私の今の休みは平日の水曜と休日の日曜だ。そして今日は水曜だ。だから店の中で行き交う人が少ない。これは良いね。
「ところで明王君」
「んだよ」
「なぜ帽子かぶってないし？」
「今の時期にニット帽って。アホ丸出しじゃねーか。それに俺似合わない」
「(いや似合いはするだろう)…まあ…。でもだね？君の頭、目立つんだわ…」
「それで俺を低評価するような奴に興味ねえから」
うん言ってる事は超カッコいい。でもだな？…まあいいか。諦めの早い私は買い物カゴを手にとる。それを強引に明王君に押しつけると何だよと顔をムッとされた。だが私はにこやかである。お前さん、それは可愛いだけだぞ、とツッコんでやりたい。むぎゅってしたい。
「タオルとかコップなんぞは私の見定めでゆく。服は己で選ぶ、はいっお金」
「ああ…さんきゅ」
…ホントに感謝してるんだか分からんが可愛いから許す。明王くんは諭吉さんを三枚受け取ると何処か気だるそうに歩いていった。渡しすぎ？まあ良いじゃないか。
さて私はどうしよう。ぐるんと明王くんとは違う方向に歩いていく。しばらくぶらぶらしていたらメモ帳やらタオルやらがやたら可愛らしい小物が売られているふんわりとした雰囲気の店を見つける。
あれー、こんなとこあったっけー…と記憶を掻き出してみるけど無い。すると隣を通り過ぎていく、私と同じくらい若い女の人二人組が「ここ最近出来たんだよね〜」「きゃー、可愛いじゃん！」なんて言っていたから。そうそう、ここは前まで靴屋だったような。お店のバイヤーさんの人柄良さそうな良い感じの靴屋だったのに何かちょっとショックだったが、ここなら色々揃いそうだなと私は中へと入った。
「(あ、バナナ柄のコップ…)」
一番最初に目をつけたのは下地が黄色でオレンジの水玉模様の中にどでかく三つ子のバナナが主張されているもの。運命を感じた。何これ可愛い。
するとその隣にバナナのカップと対になるような、何故かピンクの下地に赤の水玉模様のトマトのカップが。何これ可愛い。
思わずカゴに入れてしまっていつの間にかお買い上げ。今使ってるカップが大分年期入ってたから、私の分ってことで二つ。どっち使うかは後で明王くんに決めてもらおうそうしよう。…今更だが、男子中学生はこんな可愛いもの使うのだろうか。
「…まあ、使えりゃ何でも良いよね」
深く考えない事にした。他にもタオルやら歯ブラシやら必要なものを次々にカゴに入れる。ついでに無くなりかけてた洗剤とトイレットペーパーを。しばらくは困らないな。満足。
カートの上のカゴが一杯になった。ｶﾞﾗｶﾞﾗと煩い音をたてて他に何か買い忘れは無いかなと考えている私の横をちっちゃいガキんちょが通り過ぎて行く。ママ待ってぇ！って可愛いなおい。微笑ましい光景の先に見知ったモヒカンが見えました。
おや、明王くんじゃないかーと思ったら彼の傍には先程の店で見かけた若い女性二人組が…って何囲まれてんだよ。あんなの漫画の世界でしか知らないよ。別に私が根暗だったってわけでは無いが、ああいう、キャーキャー言うタイプでは無かったのでしばらく傍観する事にします。助けろ？無理。チキン。
「ねー君名前は？」
「…あきお」
「キャーあきお君だって！かっわいー」
「学校は？」
「……」
「さぼり〜？悪い子ねーっ、じゃあお姉さん達と一緒に遊ぼーよ」
「いや…。やめときます」
「そんな事言わないでさあ…」
言い寄られとる言い寄られとるわはは。ぱち。心の中でほくそ笑んでいると彼と目が合いました。わお。明王くんは私に気付いた。助けろと目で訴えられても名前お姉さんはチキンなんで無理ですまる。
「名前ねーちゃん」
だから彼が私の名前を呼んだなんて嘘だ。バッチリ私の方見て呼んだなんて、嘘であるまる。若い女性二人組はジロリと私を舐めまわすように(この表現汚いな)見つめた後、連れがいたのかと面白くなさそうに去っていった。一生分の鳥肌たった。
今の時間に中学生がショッピングモールに一人で来てるわけないだろう。その中学生を野放しにしていた私も私でした。すみません。
明王くんは、さっき買ったのであろう新しい服の入った袋を手に下げ重い足取りで私の方へと歩み寄ってくる。凄く何か言いたげな顔だ。人の事を蔑む目だ。いつから私は彼にこんなに見下されるようになったのだろうか。最初から？うるさい。
「何やってんだよ」
「こっちの台詞だよ。何逆ナンされてんだよ」
「つーか助けろよ。可愛い中学生がナンパされてんだよ」
「自分で可愛いとか言うな可愛いけど。ごめんね、名前ねーちゃんチキンなのよ」
「駄目な大人がいる」
「誰がチキン南蛮だって？」
「言ってない言ってない」
私は加減されたにしてはやけに痛かったチョップを食らった後、お詫びとしてお店の中にある飲食店のレストランでパフェを奢らされた。
(あ、明王くん)
(んだよ)
(どっちがお好み？)
(何でよりによってバナナとトマト…嫌味？)
(えー？)