけどあんたら知り合いだったのか?」
「いいえ。旅人同士、少しお話をしていたんです」


わたしはニコリと笑う。男もはっ、と鼻で笑った。


「あァ、野暮な事聞くもんじゃねェぞオヤジ。若ェ女に声かけるのに理由なんかいらねェだろ?」


うっわチャラ。と、思わず漏れそうになった声を必死に押し殺して、まあ、と驚いたフリをしてクスクスと笑った。


「ああ、そうかいそりゃすまねえ。どうぞ“ゆっくりしていきな”」


店主はそう言ってまた、ガハハハと大口を開けて笑った。ゆっくりしていきな、と。先ほどまでは長居はオススメしないなんてことを言っていたのに。ゆっくりしてれば何かあるのだろうか。お望み通りゆっくりしていこうと再びグラスを口につけたその時だった。


バンッ!!!!!!!!!


と激しい音と共に開け放された扉から無数の足音が室内に入ってくるのを背中越しに感じる。慌てて振り返ると、そこにはいかにもといった風貌の男が数十人、それぞれが武器を構えて立っていた。


間違いない、海賊、だ。


「……来たか」


そう言った声が隣から聞こえ、顔を覗くと男は前を向いたままニヤり、と効果音が付きそうなほど不敵に笑みを浮かべていた。

その表情にまたぞくり、とわたしの背筋が凍りつくのだった。


奪われた島

「お、おい……あの男めちゃくちゃ強そうじゃねぇか?!」
「うるせぇ怯むな!ボスに殺されるぞ!」
「……俺たちだけでやれんのかよ」
「や、やるしか、ねねねねぇだろ!?」
「よ、よし、あの作戦で行くぞ」


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