(2/3)
眼を向けた店の入り口には筋骨隆々、とてもガタイのいい強面の男が立っていた。口には葉巻を二本咥えていて、いかにも輩といった風貌の男。
その男は黒いジャケットの前を全開にしていてその下には何も身につけていない。太く逞しい首筋、見るからに厚い胸板、ストイックに鍛えられているであろう腹筋は八つに割れている。
わたしはいつのまにか手に力を入れることを忘れていて、持っていたフォークを落としてしまっていた。
「どうしたお嬢ちゃん、大丈夫か?」
「あ、ええ、ごめんなさい、大丈夫です」
店主が心配そうに声をかけているが本当は大丈夫なんかじゃない。
(ダメダメ……任務中なんだから)
しばらく目を離せないでいると、店に入ってきた男はドカリ、とテーブル席に座りギロリとわたしを睨んだ。
「何だ、女」
「……すみません、何でも」
その視線はまるで獲物を狩る獣のような目でじいちゃんとまた違った恐さにわたしはすぐに男から目を逸らした。その様子に店主のおじさんは苦笑いをしていたがすぐに男に声をかけた。さすがは商売人といったところだろうか。
「いらっしゃい、お兄さんもこの島じゃ見かけない人だね。旅の人かい?」
「……も?」
店主の問いに、今度はギロリとそちらを睨む男。店主は冷や汗をかきながらわたしに目配せしてきた。言っても良いか?って事だろうか。まあ別に問題ないのでどうぞ、という気持ちを込めて頷く。
「いやあ、このお嬢ちゃんも旅の途中でこの島に寄ったって言うんでな。何せこの店、いやこの島に客人が来るのは珍しい事だからよ」
いやはや、というような様子でそう言うおじさんは相変わらず笑顔だ。
わたしはその様子に少し、違和感を覚えた。何かを隠していることは先程の様子から分かってはいるがどうもこのおじさんは隠し事をしているだけではなく何か企んでいるようなそんな気がするのだ。言葉にするのは難しいのだがわたしの感がそう告げている。
チラリと男の方を見ると男はニヤリ、と不敵に笑っていた。その様子にぞくりと背中が冷える感覚を覚える。
「あァ、そうか。おれァこの島にちょっとした用があってな」
その男の言葉を聞いて、おじさんの眉がピクリと動いたのをわたしは見逃さなかった。平然を装っているが、何か警戒しているようなそんな表情。
「へえ、そりゃどんな用だい?」
「てめェにゃ関係のねェ話だ。それよりおれにもその女と同じやつをくれねェか、腹が減って仕方がねェ」
男はハッ、と鼻で笑ってそう言った。
店主はああそうかいそりゃすまねえ、と苦笑いをしながらもお嬢ちゃんと同じパスタだな、と言って厨房へと姿を消した。
店内に残されたわたしと葉巻の男。
男を見ると葉巻の煙をプカァ、と吹かしているところだった。
それにしても、さっきの話によるとこの男はこの島の住民では無いらしいが……見かけは完全に輩だ。海賊だったりするのだろうか。だとしたら見逃すわけにはいかないが騒を起こすわけにもいかない。どうしたものかと考えているうちに思わずじっ、と見つめていたらしい。
「……おれの顔になんかついてるか」
そう言って男はまたギロリとわたしを睨んだ。反射的に目を背けそうになる。しかし何故だろう、なんだか逸らしてはいけない気がして、わたしは男の目を見てニコリと笑った。
「いいえ、何も」
「変な女。あァ、一人で旅をするくれェだからそりゃァ変か」
「お兄さんこそ変なんじゃない?この島は用があって来るような島じゃないと思うんだけど」
「なかなか失礼な事を言うじゃねェか。まあ、お嬢ちゃんには分からねェだろうな」
そう言って男は煙を吹かす。その言い草に段々腹が立ってきたわたしは言い返してやろうと思い口を開いたその時。
「お嬢ちゃんってわたっ、」
何かに口を塞がれ声が出せなくなってしまった。よく見るとそれは白いもくもくとした煙のようなもの。その煙は男の方から出てきていた。
これはまずい。
back